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わたしと保湿とアトピーの話

わたしは先天性の酷いアトピー持ちだった。

小さい頃は周りの男の子たちに「病気がうつるから近づくなよ!」といじめられていたし、水泳教室では誰も友達になってくれなかった。
こどもはほんとうに残酷だと思う。

幼稚園児のころ、なぜわたしをアトピーに産んだんだと母親に泣きついた。心からの叫びだったが、「うるさい」と怒鳴られた。
ひどくない?


結婚式の折、幼少の頃の写真をスライドにしなければならなかった。

わたしの幼少の頃の写真は目の周りや首の周りがいつも赤く腫れていて、とてもハレの日にお見せしたいものではなかった。
また、ふつうに健康そうで超絶可愛かった夫の写真と並べるのも嫌だった。

そのため、ましなものを血眼で探す作業が辛かった。
⇩マシなもの(顔みえないがち)

わたしにとっては、「肌が汚いこと」が生まれて初めて抱いたコンプレックスだった。


小学校高学年のある日、「体をクリームなどで保湿するとあまり痒くない」という革新的な事実に気が付いた。

アトピー持ちは熱が体にこもりやすく、体表だけが熱いため乾燥肌であることが多い。
熱のこもるところは例外なく湿疹で爛れ、指先はいつも包帯でぐるぐる巻きだった。

その頃はヒルドイドなどの便利な保湿剤はなかった。いや、あったのかもしれないが、少なくともわたしが通っていた皮膚科の医者(中年男性)はそんなこと教えてくれず、ステロイドの軟膏と硬いワセリンしか出してくれなかった。ワセリンを顔中に塗りたくったらベトベトするし、それはそれでいじめられるだろう。
そんな便宜を図ることは誰も考えず、ただわたしに「保湿ならワセリンを塗りなさい」と言った。あの頃のわたしがヒルドイドを処方されていたら、あんなにお金を使って苦労することはなかっただろうと思う。

保湿すると痒くなくなることに気づいたわたしはお小遣いの全てをドラッグストアに注ぎ込むことになった。化粧水の小瓶が増えていくたび母は「こんな無駄使いして」と怒った。わたしの母は見た目を繕うことに全く興味がなく、またアトピーでもなかったため、終ぞわたしの悩みに寄り添うことがなかった。ドラッグストアしか行く場所のなかったわたしがたどり着いたのは、アルージェという敏感乾燥肌用のスキンケアラインだった。

しかしわたしのお小遣いでは揃え続けることができず、親も出資してくれなかったため臨時収入が入るたびに買いに行っていた。
結果、おばあちゃんからもらったお小遣いは全部化粧水や乳液、クリームに消えた。顔や体をしっかり保湿し、湿疹ができたらその都度ステロイドの軟膏を塗る。それだけで嘘みたいに肌が綺麗になった。肌が汚いからという理由で男子にいじめられることも、女子から遠巻きにされることもなくなった。

高校生くらいになると、ニキビができにくい体質のためか「なみきちゃんは肌が綺麗だね」と言われることの方が多くなった。

彼らはわたしの暗黒の幼少期をもちろん知らない。
風呂を出ると数秒で乾いていく肌に慌てて化粧水を塗るわたしを知らない。
寝る前に湿疹に軟膏を念入りに塗りこむわたしを知らない。
「肌綺麗だね〜」と言われるたびに「まじで〜?(笑)」と返した。

高校生の時、酷いアトピーの子がクラスにいた。その子は夏でもセーターを着ていた。
アトピーの子は肌が汗に負けてしまうから、なるべく通気性の良い格好をすべきなのだが、湿疹だらけの腕が恥ずかしいのだろう。
わたしにも身に覚えがあり、見ているだけでとても心が痛かった。

その子から偶然アトピーの話を聞く機会があり、詳しく聞くとその子の親が脱ステロイド主義で、湿疹が酷くなっていく一方だと言う。
脱ステロイド主義?湿疹に苦しんでいるのは親ではなくてその子だ。その子が楽になるように治療を優先するべきだろう。わたしは初めて人の親に怒りを覚えた。

そして自分がアトピーであることと、通っている皮膚科を教えた。
その頃のわたしは一見しただけではアトピーとわからないくらい症状が落ち着いていたので、その子は「ほんとになみきちゃんもアトピーなの?わたしもそんなふうになれるかな」と目を丸くした。

数日後、わたしはその子に「命の恩人だ」と言われた。別に命の恩人ではないが…。
なんでも親と一緒にわたしの通っている皮膚科に行き、脱ステロイドの状態を叱られたそうだ。

親というのは権威に弱いもので、医者に叱られると考えを改めるものだ。うちの親もそうなのでとてもよくわかる。最初に脱ステロイドの医者に当たったのは不幸としか言いようがない。

その子の肌はみるみるうちに綺麗になった。

その子が半袖のシャツを着るようになった時、わたしはほんとうに良かったと思った。
脱ステロイド主義は馬鹿。これはマジです。


先日親友の実家でご飯をいただいたときに、親友のお母さんに「なみきちゃんはほんとにお肌が綺麗ね!羨ましいわ〜〜!」と言われた。
わたしは「そんなことないですよ〜〜」と答えた。

実際ほんとにそんなことはなくて、SLEに伴って紫外線過敏症になったからか、そばかすがすげ〜〜できる。紅斑も出まくる。
さらに季節の変わり目は肌が荒れやすいから細心の注意を払う。最高の状態ではなかったと思う。
まあそんなことは親友のお母さんの知るよしもないので、わたしはそのやりとりに何も思ってなかったのだが、あとで親友が「なみきは昔アトピーで苦労したから、凄まじい努力をして今の状態を作り上げている、気軽に羨ましいとかいうな」と言ってくれたらしい。

別にそんなこと言わなくてもいいしそんな怒る?とも思ったんだけど、理解者がいるのって幸せだな〜〜と思った。サンキュー親友。


大人になった今では、「アトピー持ちなんすよ」と明かすと驚かれるくらいになった。

でも、わたしの心の奥底にはいつも「きたねーから近寄んなよ」「きもちわりー」と言われて泣きながらしゃがみ込んでいるわたしがいる。

あの頃に戻ってしまうのが怖くて、湿疹一つも許せないわたしがいて、わたしはそんなわたしが怖い。まるで不安障害だ。


最後に

体の保湿にはユースキンかフタアミンクリームがおすすめです。

肌荒れやニキビ、口唇ヘルペスは迷わず皮膚科に受診を。
ちなみに塗るステロイドは怖くないです。
体に蓄積して怖いのは内服する方。

医者行くのがめんどくせえってやつは知らねー、一生悩んでろバカ


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