マガジン一覧

訪れ #散文詩

あたたかい陽の光が 静かに地球の背中へ帰っていく頃 作業着を着込んだ男性が 冷たく渇ききった頬で交通整理をしている ふと見上げて何かに気づき そこへ歩み寄って行った 誘導ライトを地面に置くと 樹木を見上げながら スマートフォンをかざしている 桜の蕾     不器用で硬くなった人差し指が 丁寧にシャッターを切っていた ヘルメット姿のその向こうに 帰りを待つ 家族が見えた気がする 彼はそれをポケットに戻して 役割へ戻って行った 春はもうすぐだ #詩 #散文詩

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太陽の輪郭 #散文詩

静まり返った地球で 人々が立ち止まっている 豊かさの真の姿を見つめながら いま新世代の 生存本能が試されている 物質的な世界と別れて 心に吹く新しい風と出会っていく 信じたことが現れているんだ もう風を読むことはない だれかの顔色で変えるな自分 サングラスをかければ 太陽の輪郭がよく分かるように 見渡す景色はすべて自分次第 心を開いて動いていけば 必ず拓いていくこの世界 いまを 強く生きるんだ #詩 #散文詩 #風の時代

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カラフル #散文詩

空っぽの実家を見てきた 11歳の夏 移ってきた頃の 打ち上げ花火を覚えてる あのときの家族は あのときで最後だった そして町が街になった いつか開けた壁の痛みも 床に流れ落ちた雫も 段ボールに収めた絵日記になっていく もう響くことのない足音は 心を打ち続けているよ そして 思い出たちは賑やかに 空間をラストスパートしている あの日 空を描いてくれた 打上花火のように カラフルに #詩 #散文詩 #思い出 #実家

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迷信の風 #散文詩

いってきますを伝えてきた 天空の玄関があった 扉の次に扉があって たどり着かない はてしない物語 上から覗いてみたい迷宮 雑誌のスクラップな記憶は いつも僕を僕でいさせない 転んで起きて歩き出す 誰もがそんな時代を通過してきたが すり傷を恐れて走ることをしない 涙が心を洗う日があれば 笑顔で不安を塗ることもある 少なくとも車内にはルールがあり 景色と乗客が旅を彩っていく 生きていれば続く今日 一生は数えきれない今日 あしたはいつまでも訪れない 毎朝ダウンロードし

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