英愛障害競走概要&欧州障害競走の祭典・チェルトナムフェスティバルの概要と展望

はじめに

ヨーロッパの平地競走は大体4月〜10月、春から秋にかけての半年間に大レースの全てが行われ、それ以外の期間はオフシーズンとなる。
半年近いオフシーズンの間、欧州の競馬ファンが注目するのが「障害競走」である。
イギリス・アイルランドにおいて障害競走は「ナショナルハント(National Hunt)」と呼ばれ、平地競走に勝る人気を集めている。

そんなヨーロッパの障害競走が、最高潮の盛り上がりを見せるのが3月半ばだ。
何故か?
全世界の障害競馬ファンが待ち望んだ、今年のハイライトとなり得る特大の開催が行われるからである。

チェルトナムフェスティバル

障害競走の聖地、イギリス・チェルトナム競馬場で行われる年に一度の、世界最大の障害競走の祭典である。
今年は3月12日から16日にかけての4日間に渡って開催され、28ものレースのうち、半数の14がGⅠレースという最高に豪華な開催となっている。
平地競馬で例えるならば、アメリカのブリーダーズカップか。
ヨーロッパの障害競走における各路線の今年の「最強」を決める戦い、それがチェルトナムフェスティバルだと言っても決して過言ではないだろう。

ヨーロッパでは平地競走より障害競走の方が人気、と聞いたことがある人は多いだろうが、その一方で障害競走について詳しく見たことがあるという人は少ないと思われる。
何せ、マトモに調べようと思ったら英語のサイトを見に行かなければならないし、日本国内でヨーロッパの障害競走が中継放送されるという話も聞いたことがない(わたくしが浅学なだけならば申し訳ないが)。
日本国内でのヨーロッパの障害競走、及びチェルトナムフェスティバルへの関心は、さほど高くないというのが実態だと感じられる。

この記事ではヨーロッパ、その中でもイギリス・アイルランドの障害競走についての簡単な解説から始め、チェルトナムフェスティバルの概要を書かせて頂きたい所存である。
そして、チェルトナムフェスティバルで行われる14のGⅠレースの中から、特に重要だと考えられる2つのGⅠをピックアップし、簡単に展望していきたいと思う。
かなり長くはなるが、移動時間の暇潰しにでもご覧頂ければ幸いである。
その上で、ヨーロッパの障害競走に少しでも興味を持って頂けるならば、長々と記事を書いた私の徒労も少しは報われることだろう。

なお、本稿を書くにあたっては2024年3月11日現在の情報を元にしているので、その点はご了解を頂きたい。


障害競走(ナショナルハント)の概要

チェルトナムフェスティバルの概要を説明する前に、まず前提知識として、ある程度ヨーロッパの障害競走の概要を把握しておく必要があるだろう。
ヨーロッパの障害競走は、日本国内の障害競走とは全く異なる
それは人気や注目度という面でもそうだし、番組や障害馬のキャリアなども全然違ってくる。私自身、復習を兼ねて簡単に書かせてもらえればと思う。

障害競走(ナショナルハント)の種類

大別すると、ヨーロッパの障害競走には2種類ある。
ハードル競走スティープルチェイス競走である。

あくまでも「大別」であるということにはご注意頂きたいが、まずはこれについての簡単な解説から始めていきたい。
日本の競馬ファンからすると、そもそも「2種類あるってどういうこと?」という感じだろう。ハードルはともかく、スティープルチェイスは聞き馴染みのない言葉だという人も多いはずだ。

ヨーロッパの障害競走は、どんな障害を飛ぶかの違いにより、ハードル競走とスティープルチェイス競走に分けられる。
図で示すのが最も手っ取り早いだろうと思うので、ひとまず次の画像をご覧頂きたい。

ハードル競走

これがハードルで、

スティープルチェイス競走

こっちがスティープルチェイス(以下チェイスと略する)である。
置かれている障害物が違うということが、一目でお分かり頂けると思う。

ハードルは高さ約107cm以上の小さな置障害を使用する一方、チェイスは高さ約173cm以上の大きな固定障害を使用し、水濠障害や空堀障害も用意されている。
ハードルの障害は低い上に柔らかく、最悪蹴り倒して進むことができるが、チェイスの障害は高い上に硬いので、飛越に失敗すると危険である。
日本の障害競走をハードル・チェイスの区分に当てはめるならばチェイスとなるだろう(厳密には異なるけど)。

