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ぼくに怪文書は書けない


※ この記事は「トロオドン怪文書アドベントカレンダー Advent Calendar 2021」12月13日分へ寄稿したものです。




と思って書いたんですけど、正直周りの人が面白いのを見て日和りました。恥ずかしいのでお見せすることは叶いません。どうかお許しください。

Mastodon ぬえ(tsugumi_tiger@fedibird.com)
Twitter ぬえ(@tsugumi_tiger)
















本編スタートです。

0.序文

2021年11月10日。マストドン上でこんなことを言われた。

画像1

このお方はトロオドンという人物であり、ネット上でゲームのプレイ状況の実況・配信を生業としている超人気ゲーム実況配信者の1人だ。ぼくにとっての大先生である。画像ではポッドンとかいう昭和の厠みたいな名前をしているが、これが正真正銘のトロオドン大先生だ。こんなことを言っているとまた何を言われるか知れないのでこの辺にしておく。

そもそもこの記事を書くことに、いや、わざわざnoteに登録してまで記事を起こす羽目になったのは、この人物が企画したアドベントカレンダーが原因である。

トロオドン怪文書アドベンドカレンダー Advent Calendar 2021
https://adventar.org/calendars/6508

ちなみにタイトルに関してはぼくが間違えているわけではない(現在は修正している模様)。この時点で大先生の目指す怪文書アドベントカレンダーが始まっていたというわけだ。さすが大先生と言ったところか。
そして先程のマストドンでの発言に戻る。お前も書けという大先生のご命令に背くわけにはいかない。渋々、もとい喜んで引き受けた。その結果がこの有様。

なのだが、そうは言ってもぼくに怪文書は書けない。そんなものとは縁もゆかりもない。怪文書はおろか、生まれてから此方、自分にそのような才があると感じたこともない。読書感想文の読書の部分もできないような男だ。今までの人生を通して完読した本といえば8年かけて『アルジャーノンに花束を』をくらいだ。他の本は冒頭3ページで読むのが辛くなって止める。そんな人間が筆を取ったとて、まさに駄文と呼ぶに相応しい、中学生の自尊心だけで書いた卒業文集のようになるのは目に見えている。
あの面白おかしい人たちの中に放り込まれるこちらの身にもなってほしい。あの人たちは訳の分からない文章を平然と書いてのける。日常なんだよ。書けて当然と言うよりも、書いたものが怪文書になってしまうようなもの。あんな人々とぼくとでは雲泥の差がある。月とスッポン。どうか比べないでほしい。一緒にしないでほしい。ほんと、一緒にするな。ぼくのような人はヘッダーの画像をおどろおどろしくするくらいしかできないのだから。ぼくのような、「まとも」に手と足が生えてる歩いている人間、至極まとも、まともここに極まれり、まともの権化、まともと書いてぬえと読む、「まとも」に名前を改名しろとゲッターズ飯田にも言われた、坂上忍がぼくを話題にしてもまともすぎて何もなく泣いて謝罪した、これ以上ないまともな人間の綴る文章が面白くなるはずもない。

TSUZURU TV !!!!

ほらね?

そこで、この大先生とぼくの出会ってからこれまでのことを書こうと思う。事実をお伝えするだけ。凡人ができるせめてもの文章を残す。それで許してほしい。
ぼくからのメッセージが届くことも願う。



1.出会い

冒頭、マストドン上で、などと言っていたが、何も彼と出会ったのがマストドンということではない。彼との最も古い出会いは幼少期であった。小学校の低学年の頃だ。

当時、大阪にUSJことユニバーサルスタジオジャパンが出来た、というニュースが関西一円では大きな話題となっていた。ぼくたち家族も例外ではなく、休日にユニバに行くことになった。
入場口でのことだ。1人の男性がエセ関西弁を使い、大きな声で係員を怒鳴りつけていた。

「おい!!!入るだけで5500円ってどないなってるでんねんまんねん!!!」

現在のユニバの入場料は7900円。当時のTDL、あの東京ディズニーランドでさえも同額の5500円で1Dayパスポートが買えたことを鑑みると妥当な金額である。にも関わらず、大きな声で大の大人が怒鳴り散らしていた。しかもエセ関西弁を使っている。周囲の関西人と思しき人達も不快そうにしていた。子供ながらに迷惑な大人もいるものだと感じたのを今でも覚えている。

