興味本位で宗教勧誘について行った話

高校2年か3年ぐらいの時、突然1件のLINEが届いた。

「久しぶり!ちょっと話したいことあるから会おう!」

中学で仲良く(?)してた女子グループ(?)の中にいた、特段サシで遊んだりとかはした記憶が無いような子(この話では一応友人と呼ぶことにする)からだった。

なんだなんだ。
この頃の私はまだ割と純真無垢(笑)で、人を疑うことをしなかった。

「久しぶり!何の話?」
「それは会ってからのお楽しみ!」

ん…?
まあ久しぶりだし、たまには良いか。
待ち合わせ場所と日時を決めた。

駅の改札を出たところにある柱に寄りかかって、友人と、知らない女の子は待っていた。

いやいやいやいや聞いてない。

えっもしかして偶然遭遇したからって一緒にご飯食べる気でいる?
図々しすぎない?
中学卒業以来に会うってのにさ、
申し訳ないけどシンプルに邪魔じゃない?
自覚無い感じ?

爆速で脳内を駆け巡る知らない女の子への悪口はどうにか抑えて、友人に問う。

「こちらの方は…?」
「ともだち!仲良くなれると思うから会ってほしくて!食べながらちゃんと説明するからさ、行こ!そこのガストでいい?」


当時の私は知らない人とのコミュニケーションに膨大なエネルギーを必要としていた。最悪だ。
まあしょうがない。
今日のところは耐えるしかない。
わざわざ交通費をかけたことを少し後悔しながら何故か3人でガストへ向かう。

各自ドリンクバーでジュースを入れて、席に戻る。
あぁ、何が始まるんだ。

「最近さー高校とかどんな感じ?」

(思ったより普通の質問してきた…知らない子いるのに…)
「忙しいけど、大学も安牌狙うし、なんだかんだ順調かも」

「へー、あの子元気か知ってる?〇〇ちゃん」

(人脈漁り?てかこのままだと知らない子と一生話通じないけど大丈夫そ…?)
「たまに会うけど会う度に化粧濃くなってる。元気みたいよ〜」

思ったより普通に喋るじゃん。
な〜んだ。
しかし目の前にいる知らない女の子の用事が分からない。
一体いつ真相が明らかになるんだ。

''その時''は、突然やってきた。

「単刀直入に聞くけどさ、今、幸せ?」

で、で、、出たああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

と叫びたいところだったけどガストだったので、必死で堪えようとしたら何故か大爆笑してしまった。

何故こんなに久しぶりに突然会おうと連絡してきたのか。
何故話す内容を頑なに教えてくれなかったのか。
何故知らない女の子を連れてきたのか。

全てを一瞬で理解した。
もうなんか笑うしかなかったんだと思う。
どうやら私は今日友人を1人失うらしい。
んー。とりあえず会話しなきゃ。

「幸せ?ってあんまり人に聞かないのよ普通www彼氏も出来たし、順調に幸せよ〜、そっちは?」

「しあわせだよ!高校やめたけど!ガハハwwww」

えっ。
今から私は高校をドロップアウトした人間に宗教勧誘されるのか。
…説得力って言葉知ってる?

「幸せの総量っていうのが人間は生まれつき決まっていて、人によって学校のプールぐらいある人もいれば、お茶碗ぐらいしかない人もいるんです。でも生まれつきのそれを、増やす方法があって」

遂に知らない女の子が口を開き、''仕事''を始めた。
鞄から、何やら新聞みたいな紙を出して広げる。
富士山の写真がデカデカと載っているアレだった。
真面目な気持ちで話を聞いたらダメだと本能が警鐘を鳴らす。
心做しかジュースの減りが早くなる。

明らかに真面目に話を聞いていないにも関わらず真剣に話を続ける2人を見ていたらなんだか面白くなってしまった。
話の内容は支離滅裂だったけど、本気でその宗教の会館へ私を連れて行こうとしていることだけは分かった。

なんかネタになりそうだし、今日で彼女とは連絡を絶つことを心に誓って、社会勉強と題して現場に行ってみることにした。怖いもの知らずかよ私は。そうだよ。

「ちょうどこれから礼拝があるから!はい、数珠と経典あげる!お金とか取らないから安心して!」

おぉ…すごいな最近の宗教(笑)ってやつは。
まず建物がもう物凄い立派だし、数珠と経典を新入り(笑)にタダでくれる。
こりゃ相当な資金が集まってるな…

畳敷きの仄暗い礼拝所みたいな場所に連れられて、靴を脱いで中に入る。
座ってから落ち着いて辺りを見回してみると、スーツのサラリーマンっぽい人、普通の親子連れ、おじさんおばさん、お兄さんお姉さん。
まさに老若男女が、デカめの会議室みたいな広さの礼拝所に、びっっしりと詰まって、全員が数珠と経典を持って正座していた。鳥肌が立った。

