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【庚申の怪】 モニターホン

残暑厳しい、寝苦しい晩夏のことです。

扇風機のタイマーをかけて布団に転がり、ようやく眠りに落ちる寸前。

いきなりインターホンのチャイムが鳴り響きました。

「こんな時間に?」

私は憤慨しながら目を開けました。

おかしな事に他の家族が起きだしてくる気配はありません。

仕方なく布団を抜け出し、インターホンのモニターを覗き込んで……息を呑みました。

そこに映し出されていたのは息子の寝顔。

暗闇の中で撮影したと思しき、素子の粗い画像がモニターの中に次々と現れます。

そんなことはあり得ないと思いながら、私は慌ててその画像を消そうと必死でモニターに手を伸ばしました。

一生懸命にインターホンのモニターを消そうとしたり画面上の写真を叩いたり。

「何で? 何で消えないの?」

焦ってそう叫ぶ私の耳に、低い、小さな声が囁きました。

『これ、消したら殺しちゃうよ? この子、殺しちゃうよ?』

「いやっ!!」

自分の声で目が覚めました。

「……あ、夢?」

ホッとしたのと同時に、恐怖が心に湧き上がり、布団の上で暫く身動きも出来ませんでした。

少しずつ落ち着いてくると、隣に眠っている息子の寝息が聞こえてきます。

規則正しく聞こえる我が子の寝息に、私は心の底から安堵しました。

中学生になっても私の隣に寝ている息子。

そろそろ大きな家に引っ越して、自分の部屋を作ってやらないとなぁ。

現実的な事を考えて、私は寝返りを打ちました。

タオルケットを跳ね除けて長い手足を持て余すように眠っている息子。

その枕元に膝立ちになっている……見知らぬ男。

オレンジ色の常夜灯に照らされている右手には小型のビデオカメラを、左手には──鈍く光るナイフを握っていました。

「ひっ!」

悲鳴を飲み込んだ私に視線を移し、男はナイフを握る左手を口元に持って行くと黙るように指示しました。

『シーッ。騒ぐと、この子、殺しちゃうよ?』

それは先ほど夢の中で聴いた声と同じものだったのです。