が、大人と思っていたのは皆の勘違いであった。なんと子供、しかも同年代らしい。そして怒るのも無理はなかったのかもしれない。彼は大人料金で案内されていたのだ。だからと言って怒鳴り散らすのもどうかと思うが。

そう、何を隠そう彼がのちの大先生なのである。

嫌なものを見た。そう感じた。しかし目の前にはハリウッドの興奮が待っている。小学生の小さな脳のキャパシティなぞ知れている。ぼくは直前に見たやかましいそれを忘れて遊ぶことに夢中になった。

セサミストリートだのスヌーピーだのスパイダーマンだのを楽しみたかったのだが、何故か自分の知らないキャラクターやアトラクションが並んでいた。でもこんなものなんだろうと、日本のハリウッドを満喫していると、またもやどこかで聞いたような声がした。

「わっきゃ!!!なんだわなこのメスブタ!!!お前なんぞどうせしょーもない男のカキタレなんやろがい!!!言うてますけども!!!!」

バラエティか漫才か、何かを観て覚えたであろう下手くそな関西弁が聞こえる。彼だ。どうやらナンパに失敗したらしく、女性に向かって汚い言葉を放っていた。と、目を取られたのが運の尽きであった。

「ぎゃあ!!!!お前もそう思うだろ!!!!やめさせてもらうわ!!!!」

あろうことか此方に向かって話しかけてきたのだ。やめさしてほしいのはこっちのセリフだ、というセリフが焦りと怒りの混じった感情とともに溢れてしまいそうになったが踏ん張った。「は、はぁ…」などと生返事を返してしまい、「お前はええ奴だから友録してやるおまっせ」とハンゲームのIDを要求されてしまった。体格差から逃げられないと、渋々差し出す。すると、チンパンジーのように歯と歯茎を剥き出しにした笑顔でどこかへ去ってしまった。去り際に「ほなやで!」と気色悪いエセ関西弁を口から吐いていた。

全てが終わってから気付いたことではあるが、ぼくたちが遊んでいたのはユニバではなく、パルケエスパーニャだった。キャラクターやらアトラクションやらに見覚えがなかったのも無理はなかった。

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(▲ハンゲーム。モバゲータウンのようなもの。)

2.ネットの世界へ

数日経ったある日、ハンゲームにログインすると友達申請が来ていた。別に珍しいことではない。ただよくわからない人とは関わりたくはないので、プロフィールを見て判断するようにしていた。趣味は映画鑑賞だの歴史考察だのと書かれていて、害はないだろうと許可した。日記を閲覧すると、戦争がどうとか、野球がどうとか、自分には興味のないことばかりであった。しかも日記のほとんどは、どうやら嫌いなのであろう相手への汚い言葉の応酬。関わりたくないし、しれっと解除しておこうとするとメッセージが届いていることに気がついた。

お前はこの前USJで会ったええ奴だな(・∀・)友録許可アリ
(原文まま)
ハンゲームに届いたトロオドン氏からのメッセージ

彼だった。このまま解除してもよかったのだが、言い得ぬ恐怖に襲われて小学生のぼくにはそれは不可能なことであった。
彼を苦手と思っていたことの理由として気持ち悪いエセ関西弁がある。エセ関西弁自体は、そんなことに腹を立てなくてもと言われることがあるが、耳馴染みのイントネーションや語尾を変な風に言われると気持ち悪いのだ。悪だとは言わないが、できれば聞きたくない。そんなエセ関西弁を多用し、ユニバのこともUSJとか言ってくるような人が関西人でないことは明白であった。
それとあれはUSJでもユニバでもない。パルケエスパーニャだ。同じ間違いをしていたことに小学生ながら自分への憤りで気がつくと己の首を絞めていた。我に返った時、理由こそなかったが、直感的に彼に殺されるという恐怖を胸に抱いていた。

その後、彼と深い交流を果たすのは数年後の話になる。そしてそれはまたもや偶然の産物であった。

中学生になるという頃だったと記憶している。当時、家庭がゴチャゴチャとしていて、現実逃避をするためなのか、今となってはよく覚えていないが、アニメやゲーム、ネットへと、どっぷりのめり込みはじめた。その中の一つにメイプルストーリーがある。北乃きいのCMがテレビで流れていたアレだ。可愛らしいキャラクターの横スクロールMMORPGで、当時のネットゲームではトップクラスに有名なものの一つである。

