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業界歴15年の【取扱説明書】のイラストレーターが教える、資料がもっとわかりやすくなる「テクニカルイラスト」作成のコツ

新しい家電買った!通販で商品が届いた!さぁ!動かす前に取扱説明書を見るぞ!とワクワクしながら取扱説明書のページを開くと…わかりにくい。組み立てにくい。何を言っているかわからなくてテンションが下がったことはありませんか?
※日本語が変な取説だったら妙に嬉しくなることはあります。

わかりにくい取扱説明書は、取扱説明書を作る人が商品・製品を理解しないで作成している場合が多いです。私はそれを、「作成する側の取材が圧倒的に足りていない状態」と呼んでいます。
取材が足りないと
・イラストをうまく活用できていない(例:肝心な箇所にイラストがない、載せなくてもよいイラストが多い)
・ユーザー目線になれない(例:作業者の見たい角度がわからない、自分が言いたい・描きたいところを作成してしまう)
など、わかりにくい取扱説明書ができてしまいます。

取扱説明書を作成するには取材が大切です。取材とは?

取扱説明書における取材とは、取扱説明書の作成者が開発者に話を聞いたり、実際に商品や製品、サービスを触ったり、動かしたり、調べたりすることです。

一般的に「取材」と聞くと、開発者への取材を思い浮かべる方が多いと思いますが、私は、製品についての話を聞くこと以外に、実際に商品や製品を使ったり組み立てたりすることも含めて「取材」と定義しています。
(後者は、商品や製品そのものに取材する、というようなイメージですね。)
さらに、製品の構造の説明を描く場合は、製品をバラして中身を確認することもあります(返すときは借りた状態に組み立てなおして返します)。

そして取扱説明書がわかりやすくなるかどうかは、この取材が左右すると言っても大げさではありません。

自己紹介が遅くなりました。ぬっきぃと申します。取扱説明書のイラストを描く「テクニカルイラストレーター」という仕事をしています。ちなみに業界歴は15年間です!

最近は、テクニカルイラストレーターの知名度が上がってきてテレビ番組制作のお手伝いをすることが増えてきました。

今回は、取扱説明書が完成するまでの裏側と、わかりやすいイラスト作成のコツをお伝えします。

取扱説明書に関する記事ですが、営業資料や提案書、マニュアルなど、あらゆる資料作成のヒントになると考えています。ぜひ参考にしてください。

※今回の記事はアドビの「みんなの資料作成」企画の一環で書いています。

1.取扱説明書での困り事あるある

取扱説明書のイラスト作成のコツをお伝えする前に、取扱説明書でよくある困り事を見ていきましょう。
この困り事あるあるに、わかりやすい取扱説明書を作成するためのヒントが隠されているんです。

ユーザー側

取扱説明書を読んでも、組み立てられない・製品が理解できないのがユーザー側の困り事だと思います。

なんか説明できないけど変。組み立てられたけどスッキリしない。ユーザーがもやもやとした気持ちを抱える取扱説明書は案外多いのではないか?と筆者は感じています。
なぜスッキリしない取扱説明書ができるのでしょうか。実はそれは、取扱説明書の作成を依頼する側もスッキリしていないからなんです・・・!

取扱説明書作成を依頼する側

取扱説明書を依頼する側の大きな困り事は、いざ取扱説明書を作ろうとしても、どこに依頼したらいいかわからないことです。
取扱説明書は、日常でよく見るものですが、どこの誰が作成しているのか明確になっていません。

取扱説明書の著作権は依頼者帰属になるので、どこの誰が作成したかと記載されていないことが多いです。「この取説いいな」と思っても、どこに頼めばいいかヒントすらありません。

取扱説明書はマニュアル制作会社のほか、専門的な技術に関する文章やイラストに対応できるフリーランスのテクニカルライターやテクニカルイラストレーターが作成しています。

上記以外の会社や人に頼み、出来上がった取扱説明書を読んで「なんか変だけど、どう変なのか説明ができない」とまれに私に相談が来ます。
もやもやした時点で相談できればまだいいのですが、どこに相談していいかわからず、そのままわかりにくい取扱説明書を製品に同梱してしまう企業さんもあるでしょう。

2.わかりやすい取扱説明書の作成は説得から始まる

取扱説明書の制作は、不透明なところが多いです。どこに依頼すればいいかなど情報量が圧倒的に足りていないと感じます。

私もマニュアル制作会社に就職してから「取説専門の制作会社があるのか〜」と思ったくらいです。

取扱説明書の大切さを知ってもらう

私の仕事は、依頼者への説得から始まります。
私の元へたどり着いてくれた依頼者。ですが、取扱説明書のことをよくわかっていません。

まずは、なぜ取扱説明書が必要か説明します。
取扱説明書は、製品に必ず付属しているもの。
依頼する側が「製品がメイン。取説は付属品」「資料さえ渡しておけば、取説ができるんでしょ?」と、軽視している場合があります。

いえいえ!取扱説明書は命に関わるものです!