障害物を蹴り倒すことのできるハードルでは、飛越に高い技術が要求されない。勿論高い方が良いが、それよりは平地でのスピードが求められる傾向にある。
一方、チェイスは飛越に失敗しないことが絶対条件であるため、平地力以上に高い飛越技術が求められる。

このため、ヨーロッパの障害馬はまずハードルを走り、レースに慣れてからチェイスに転向するというのが一般的である。5年以上走る障害馬も珍しくないため、無事に走り続けることができれば、そのキャリアは非常に長いものとなる。
1頭の馬を長い間応援し続けることができるというのは、障害競走の非常に大きな魅力の1つであり、ヨーロッパにおいて平地競走より障害競走の方が人気である要因の1つではないかとも私は感じている。
ヨーロッパの平地GⅠ馬、特に年に幾つもデカいGⅠを勝つような馬は3歳引退が基本で、すぐにいなくなってしまうからね……好きになった頃には引退している、というパターンも少なくないので、そりゃ人気出ないわ……。

なお、ヨーロッパの障害競走においては、発馬機(スターティングゲート)を使用しない
スタート地点にはロープが内ラチから外ラチまで引っ張られており、そこから少し離れた地点に出走馬たちが集まった状態から発走する。
スタート地点で如何に馬を落ち着かせ、良いポジションからレースを始めるかという点においては、騎乗するジョッキーの技術や研究が問われるところとなる。

障害競走(ナショナルハント)の距離体系と障害馬のキャリア

距離体系としては、ハードル・チェイスそれぞれで短距離・中距離・長距離に大別される。

短距離:2マイル(約3200m)前後
中距離:2マイル半(約4000m)前後
長距離:3マイル以上(約4800m)以上

いや短距離でも3200mかよ全然短くねーよ、とツッコみたくなるが、とにかく3200mでも障害競走においては短距離である。
有名なグランドナショナルに至っては約6900mあり、8分以上も障害を飛越しながら走るわけであるから、障害馬にはスピード以上に豊富なスタミナが求められる。
もっとも、グランドナショナルはずば抜けて有名とはいえ、ヨーロッパの障害競走の中でもかなり特殊なレースなので、アレをヨーロッパの障害競走のデフォルトだとは考えないでほしい。あんな馬を殺しに来てるとしか思えないレースがデフォであってたまるか。

続いて、障害競走を走る馬のキャリアについて。
先程もチラッと書いたが、基本的にはハードルからデビューし、将来的にはチェイスに転向するというのが大雑把な流れである。
中にはハードルに留まり続ける馬やハードルとチェイスを反復横跳びしている馬などもおり、馬ごとに目指すところやキャリアデザインは当然異なってくるが。

日本だと障害馬は全てが平地競走で結果を出せずに転向した馬であり、勿論ヨーロッパでもそういうパターンはあるが、多数派ではないという印象がある。
ヨーロッパの障害競走においては、障害馬は初めから障害馬としてデビューすることも多い。
そのスタート地点は非常に多種多様であるが、ここでは大まかな2つを紹介しよう。

まずはフラットレースからデビューするパターン。
フラットレースというのは、デビューしたばかりの障害馬がレースに慣れるために行われる、障害馬用の平地競走である。
障害が置かれていない障害レース、と言うべきもので、平地競走とはまた別のものになる。非常にややこしいが。
騎乗するジョッキーもキャリアの浅い若手騎手であり、人馬ともに障害競走に慣れるためのレースというわけだ。こうしたレースのことをバンパーと呼ぶこともある。

次に、ポイントトゥポイントからデビューするパターン。
ポイントトゥポイントというのは、イギリス・アイルランドの各地で行われている、アマチュア騎手限定の非公式レースである。障害も置かれているが、公式のレースに使われる物よりは難易度が低い物となっている。