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(▲メイプルストーリー。横スクロールのMMORPG。運営元はネクソン。)

ニコニコ動画でらき☆すたのキャラソンメドレーをかけながら、C-2と呼ばれる狩場でロイドとネオヒュロイドをただひたすら倒して経験値を稼ぐという、さも廃人になりかけのようなプレイ内容だった頃だ。ぼくが友人と狩りに奮闘していると、1人のプレイヤーと出会った。どうやら一緒にこの狩場で狩らせてほしい、とのことだった。

ここで簡単にメイプルストーリーについて説明すると、ネットゲームではその膨大なユーザー数から、サーバーがいくつも存在し、かつその中でもチャンネルに分かれる。このゲームもそうだった。各サーバー、各チャンネル、どこでプレイしてもマップやゲームのシステム、発生するイベントに差異はない。ただし、同じサーバーでアカウントを作らなければ一緒に遊ぶことはできない。また、同じチャンネルを選択しないと一緒に遊ぶことはできない。
そして、先述の狩場にも暗黙の了解として、既に誰かが同じマップ内で狩りをしている場合は、別のチャンネルに移動するか、一声かけて許可を取るというルールが存在した。経験値稼ぎやアイテムドロップ狙いの狩りという作業は、モンスターの出現数、いわゆる湧きが大きく関わってくるため、そう言ったマナーのようなものが誰ともなく形成されていった。

声をかけてきたプレイヤーは丁寧な口調であったことからぼくたちは彼とロイド狩りをすることにした。よく動くし、スキルを使ってぼくらにバフをかけてくれたり、ちょっとした武器や防具のドロップにも逐一報告してくれた。要するに良い人だ。チャットで話している分には同世代ということがわかった。今度またやりましょう、なんてやり取りがあり、フレンド(メイプルストーリーでの機能)となった。

数日か数週間だったか。ある日のことだった。例の彼がログインしており、また狩りをしないかと誘ってくれた。ありがたい。
C-2へ赴くと、彼と一緒にフレンドだと言う人がもう一人来ていた。4人での狩りというわけだ。効率も上がる。何より同世代ともなると食事やらお風呂やら家庭での過ごし方もそれぞれの家族に左右される。そういった理由で離席する際に、経験値を吸わせてもらえるのだ。喜んでOKした。

のが間違いだったのかもしれない。そのもう一人というのが厄介だった。態度が横柄なのだ。やれバフをかけろだの、回復しろだのとやたら指示を飛ばしてくる。挙句レアドロップの話をしていると有無を言わさず横取りしていった。前の狩りとは打って変わってチャット欄は静まり返っていて、気まずい空気が流れていた。
翌日、昨日は散々な目に合ったなどと友人とチャットをしていると、個別チャットに人の良い彼から連絡が来た。SNSでいうDMのようなものだ。昨日は申し訳ない、自分もほとほと困っている、だが逆らうことができずに2人には迷惑をかけてしまった、と言った内容だ。仕方のないことだと中学生なりに悩んでいると昨日の奴が現れた。

「お前らはええ奴だから友録してやるねんで」

と、ハンゲームのIDとモバゲーのIDを要求された。既視感と、ユニバでの出来事のフラッシュバックで眩暈がした。あの強烈なインパクトを振り払うことが出来なかったのだ。大先生ですよね。気付いた時には入力していた。
そこからは最悪だった。ぼくと横柄な彼が知り合いだということに光明を見たのか、友人も人の良い彼も大先生をぼくに押し付け、身を引いたのだ。それからはログインが被るたびに呼びつけられ、その横暴に耐えるしかなかった。結局その出来事から1ヶ月足らずでメイプルストーリーはやめてしまった。

しかしその後もハンゲームとモバゲーでやたらと絡まれ続けていくことになる。

(▲続編が出ていた。横スクロールから3Dになったらしい。)

