夜明け

とわさんと「行ったことの無いバーに行こう」ということになった。

バンドのことを相談したり楽しい思いつきをしたり他愛もない話をして盛り上がったのだが、
どういう流れだったか、たまには知り合いではない人と会話をすることも大切だという話になったのだ。

夢や希望のある話をした後、僕らは無敵になる。早速飲み屋街へ繰り出した。



無敵になったはずの僕らだが、気になるお店があっても「いやーココはもう1軒挟んでからが良いな」だの「悪くないが土着的過ぎるのは気分じゃない」だのあーだこーだ文句を言いながらスルーしていく。そう、はじめの1歩は誰だって勇気がいるものだ。


いくつかのエリアを散策して、自分たちがいるところを想像して1番しっくりくるお店をようやく発見した。
一旦通り過ぎ、店も無くなってきた辺りでそこのお店が本当に1番であることの確証を得たので、道を引き返し、お店に入った。


L字のカウンターがあるだけのこじんまりしたお店で雰囲気もよく、元バンドマンで音楽好きの店の人や数人のお客さんとも会話が弾んだ。


酔いもいい感じになってきたところで、お客は僕らだけになった。

店の人も音楽の話をするのが久々だったのか会話の主導権が店の人になりつつあり、気づくと僕らが聞き手に回っていた。

オススメのバンドなどをお互いに教えあって店のスピーカでかけてもらっていたのだが、とうとう店の人から君らの曲が聴きたいと言われてしまった。

それぞれ1曲ずつ自薦を要求され、他に誰もいない店内で、自分が演奏した曲が響く。


完全に酔いが覚めてしまった。

曲が終わると、今日はこの辺りで…と店を追い出された。


結局音楽の話をしてしまった。それはそれでいいんだけど。


店の人から「君らも音楽で食っていきたいんですかーっ?!」と訊かれたのが印象深い。

店の人はもうすぐ50歳で、やっていたバンドは「チョーシよかった」らしい。しかし、何があったのか、30歳を過ぎた頃にバンド自体やめてしまったそうだ。

僕らは質問に対して、「一応、まあ、はい」と、困惑とも自信が無いとも受け取れる、曖昧な受け応えをした。



「ああいうルートもあるんだなー」ととわさんがボソっと言った。「ねー」


「長く続けますよ」

「がんばるどー」

夜明けの街をそれぞれ帰路についた。

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