この他にもルートはあるが、ともあれレースにデビューした馬たちは頑張って走り、最終的には格の高いレースに勝利することを目指すというわけだ。
しかし、デビューしたての馬がいきなり歴戦の馬たちに混じって走り、結果を出すということは難しい。

そのために用意されているのがジュベナイルノービス(ノーヴィス)という条件のレースである。
ジュベナイルは10〜12月は3歳馬のみが、1〜4月は4歳馬のみが出走できるレースであり、平地競走で言えば2歳戦といったところか。ジュベナイル路線には短距離のハードル戦が組まれている。
ノービス(ノーヴィス)は直訳するならば「初心者」となり、前シーズンまでに勝利したことのない馬が出走できるレースのことである。
ハードル・チェイスそれぞれに用意されており、「前シーズンまでにハードル競走で勝利したことのない馬」が「ノービスハードル」に、「前シーズンまでにチェイス競走で勝利したことのない馬」が「ノービスチェイス」に出場することができる。
また、ハードル競走で勝利したことがあっても、チェイス競走で勝利したことが無ければ「ノービスチェイス」を走ることができる
あくまでも「前シーズンまでに」なので、ノービスハードルに出場して勝利したとしても、そのシーズンが終わるまではノービスハードルに出続けられるという仕組みである(なお、障害競走のシーズンは「22/23年シーズン」「23/24年シーズン」というような数え方をする)。

まとめると、障害馬は大体がノービスハードル→ハードル→ノービスチェイス→チェイスというキャリアを歩むこととなるだろう。
それぞれの路線で重賞レースなどが用意されており、チェルトナムフェスティバルでもバンパーのGⅠ、ジュベナイルのGⅠ、ノービスハードルのGⅠ、ノービスチェイスのGⅠなどが組まれている。
こうしたレースを目標としながらも、自身に適した距離条件を模索しながら結果を出すことを目指し、ステップアップを図るというわけだ。

障害競走の路線については、おおよそ以下の通りに分けられるだろう。
・バンパー
・ジュベナイルハードル
・短距離ノービスハードル
・中距離ノービスハードル
・長距離ノービスハードル
・短距離ハードル
・中距離ハードル
・長距離ハードル
・短距離ノービスチェイス
・中距離ノービスチェイス
・長距離ノービスチェイス
・短距離チェイス
・中距離チェイス
・長距離チェイス
この他にも、近年では牝馬限定戦の番組などが充実してきており、更に細分化することも可能であろう。
日本とは全く違うと述べたが、ここまで読んで頂いた方にならば、ヨーロッパ(イギリス・アイルランド)の障害競走が日本より遥かに活発であり、それ故に遥かに細かく体系整備されたものであるということがお分かり頂けたはずだ。
まあ細かく整備しすぎてるからか、重賞の出走頭数が5頭とか4頭とかそういう現象が当たり前に起こるんだけどね。英国内の障害GⅠでは昨年のゴールドカップ以降、出走頭数が10頭を超えたレースは1つも無かったとか。

また、障害を走る馬は基本的にセン馬である。
牝馬も当然いるが、牡馬たちに関しては軒並みデビュー前の段階で去勢されている。障害競走のタイトルにはほとんど種牡馬価値がない。
そんな障害馬たちの父、障害用種牡馬となるのは、主に平地競走で結果を出したステイヤー達である。
現役時代はA.オブライエン厩舎に所属し、ロイヤルミーティングの🇬🇧GⅠ ゴールドカップ(アスコット芝3990m)を2006〜09年に4連覇したイェーツ(Yeats)などはその筆頭と言え、2017〜20年に🇬🇧GⅠ グッドウッドカップ(グッドウッド芝3200m)を4連覇、2018〜20年にゴールドカップを3連覇するなどしたJ&T.ゴスデン厩舎のストラディバリウス(Stradivarius)も、障害用種牡馬としてのスタッドインを果たしている。
また、近年では12ハロン以上でしかGⅠのタイトルを獲得できなかった平地競走馬も障害用種牡馬として繋養されている。具体的に名を挙げるならば21年のアイリッシュダービー馬ハリケーンレーン(Hurricane Lane)や、22年の🇬🇧GⅠ キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(アスコット芝2390m)などを制したパイルドライヴァー(Pyledriver)辺りがこのパターンに該当する。
ヨーロッパの平地競走は見るけど障害競走は知らないという方は、障害馬の血統に目を向けてみると、知っている名前や懐かしい名前を見つけられることだろう。