3.再会

その後はネットからも少し離れ、割と普通の生活をしていた。ハンゲームもほとんどしなくなり、高校生の頃になるとあれだけ流行っていたモバゲーも下火になったため、彼との絡みも必然的に少なくなっていった。
ちなみに、モバゲー上では、年末年始に行われていたモバコインの宝くじにぼくが当たったと知るや否やアバターを送れだの、怪盗ロワイヤルで勝てないのはお前のせいだのとめんどくさいことを言われていた。あと、神々の聖域(モバゲー内でのサークル)でのアバター批評でかなりの低い点を取っていたり、VIPPERキタコレ(モバゲー内でのサークル)でやたらと女の子と思しきアカウントに声をかけまくっていたり、ネタスレを立ててスベっているのを見かけた。
ついでに、モバゲー内で知ったのだが、関西人ではなかった。三重県の生まれだそうだ。

(▲モバゲータウン。ハンゲームのようなもの。)

モバゲーが廃れていった後、突如として話題を席巻し、そして今もなおその息が続いているサービスが始まる。Twitterである。ここでは同じ過ちを繰り返すわけにはいかない、と彼にはTwitterの話題は一切出さなかった。ネット上での自由を手に入れたような気がした。

大学生にもなり、ぼくは県外に出た。地方から地方でらあるが、関西の某県から関東の某県へと移り住んだ。学業は大変ではあるが、そこは大学生、遊ぶ時はとことん遊んだ。大学2回生の頃は、しょっちゅう東京へと繰り出した。田舎の人間というのはどうしてか渋谷やら池袋やら新宿やらに行きたがるものだ。そこしか聞いたことないし、その有名なとこへ遊びに行ったという実績を解放したいのだろう。ぼくもまたその一人だった。
とは言っても何度か遊びに行くうちに、他の土地も耳にし、他の土地も面白いということを知り始める。東京という都市の知らない箇所を歩き、観光というよりもはやフィールドワークに近いようなことをするのが東京へ行った時の趣味のようになっていた。朝早くそこへ行き、そこの人たちがどのように暮らしているのか、そこの人たちは何時に活動を始め、そこではどんなイベントが起こるとか。そんな楽しみ方をしていた。よもやこの趣味が更なる奇跡、いや悪夢を呼ぶことになるとは思いもしなかった。

鶯谷へ行った時のことだった。駅の裏手に行くと大きな霊園がある。田舎者なのでこんなに大きな霊園というものを見たことがなかった。田舎の墓地というのは小さくこじんまりとしている。その集落付近の人間しか入らないためだろう。

(▲鶯谷駅の裏手の霊園。寛永寺第一霊園。入り口前。)

大きいなぁと眺めていると、霊園の入り口付近で、やたらとガタイの良い男が落ち着かない様子で立っていた。怖かったが、そこを通り過ぎると、一台の黒いバンが止まり、中から、その、すごい失礼なのだが、ブスが降りてきた。

「お待たせ〜」

「どれだけ待たせるん気じゃねん!!もうええわ!!ずびゃびゃ!」

その瞬間、ユニバの入場口が脳裏をよぎった。嘘やろ、また?変な汗が出てきた。もう会わない、関係を持つことも見ることも、ましてや話すことなんてない、そう思っていた。そのはずなのに。動揺と驚きで振り返ってしまった。

「おぉ!!!!やっとかめだがね!!!!」

なんで名古屋弁やねん、こんな時でも心の中で冷静にツッコんでしまった。こんなところで何をしているんだ。待ち合わせ?どうして霊園の前なんだ。というよりなんでここにいるんだ。いろんな疑問が浮かぶけど、とにかくこの場をなんとかしなくては。「は?」といった表情で、他人のフリをして、その場から離れようとした。

「どこ行くんだがね。付き合うてちょーよ。これからタレカくもんで、おみゃあも行くばってん。」

名古屋弁というより三河弁じゃないか。最後九州の方の方言だし。なんなんだこいつ。しかも使い方間違えてるし。

「え、やめてください人違いです。」

ぼくだって大人に近付いている。これくらいのことは言う。

「デッドボール」

「え?」

謎の言葉を囁いたかと思えば、ぼくを担ぎ上げて、そのまま連行した。図体も態度もデカい彼が、バイオハザードのリッカーみたいな女性に攻められている光景を3時間も眺めさせられた。目を背けたり、瞼を閉じようモノなら、「目ん玉ひんむいてよう見い!!!ワシがモノホンのトウカイテイオーじゃ!!!」と怒鳴られた。後にも先にも、彼の口から本物の関西弁を聞いたのはこの時だけだ。
後ろにも目がついているのだろうか。どんな状況でも即座に怒鳴られた。怖いを通り越して、この後は殺されるんだと言う悲壮感に包まれた。途中から小さく泣いてた気がする。