操作方法を間違えた場合、怪我をしたり、命を落としてしまう製品があります。
いかに取扱説明書が大切か、人の命に関わるものか依頼者を説得します。

「人の命に関わる読み物」と理解が深まったら、その後の対応が変わってきます。

わかる人に話を聞く

取扱説明書に対する理解が深まったところで、必要な資料をもらってすんなり打ち合わせ、というわけではありません。
実は、製品のことをわかっていない依頼者が多いのです。

「え、自社製品なのにわかっていないの?」と、驚いた方もいるかもしれません。
私も初めは驚いていましたが、珍しいことではないです。

なぜなら、取扱説明書の制作を依頼するのは、主に営業部門だからです。
技術開発部門ではないので、技術的な質問をしても「わかりません」と返ってきます。

営業部門は窓口をしてくれますが、製品のことを全部理解していないことが多いです。
そこで、技術開発の人と話をさせて欲しい、と交渉します。

しかし、「機密なので会わせられない」「これ以上情報は渡せない」と断られることがあります。
そのような場合は、その製品に対して十分な知識がないと怖くて取扱説明書が作成できません。
紙の資料だけで取扱説明書を作るのは困難です。と、お断りさせていただくこともあります。

依頼する側が悪いと言うわけではありません。依頼する側は、取扱説明書の作り方がわからないのです。さらに、資料の取り扱いが厳格なところは、「個人に資料を渡せません」と、断られてしまいます。

しかし、取扱説明書に関する認識を変えてもらうのも私の仕事。
取扱説明書のありかた、制作期間や制作に関わるコスト、報酬などの説明をし、納得してもらえました。さあ、いよいよ正式に依頼が来ました!

3.できれば「技術者」にヒアリングしよう

聞ける場合は必ず技術開発の人から話を聞きましょう。資料に書かれていない情報を手に入れるチャンスです。
どうしても聞けない場合は、思い切って断ることも大切です。

大体空気が悪い

さて、技術開発の人になんとかたどり着くことができました。

しかし、みんなの顔は曇っています。そうです。「取扱説明書を作る」「マニュアル制作の人が来るから打ち合わせをして欲しい」と営業部門から無理やり引っ張ってこられたのです。
こいつ、本当にわかるのか?という空気が室内に充満します。
ですが、この空気に負けてはいけません。
事前にもらった資料を軽く読んでの打ち合わせを始めます。

準備をしすぎない勇気を持つ

なぜ資料を軽くしか読まないのか。それには訳があります。
入念に下調べすると、取扱説明書を作成する製品と同じような製品にたどり着いてしまうことがあるからです。

似た製品を見つけてしまうと、その情報に引っ張られ「それってライバル社の●●製品のことだよね」と、依頼者に勘付かれてしまいます。
あえて「ライバル社と似てますね、御社との相違点は?」などの質問をすることで引き出せる情報があるのです。
下調べしすぎると、詳しくなりすぎてしまい、ユーザー目線の質問が出てこないことがあります。その質問を出せるか出せないか、空気の探り合いで打ち合わせは進むため、製品に詳しくなるのは話を聞きながらがちょうどよいのです。

それに、事前に準備しすぎると、一問一答形式になり、「それ、メールじゃだめだったんですか?」と言われてしまいます。

空気作りも私の仕事

空気を読みつつ探りつつ質問をしていきます。
事前に資料をもらっていても、わかるのは表面的な機能と形状、部品、材質でしょうか。

意味もなく溝を作ることもないし、何となくで材料を決め、部品を使用するわけではありません。
この溝は何の役割を果たしているのか、なぜこの部品を使うのか、など一つひとつ質問をします。

私には業界で15年学んだ知識の下地があります。
知識を交えつつ質問すると、

あれ、この人。わかってる人……?

と先ほどまでの重苦しい空気はどこへやら。ここからが打ち合わせ本番です。

打ち合わせの雰囲気作りも私の仕事だと考えています。

質問の答え方から「優先度」を見極める

突然ですが、私はものぐさです。正直なところ、なるべくイラストの枚数を少なく、簡潔にしたいのです。

なので、私が技術開発の人にする質問は、実は「どこをイラストにするかしないか」を判断する質問でもあります。(ああ、手の内をバラしてしまった!)

