名大で初めて○○した日vol.14 名大で初めて先生の嘘を聞いた日
私は1986年に名古屋大学に入学しました。私にとって入学後の大学生活というのは、見るものすべて新しく、毎日大学に通うのが楽しくてしかたありませんでした。とりわけ体育会のワンダーフォーゲル部や第2外国語のロシア語の授業などが新鮮な体験でしたが、ここでは大学1年の数学の授業中にあった出来事をお話しします。
それは解析学(微分積分)の授業で、担当していたのは、たしか名古屋工業大学から非常勤講師として来られていた先生だと思います。大きな声でハキハキと話す先生で、講義はとてもわかりやすかったです。その頃、リビアのカダフィー大佐が欧米諸国と対立していました。ある日の午後、講義室にやって来た先生は神妙な面持ちで、「いま昼のテレビで、アメリカがリビアに対して戦術核兵器を使用したというニュースが伝えられました。皆さん、どうしますか?全面核戦争に発展して、世界は終わってしまうかもしれません。それでも今から数学の授業を受けますか?」と言いました。私を含め、教室にいた学生たちはみな、えっ?という顔をして黙りました。今ならスマホ等ですぐにニュースを確認するでしょうが、当時はインターネットもなく、しかしリビアとアメリカが緊張関係にあることは知られていたので、「(全面核戦争はともかくとして戦術核兵器の使用は)ありえる・・・」とみんな思ったと思います。みんなの顔に緊張が走ったのを確認して、先生は「冗談です!」と言いました。みんな緊張が解けて笑いました。なんてふざけた先生だろう!と私は思いました。
先生はどうしてあんな嘘をついたのだろう?と今でも私は考えます。たちの悪い嘘だとは思いますが、来月か来週か明日にでも人類が滅亡してしまうかもしれないというぎりぎりの状況が迫っても勉強を続けるのか?そこまでして勉強したいか?あなたは何を優先するのか?という究極の問い掛けを先生はしたのだと思います。あの先生の嘘を私は一生忘れないと思うし、「それでも勉強を続けますか?」という問いに対する答えを私は一生考え続けると思います。冗談にしても、問い掛けにしても、今どきであれば大学の先生があんな嘘をつくことはとても許されないだろうと思いますが、名古屋大学に入学してよかったと思う体験でした。
入学してから工学部を卒業し、大学院理学研究科に進学し修了するまで充実した学生生活を送らせていただいた母校に感謝しています。いま在学している、あるいはこれから入学する学生たちも、知的刺激のある豊かな学生時代を送ってもらいたいと思います。
~1986年~1989年のキャンパス風景~
谷村先生が学部生として過ごした1986年~1989年頃の東山キャンパスの様子をご紹介いたします。