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人間の能力が機械に「採点」されるレーティング時代が来る

タイラー・コーエンの『大格差—機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』を読んだ。AI(人工知能)の研究がこれまでどんな歴史を辿り、そしてどこへ向こうとしているのか、概ね理解することができた。前提知識が欠けすぎているので、この本について解説したり批評したりすることは、今の私には難しいのだが、数多くの指摘の中でもとりわけ私の心を揺さぶったトピックがあったので、紹介したい。


レーティング時代

もっとも心揺さぶられたもの。それは「レーティング時代」というものである。

レーティング時代とは、ここでも止むなく前提事項を省略することになってしまうが、

一人ひとりの働き手の長所と短所が数字で明確に把握されるようになる

時代ということなのだ。

『大格差』によれば、評価の対象になるのは特に専門職の人材である。例えば、医者や弁護士。彼らの出身大学はどこか、どんな案件をこなしてきて、どんな評価を受けているかetc...。

実はこういった傾向はすでに存在する。レストランのクチコミサイトだってそうだし、クラウドソーシングサービスにおいても仕事を依頼する前にフリーランサーの評価や実績をチェックすることができる。

これに、さらに様々な評価軸が加えられ、しかも「こういう傾向を持った人はこういうタイプ」というオマケ情報までついてくるかもしれない。それが、あらゆる分野で起こってくるのだ。

これによって何が起こるか?

まず、「どの弁護士に依頼するか」を決める前にまず必ずレーティングをチェックするということになるので、消費者が力を持つ。そして、これまで以上に厳密に数値で能力が表されるようになると、当然高い能力を持つ弁護士は非常に高額になる。そして、逆も然りである。

そうすると、おそらく金持ちは、高い金額を払ったとしても最上位の弁護士に依頼しようとするかもしれない。そして、お金のない人は、レーティングにおいて何か欠点のある安い弁護士を選ぶだろう。

レーティングは消費者に力を与える一方で、消費者・専門職人材双方の格差を助長するとも言える。

しかし、レーティングされるのは消費者も同じで、医者の方も、粗悪な患者からの仕事依頼は受けなくなるかもしれない。だが、悪い評価が付くことを恐れようとも、レーティングを避けることはできない。なぜなら、評価のない人には仕事を依頼しようとは思わないからだ。

ただ、機械がそうだというものが、必ず正しいとも限らない。最後の判断は人間にゆだねられている。それでも、消費者にとっては自分の判断を助ける良い材料になるかもしれない。


「人間と機械の恊働」

レーティングの話以外にも、たくさんの気づきがあったのだが、もし興味のある人は、本を読んだ方が数倍わかりやすいと思うので、ここでは私が気になったトピックのサマリーだけ記す。

・人工知能の発達と、社会への浸透により、ますます賃金格差は広がり、二極化する。逆に中間層はいなくなる。

・人間は機械の力を必要とし、しばらくは機械も人間の助けを必要とする。機械が人間の雇用を完全に奪うというよりは、当面は人間の仕事の生産性を上げるための手段として機械は存在し、いかに機械とうまく「恊働」するかが重要になる。

・患者に診断を下すのは、専門知識を持った医者である必要はなく、医療知識が詰め込まれたコンピューターと、そこから上手く情報を引き出すことのできる人材がいれば十分になるかもしれない。

・つまりこれからはコンピューターとうまく恊働できる人材が求められる。

・恋愛の相手についても、機械の判断を仰ぐ時代が近い将来やってくる。

・アメリカの戦闘機に搭載された人口知能によって、戦闘機自身がある標的を攻撃するという判断をするようになるかもしれない。(人間は自ら判断に加担したくないと思う)そうすると、ある意味で誰も責任を問われなくなる。

などなど。

本書は非常に平易な言葉で書かれているし、主張も単純明快で、分かりやすいので、興味のある方はぜひ。

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