製品に関わる重要そうな部分から質問し、徐々に軽い質問をしていきます。
質問は、同じような質問をしても構いません。同じ質問でも、ピッタリ同じ答えが何度も返ってくることは少なく、そういえば……と違うエピソードを思い出してくれることもあるからです。

重要なこと、伝えたいことは無意識に何度もキーワードが出てきます。
質問しつつ、どれが重要か重要ではないかざっくりと頭で優先順位をつけていきます。優先度が高いものをイラストにすると良いです。

例えば、先ほどの「何となくで材料を決めるわけがない」ですが、「昔からこの材質で引き継いでいる」と言われたらさほど重要ではないことになります。
※しかし、後ろにいる偉い人と目を合わせれば、どうしてそうなったか答えてくれる場合があります。アイコンタクト、大事。

4.何を一番見せたいのか考えて資料整理し、イラスト作成のための操作や組み立ての取材をする

打ち合わせも終わり、ひと段落。ではありません。ここまでは製品のことを知るための打ち合わせ(取材)でした。

ここから、打ち合わせで得た製品の知識を踏まえながら、取扱説明書のイラストを描くために、実際に製品を使ったり、分解して組み立てたりしていきます。
(ちなみに、私はこの作業についても「取材」と呼んでいます。人ではなく、製品そのものへ取材をするイメージです)
そのために、もらった資料に取材で得た製品知識を加筆して、まとめなおしていきます。

打ち合わせ後、改めて資料を見ると明らかに資料の解像度が上がってるんですよね。

これはあの時の質問の答えだ!といろんなものがドバッと見えてきます。気持ちいい。わかる!状態からの資料まとめが快感です。

資料をまとめなおしながら打ち合わせを思い返すと、どの工程・角度のイラストを描けばいいのか自然とわかってきます。

作成するイラストごとに資料をまとめていく。ここが一番時間がかかりますが、結構好きな作業です。
資料を読みながらまとめるので、また新たに製品の情報がぐんぐんと頭に入っていきます。

資料整理にはAdobe Acrobat オンラインツールが便利!

ちなみに、資料を整理する際は、「Adobe Acrobat オンラインツール」というPDFツールを使うと便利です。

たとえば、依頼する側から共有される資料はファイル形式がごちゃまぜです。Acrobat オンラインツールの「PDFに変換」機能を使って、PDF形式に変換しています。

また、資料がばらばらの場合は必要な部分だけPDFの分割PDFのトリミングをしたり、トリミングした資料を並べ替えたい場合はPDFの分割並べ替えをしたりしています。

イラスト作成のための操作や組み立ての取材をしよう

まとめた資料を確認しながら、実際に製品を触ったり動かしたりバラしたり組み立てたり写真を撮ったりと、イラストを作成するために必要な操作や組み立てを行い、頭の中で組み上がっているイラストの輪郭をはっきりさせていきます。

はっきりさせたら、下書きやラフを作成し、Illustratorでイラストを作成します。

5.イラスト化する際の注意点や工夫

ここまで読んでくれた方は気付いたと思いますが、テクニカルイラストは製品の取材(=話を聞いたり製品を使ったりして、製品の理解や知識を深めること)が大半を占めています。
自分がわからないもののイラストは描けなくて当たり前。イラストが難なく描けるように、聞いたり情報を整理したり実際に触ったりするのです。

でも、「テクニカルイラストレーター」なので、みんなイラスト作成のことを聞きたいですよね。

取扱説明書のイラストを描くときの注意点

今回は長くなってしまうので省きますが、テクニカルイラストにはルールがあります。ルール通りにイラストを描くことで、わかりやすい取扱説明書が出来上がります。
「テクニカルイラストの描き方を教えてください」とよく聞かれるのですが、イラストの描き方やルールさえ覚えれば、描けるようになると思っている方も多いのかもしれません。
でも、描き方やルールの前に、まずはイラストを描くための製品情報を引き出すコミュニケーション力や、なぜそのイラストになったのかを説明できる製品知識の方が圧倒的に大切なんです。

「Illustratorが使えます」だけで、テクニカルイラストを描くのは難しいんじゃないかなぁと感じます。

取扱説明書のイラストレーターは
・図面が読めてなおかつ図面からイラストを作成できて(開発中で実物がない場合が圧倒的に多い)(技術)
・テクニカルイラストのルールを熟知している(技術)
・Illustratorや3DCADが使えて(基本)
・作成する商品・製品の知識があって(基礎)
この4つが揃って「テクニカルイラストレーター」と名乗れるのかな。と私は考えます。

商品・製品を理解していない・しようとしない人に、取扱説明書を描いてもらうのって怖くないですか?

「何故わかりにくい取扱説明書ができてしまうの?」という疑問の答えは「商品・製品を理解していない・しようとしない人がつくるから」でしょうか。

6.まとめ

以上、実際の仕事の流れの紹介でした。資料をわかりやすくまとめるヒントになったら嬉しいです!

①困り事を把握する
②やりとりを円滑にするために説得する
③実際に技術開発者に話を聞く
④イラスト作成のための資料を整理する
⑤イラストを描く

イラストは作成しないという方は④まで、イラストを作成する人は⑤まで参考にしてみてください。


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