(▲バイオハザードのリッカー。舌が長い。)

その後の記憶というのは朧げで、どうにかこうにかその場を逃れることができたらしい。が、勝手に電話番号とLINEの交換をされていた。ネットの自由どころか現実世界の自由すらなくなってしまった。ぼくの人生は終わりだと思った。

4.現実の世界で

それからは生き地獄だった。

最初はぼくが東京に遊びに行くたびに、どこから聞きつけるのか、行く先々に彼がいた。時にはぼくが関東の別の県にいる時も付き纏ってきた。それなら最悪東京に行かなければ良かっただけなのだが、今度はどこで調べたのか、家に突然やってきた。安息の地のはずだった我が家が枉死城に思えた。何か悪い気が集まっているように思えた。

あろうことか、彼はぼくの家に居候し始めたりもした。ここまで来ると大学生活にも当然影響が出る。留年コースだった。
ぼくは黙って実家に帰った。電話やらLINEやらが鳴り響くので電源を切った。大学には休学届を出した。

半年が経った頃、休息が功を奏し、体調も徐々に元に戻っていった。ウチは片親で親父だけ。心配をかけていたが、少しずつではあったがバイトも始めたのを見てちょっとだけ安心してくれたようだった。

その矢先のことだった。家に一通の手紙が届いた。手紙、と言うと、白だか茶色だかの封筒を思い浮かべるだろうが、不可解なことにそれは黒いものだった。差出人、のようなものは封筒には記されておらず、ドラマやら映画ですら見ないような、赤い蝋で裏側が留められていた。

宛名だけが金色で書かれていた。中を開いてみると、これまた黒い紙に赤字で何やら書かれていた。読みづらいことこの上なく、書いた本人もたぶん書きづらかったのだろう。誤字、というより文字そのものの間違えが多かった。

・1ヶ月後、N県の某所にあるロッヂでパーティが開催される
・参加者はあなたを含め10名
・各々、3日分の衣服と何か一つだけ持ち込める(ロッヂに入る際に手荷物検査がある)
・パーティはある条件が満たされるまで続く

だいたいこんなことが書かれていた。で、ぼくにもそれに参加しろというわけだ。イタズラをするにしてももう少しマシな嘘をつくべきだ。こんなもの誰が信じて、まして行くなどありえない。人を馬鹿にするのも大概にしてもらいたい。無視することにした。

バイトに勤しみながらも大学の復帰を目指し、少しずつではあるが勉強もしていた。そんな日を1週間ほど続けると、バイト先に1人の男が訪ねてきた。

「お前も参加すんにゃろ?」

友人だった。高校を卒業して、連絡もろくにとっていなかった。久しぶりの一言はあってもいいだろうに、開口一番参加の是非を問われた。最初は何の話かわからず、冷やかしだと決めつけて追い出したが、バイト終わりまで彼は待っていた。

「お前んとこにも届いたんちゃうけ、これ?」と言いながら見せてきたのは例の黒い封筒だった。彼曰く、これはイタズラではなく、本当に招待状で、拒否するとえらい目に合うらしい。ってなぜ彼がそんなことを知っているのか。めちゃめちゃに胡散臭い上にきな臭い話だ。えらい目って、参加したらしたでろくな目に合わないだろう。

「なんでお前がそんなこと知ってんねん。」

「俺の兄貴にもこれ届いたことあんねん。」

一昨年の夏頃、家に一通の手紙が届いた。例のアレのことだ。彼の兄に向けられた手紙だった。その兄の反応というのは、今のぼくと同じようなものだったそうだ。無視をしたところ、1ヶ月を過ぎたある日、彼の兄はひき逃げにあった。幸い命に別状はなく、今も生きてはいるそうだが、半身不随になってしまったそうだ。
彼の両親は大変な資産家で、大きな会社も経営していた。しかしその事業を良しとしない人たちも多かったと言う。当初は何らかの恨みを持った人物による犯行だと言われていたが、どうやらその犯人は例の手紙と関係している。らしい。
最後のは憶測だろ、と口を吐きそうになったが、どうやらそうとしか説明がつかないのだそうだ。
長野ナンバーの黒いSUV車で、彼の兄を狙うように向かってきた。さらに運転手は目出し帽を被っていたそうだ。兄自身は友人からも評判がよく、まして学生だし、当然そこまで恨みを買うようなこともない。1ヶ月という期限から考えても、それ以外ありえない。という考察だった。

