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2024/7/2 ゴールデンアワー

誰にでも訪れるゴールデンアワー
あんたにだっていつかその腕ん中

俺が誰であるかなんてもんはここじゃ関係せず
俺が鋼で五つの弦を持つフェルナンデス
ZO-3である事を彼女は終ぞ知らず
もちろんそれで十分で俺の結末は動き出す
俺は楽器と呼ばれた 俺はエレキと呼ばれた
なんとでも呼べばいい 俺は今ハチャメチャに暴れたい
俺はデカイ音を出すため生まれ今やゴミ捨て場の掃き溜め
祈ったさ 全ての捨てられたものに幸あれ
幸か不幸か そこで最後のプレイヤーに出会った
俺を拾って彼女は笑った 俺には分かった 彼女は狂ってた
彼女は14歳でこの世を憎んで鬼気迫ってた
教本通りのコード練習 クラスの連中や父親にやられて
握力のない手で弱々しくFを抑えた
雨の日は痛みを堪えた 感情は途絶えた でも死んでない目が答えさ
彼女は思ってた ロックスターにならなくちゃ
ロックスターになればこの家を出ていける
ロックスターになればこの町を出ていける
ロックスターになれば…

彼女にとってロックは手段だ 故に意味はなく下らない
彼女はそう疑わない 良し悪しは俺には分からない
ロックだとか音楽だとか言うのは人間だけでいい
俺はデカイ音が出せりゃいい ハイボリュームを味あわせたい
でも内蔵のアンプは死んじまってて
調律は腐ってて 今じゃ狂った小さな音が精々
それは彼女を止める理由にならなかった
彼女はロックを疑わなかった 彼女のロックには歌がなかった
言葉のない世界で狂った音が舞うのだ
損なえない世界じゃ振るったものが勝つのさ
ふざけた勝手なルールだとしてもそういうものがあってさ
明後日な方向に進んだやつから暗転だ
破滅はいつも甘美だ 続けることとは段違い
明確な敵はなく行き詰まってる状況が犯人だ
彼女の音楽は誰も何処へも連れてかない
真っ向から抗うことが正しさの全てじゃない
学校じゃ穢れに耐え 酒は父を嵐に変え
一番弱いところに理不尽がいく仕掛け
いい加減気づくべきだ 何もかもうまくはいかねえ
もちろん思想は届かず日常の最果て
時間は液体だ しかし容器はそれぞれ出来合いだ
いっぱいになったやつから転ぶ 未来は簡単に綻ぶ
俺にはちゃんとわかってた 快と不快の重ね合わせさ
ただ静かに俺のゴールデンアワーを待ってた

そしてゴールデンアワーはやってきた

最高のライブ一曲目は父親へのフルスイングだ
男の呻きより先に内蔵アンプが俺にウインクした
俺は叫んだ コード進行じゃなく鼓動と心臓
彼女も叫んだ 歌だ 感情がむき出しの姿
死んじまえとか殺してやるとか物騒な歌詞だが
ロックスターの在り方としちゃまずまずな立ち上がりだ
ファーストライブは鼻と頬骨という戦果を飾った
そのまま彼女は家を出て二度と戻らなかった

誰にでも訪れるゴールデンアワー
彼女やあんたにも訪れることを願うよ


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