礼拝所の正面にはクソデカ仏壇みたいなのがあって、その傍らに宗教団体のスタッフっぽいおばさんがこちら側を向いて座っている。
始まるっぽい。

スタッフおばさんが何か言うと、私以外の全員が一斉に数珠を手に持って経典を開いてお経を読みながら連チャンで土下座を始めた。異様すぎる。
私も友人に指示され、笑いを必死に堪えながら読経と土下座を真似してみる。ぺこりぺこり。なむなむ。(笑)

礼拝が終わると、吹奏楽部出身だという知らないお姉さんが私を目掛けてやってきた。友人が私の話を根回ししていたらしい。その執念だけは褒めたい。

「よく来てくれたね!!吹奏楽部って聞いたよ〜!!この礼拝、続けてまた来てもらえるかな?」

 「どうですかねーまだちょっと私には難しいお話ばっかりで…」

「そうだよね〜!でもゆっくりお勉強すれば大丈夫だから!先生の教えは本当に効果があるからさ!またおいでね!!」

「また都合つけば、そうですね〜」

「あと帰りは3人のこと送るからさ!ついてきて!」

空気感に抗えず知らないお姉さんの車に乗り込む。
宗教側の女子2人はウキウキしてる。
勧誘成功したと思ってるらしい。

車の中でお姉さんが語る。
「昔コンクールでソロを任されてね。すごい難しいフレーズで、練習で上手くいったことなくて。本当に怖かったんだけど、南無妙法蓮華経って心の中で何度も唱えたら、本番で初めて上手くいったの!唱えて本当に良かったよ〜絶対に忘れられない!だからもし次コンクールに出るとか、受験するとか、そういう時には是非ね、唱えてみてほしい!きっと上手くいくから!」

いやそれは努力の成果だよ。
祈りのおかげにすんなよ。
あんたが頑張ったんだよ。
あと本番に強いんだよ。
自信持ちなよ。

などとは言えるはずもなく、「すごーい!」みたいな、適当な褒めリアクションをするしかなかった。
己の努力や周りの支えじゃなくて宗教に感謝しているのがなんだか切なかった。

もし私と同じ学校の同期で同じ吹奏楽部で、一緒に頑張ったコンクールが成功したとして、それを祈りのおかげだと思ってる人がいたら私は悲しくて泣きながら殴ってしまうかもしれないな、なんて考えていた。

車が停まる。
ようやく解放される。
外はもう真っ暗。
長い、永い一日だった。

今日で関係が終わるとは知らぬ友人が、「またね〜!南無妙法蓮華経をよろしくね〜!」と手を振る。
じゃあね〜、と手を振り返す。
さようなら、中学の数少ない人間関係の1つ。

家に帰ってから、数珠と経典と新聞を黙ってお姉さんの車にそっと置いてくれば良かったと後悔した。親に見つかったらどうしよう。なんか適当に捨てるのも若干祟られそうな気がするし。別に何ともないんだろうけどね。厄介なものを貰ってしまったなぁ。

数日経ってから、家のポストに手紙が一通入っていた。あの子だ。
連絡が欲しい、お祈りは本当に効果があるから続けてほしい、また礼拝に行こう、というような内容だった。切手は貼っていなかったので直接ポストまで入れに来たんだと思う。怖。家の場所よく覚えてたな。数回しか来てないはずなのに。その執念だけは褒めたい。

興味本位、怖いもの見たさで宗教勧誘について行った結果、シンプルに疲れた。よっぽど体力と時間を持て余しているか、本気で''金ならあるから救ってくれ''とかじゃない限りは辞めたほうがいい。

なんだか最近宗教が色々と問題になってて考え時だなぁと思って思い出してみたけど、私は決して信教の自由を否定するつもりは無くて。
人を巻き込むのをやめてほしいよね、というだけで。幸せになりたいのは多分みんな一緒だから。

自宅最寄り駅でも最近勧誘活動が頻繁に行われてて、人と楽しく喋ってるのにズケズケと「お話聞いてくれませんか」としつこく話しかけてくるのが本当に不快で堪らない。教祖の教えの前にコミュニケーションの基礎から学び直してほしいと切に願っている。

何度でも言います、決して信教の自由を否定するつもりは無いんです。
私だって両親の実家に連れられたら仏壇の前で正座して南無阿弥陀仏って唱えるし。
ただどうか、己の正義感で他人を強引に巻き込もうとすることと、自分が不幸だと感じた時に人生を搾取しにくる組織にのめり込むことだけは避けたいよねっていう、備忘録でした。

なかなか長々と書いてしまいました。
二世とか三世信者でも、抜け出したいとかじゃなくてこれぐらい強い信仰心を持つ子もいて、本当に色々怖いなぁ〜と思います。正気を保って生きるにはこの世は中々ハードモードだから…

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