「絶対無視すな。俺も行く。お前も来い。」
そう言い残し、彼は帰っていった

信じるしかないのだろうか。ぼくは悩んだ末に行くことにした。友人がああまで言ってくれたんだ。信じよう、そう思った。

長野。ぼく自身には縁もゆかりもないが、祖父やなんかはここいらの育ちらしい。小学生の頃に何度か来たことがある。畑のトマトをその場で食べたり、裏山から竹を取り、その竹を割って流しそうめんをしたり、電信柱に集まるクワガタをとったり、焚き火でお湯を沸かし、五右衛門風呂に入ったり、蚊帳の中で寝たりした。山奥の集落で「え、待って、今って平成やんな?」と言ったことが記憶の片隅にある。
そう、その長野だ。長野はいいところだ。スーパーにわけわからん読んだことのない名前の野菜(なのかもよくわからない)が並んでたりする。あと隣の家がやたら遠い。

こんなのどかな場所で一体何をしようというのか。指定された駅のロータリーに迎えがくると言うが、一向に来ない。

「ここ南口やん。」

手紙を手に持った友人が声を上げる。手紙には北口と書いてあった。強張っていた身体が少しほぐれた気がした。
北口に向かうものの、やはりそれらしきものはいない。と思ったその時、後ろから声をかけられた。

「お待ちしておりました。」

サングラスをかけたスーツ姿の男がいた。いつのまに背後を取られたのか。驚いていると車へと案内された。黒塗りのセダンなんかを想像しがちだが、「○○温泉」なんて書かれたマイクロバスに乗せられた。「カモフラージュなんやろ、知らんけど」友人が言う。マイクロバスの車内には他の客はいなかった。

「あの、他の方は…」

スーツの男曰く、我々が遅れたんで先に行ったのだと言う。南口で結構待ったもんな。車はどんどんと山へ向かう。スキー場やら温泉という文字の書かれた看板が時折見えるようになった頃、道から少し逸れた山道へと入った。揺れる車内。友人は力の入ったような顔をしている。これから何が起こるのか全く想像がつかなかった。

それは立派な建物だ。丸太作りの大きなロッヂ。中からは人の声がする。先に着いた連中だろう。しかし、様子が変だった。

「なんなんですかこれは!!!全く!!!こんなことは聞いておりません!!私は帰らせていただきます!!!もん!!!!!!」

恰幅のいい1人のおじさんがそんなことを言いながら玄関から出てきた。お金持ち風のそのおじさんは怒り気味にロッヂを後にした。よく見たら布施明だった。通りでシクラメンの香りがするわけだぜ。

中に入って腰を抜かしてしまった。玄関から入ってすぐ、吹き抜けの大きな広間になっているのだが、その中心で男性がうつ伏せで倒れていた。そのお腹のあたりから大量の血が流れ、その男性を囲むように人が並んでいた。

「こいつぁパーティどころじゃなくなっちまったなぁ!!!なぁ!!そうだろう!!!」

嘘やろ。この声。喋り方は違えど、何度も聞いたこの声。間違いない。彼だった。彼もまたこのパーティに招待されていた。信じたくはないが、顔を上げると彼が立っている。
しかし、ぼくはその風体に驚きを隠せなかった。少し、いやだいぶ痩せており、身なりも以前よりも清潔になっている。目の前にいる彼が彼でないような気すらした。ただ目が、耳が、鼻が、体が彼を覚えている。3時間も彼の喘ぎ声と怒号を交互に聞かされたこの耳が間違えるはずがない。

「ひとまずこのパーティの主催者が何らかの動きを見せない限りはこちらも下手には動けません。もちろんここから逃げてもおそらく…」

「ンハッ!!ンナギャァァァアアアアアアアア!!!」

彼がそう話していると、玄関の外、森の方から叫び声が聞こえた。たぶん布施明だ。後半の伸びがいい。すごくいい声だ。
その叫び声でここに留まるしか選択肢がないと気付かされたぼくたちはそれぞれ置いてある椅子に座った。
よく見ると、見知った顔ばかりじゃあないか。

「うぉい!!!うぉいうぉい!!!へいへい!!!サァッ!!!!!!!!!」

福原愛はスリッパを持って銀杏を打っていた。彼女の目は死んでいない。むちゃくちゃに撃ち放たれた銀杏ショットガンの弾が顔を掠め、床へ散らばった。

「んもぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜くっさぁ〜〜〜〜〜〜い!!!!」

床に倒れていたIKKOがムクリと起き上がった。
「あたしが寝てる間にこんなに散らかして!!!お前!!!!市中引き回しの刑に処す!!!!処す〜〜〜〜〜〜〜〜!!!処すだけ〜〜〜〜〜〜!!!」

「バッッッキャローーーーーーーー!!!!ママゴトじゃあないんだよ!!!!!テメェが死んだってぇから布施明は犠牲になっちまったんだぜぇ!?!?それがわぁってんのきゃよぉぉぉう!!!!!!」

彼だ。彼はブチ切れた。IKKOの髪の毛をグワシと掴んだかと思うと、一気に引き寄せた。がしかし、IKKOの髪の毛はカツラだったのだ。力いっぱい引いた腕は急には止められず、自分の拳を自分の鼻にぶつけることになった。鼻血が血飛沫になって辺りを赤く染める。

「チィッ!!!!これじゃあ血のシャンパンじゃあないかよぉ!!!ええい!!ままよ!!!」
彼は、マカロニで鼻から口に直通バイパスを即席で作り、鼻血による失血死を免れた。

「ケッ!!!!銀杏臭えパーティかと思ったら今度は血生臭えんだぁよぉ!!!!ワハハ!!!!!」

柴田理恵だ。椅子に深く腰掛け、腕組みをし、沈黙を続けていた柴田理恵が言った。
「そろそろ出てきたらどうなんだぁよぉ!!!!おらぁ戦ぇたくってウズウズしてんだぁ!!!!!本舗!!!!」

すると壁掛けのテレビに仮面をつけた人物が映った。このパーティを主催したゲームマスターだという。うさんくせぇったらねぇや!このロッヂでバトルロワイヤルってか!!べらんめぇ!!!!やらいでか!!!!!

「地獄に落とすわよぉぉ!!!!!」
ブチ切れた細木数子が半狂乱で参加者を一人ずつビンタしていった。よく見ると手の平には六芒星と手の甲には666の数字。悪魔を召喚しようって寸法だ。素早く手印を刻む。慣れた手つきだ。シャッシャッシャッシャッ!!!

「お〜〜〜っと、細木さん。その寅の印、間違えてるぜぇ〜!?戦争じゃあ一つのミスが命取りになるっつーのをよく覚えときな!!!!」

そう言うと柴田理恵はカバンの中からゲームボーイを取り出すとロードランナーのカートリッジを挿した。すると突然床が抜け落ちる。ロードランナーの力だ。柴田理恵はロードランナーの使い手だったのだ。その昔高橋名人を赤坂のマンホールに沈めたことで、柴田理恵はTBSの悪魔と恐れられたほどだ。

「あぎゃっ!!!あぎゃぁぁああああああ!!!!」

細木数子が落ちる。
「あんた!!!覚えときな!!!こなくそッッ!!!!大柴!!!ルー大柴!!!!」

「へーーーーい!!!和子!!!ミーがヘルプにカムだぜ!!!!!」

ルー大葉は細木数子の身代わりになり、ロードランナーの穴へと落ちていった。


ヒョルルルルルルルルル………チュドーン!!!

外から甲高い音の後に、何かが落ちる大きな音がした。庭にはスペースポッドが不時着していた。ガコンッと開いたドアから、1人の影が現れた。
「貴様らのような、太陽系のゴミ、あーくし1人で十分ざます」
よく見るとそれはすしざんまいの社長だ。

" ALL I EAT SUSHI "

そう叫んだ刹那、ロッヂは木っ端微塵に吹き飛び、周囲10kmの表土が捲れ、岩盤が剥き出しになった。
「あーくしの"すしざんまい"、もう一貫いかが?」

「もう………黙って見てるだけなんて…ごめんなんだぜ………」
彼は涙した。今までの無礼に。今までの非礼に。ユニバーサルスタジオジャパンもといパルケエスパーニャのスタッフに、一緒に強くなったもとい経験値を吸わさせていたゲーム仲間に、鶯谷の風俗嬢に………

「よし………みんな………アレをやるぞ……」

「「「「「アレ…?」」」」」

「決まってるだろ……?
合体だぁぁぁぁあああああああ!!!」

「はっしーりだっしったー♪おもいがぁいまでもぉ♪」

「あっ!細木さん!!それ私の歌ですよ!!!」

しょこたんを尻目に細木数子が歌い出した瞬間、彼の股間は巨大なドリルと化し、有象無象を飲み込み、超天元突破グレンラガンへと合体した。

「そんな……ありえない………それがあーたたちの力だって言うの………!?」
驚くすしざんまいの社長。

「必殺!!!!超………天元突破……ギガ……ドリル……ブ

5.大先生

いい加減自分の好きな作品を汚すのはやめようと考えたぼくが良い感じに事態の収拾をした。

彼は、トロオドンは、世界を救った英雄へとなった。連日、その巨大な股間を世界中へ見せびらかしたとして多方面から大小様々な訴訟を起こされていたことを除いては、彼の生活は変わらなかったが、やはり彼がこの世界を救った事実は大きいことだった。

「今まで悪かったやで。すまんかったやで。」

相変わらずキショい関西弁は直っていない。

「たまらん戦いだったやねんな」

「すんません、ぼく何にもできひんくて」

「ケッ、そんなこと気にすんじゃねぇやねん」

「手も足も出ませんでした…」

「とにかく生きてるんやねんからええがなええがな、ところであの友達はどこいったやねん」

「ロッヂ吹き飛ばされた時、逸れてしもて…見てませんか?」

「俺は見てないやねんな」

「どこいったんや…あいつ…」

「ん?あれはなんだやねん」

西の方角を見ると、友人がいた。

「こっちや!!お前、生きてたんか!!」

「ロワイヤル……バトルロワイヤルはまだ……終わってへんぞ…………」

「下がるやねん!!!逃げるやねん!!!」

「歴史は繰り返されるんや!!!死ねぇ!!!」

「ルー大柴ァァァ!!!ルー大柴ぁ!!!!!」

藁にもすがる思いで、ロードランナーの穴へと落ちたルー大柴を呼ぶと、ルー大柴はぼくの前へと飛び込み、友人の持つククリナイフを手刀で真っ二つにした。ロードランナーの穴は宇宙へと開かれ、なんとスペースポッドと同じくしてルー大柴も不時着していたのだった。

「またワットがビギンしたらミーをコールしてくれよ!!!」
ルー大柴は夕日の沈みゆく日本海へと徐々に浸かっていき、消えた。

事の顛末は、全てぼくの友人の仕業だと言う事だった。よく考えたら、ぼくが参加者であると知って近付いてきた時点で気付くべきだった。


その出来事から、ぼくはトロオドン氏から逃げることをやめ、大学にも復学した。逃げるとは言っても、彼が執拗に追いかけてくることもなくなった。命を救ってくれた恩人、大先生と呼ぶようにもなった。

しかし、大先生と呼ぶようになってから、また大先生は増長し始めた。俺の言うことは絶対だ、なんて言葉は何度聞いたかわからない。

今でも少し反論しようものならこうだ。

( ▲時系列としては下から上へ読む )

今回も、ぼくに怪文書は書けないと言っているのに、彼の主催するアドベントカレンダーの穴を埋める要員に駆り出されたわけだ。

あれから現実世界で会うこともほとんど無くなり、今も交流があるのはもっぱらインターネットの世界。
時折タイムラインを眺めていると、大先生が女性と思われるアカウントにセクシャルハラスメントをしているのを見かける。そのうち捕まりそうだ。
関係性は昔と対して変わらず、事あるごとに罵声を浴びせられている。

長い付き合いではあるが、初めて彼を見た日から、今もこのように虐げられる日々。いつになったら対等になれるのか、その日はまだまだ遠いようだ。

おわり

6.最後に

ぼくにはこれくらいのことしかできない。ただ事実を伝えることだけ。許してほしい。

よくここまで読めましたね、お疲れ様です。

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