障害競走(ナショナルハント)の格付け

最後に、レースの格付けについて。
これはイギリスとアイルランドで微妙に異なっており、アイルランドにおいては平地競走と同じくGⅠ・GⅡ・GⅢ・Listed(リステッド)となっている。この他、未勝利戦(Maiden)などの条件戦がある。
一方、イギリスにおいては今シーズンからGⅢが無くなり、新たにプレミアハンデキャップ(Premier Handicap)という言い方に変更された。
また、基本的にはGⅠ>GⅡ>GⅢ(PrH)という理解で問題ないものの、必ずしもGⅠじゃないからと言って価値が低いということにはならない
ハンデ戦はGⅠにはなれないため、グランドナショナルはPrHとなるが、その価値は並のGⅠ以上である。アイルランドで行われるアイリッシュグランドナショナルもグレード的にはリステッド競走となっているが、その価値は通常のリステッドのレベルには留まらない。
平地競走におけるGⅠ>GⅡ>GⅢという価値観と障害競走におけるグレードの価値観は微妙に異なるため、その混同を避けるべく、イギリスにおいては今シーズンからプレミアハンデキャップ(PrH)という表現に変わったのではなかろうかと想像される。
個人的には分かりやすくて良いと思うよ、PrH。是非定着させてくれ。

と、ここまでで既に相当な字数を消費しているが、障害競走(ナショナルハント)の概要については大体書いたのではないだろうか。
かなりザックリとした説明ではあったが、詳しくは各々お調べ頂ければと思う。私も聞かれたら、答えられる範囲で答えるヨ。

ここからが本題、3月12日から行われるチェルトナムフェスティバルについて述べさせて頂きたい。

チェルトナムフェスティバルの概要

まずはチェルトナムフェスティバルとは何ぞや? というところだが、先述した通り4日間に渡ってチェルトナム競馬場で行われる障害競走の祭典のことである。
4日間に28のレース、その内14はGⅠレースとなっている。

3月12日、チェルトナムフェスティバルの初日はチャンピオンズデーと呼ばれる。
開催レースは以下の通り。なお、距離に関してイギリス・アイルランドはクソと名高きヤード・ポンド法を使用しやがっているため、距離に関しては「約」であることをご承知頂きたい。

GⅠ シュプリームノービスハードル(3200m)
GⅠ アークルチャレンジトロフィー(ノービスチェイス3200m)
PrH アルティマハンデキャップチェイス(4900m)
GⅠ チャンピオンハードル(3300m)
GⅠ メアズハードル(牝馬限定・4000m)
PrH ブードルズジュベナイルハンデキャップハードル(4歳・3300m)
GⅡ ナショナルハントチェイス(ノービス6000m)

メインレースは太字で示した通り、チャンピオンハードルである。短距離ハードラー最強決定戦となるこのレースについては、後ほど詳しく展望する。
シュプリームノービスハードル、アークルチャレンジトロフィーはハードル・チェイスそれぞれの短距離ノービス路線の最高峰である。
メアズハードルは牝馬中距離路線の最高峰で、チェルトナムフェスティバルの牝馬限定戦として唯一GⅠの地位を獲得している。
ブードルジュベナイルハンデキャップハードルは、最終日のトライアンフジュベナイルハードル(GⅠ)に挑むほどではない馬が出走するレースとされる。
ナショナルハントチェイス(ナショナルハントチャレンジカップ)はアマチュア騎手が騎乗するノービスのレースであり、当初は4マイル(約6400m)超えだったものが、現在は約6000mにまで短縮された。……いや、それでもなげーよ。

3月13日、2日目はレディースデーである。

GⅠ バリーモアノービスハードル(4200m)
GⅠ ブラウンアドバイザリーノービスチェイス(4900m)
PrH コーラルカップハンデキャップハードル(4200m)
GⅠ クイーンマザーチャンピオンチェイス(3200m)
グレンファークラスクロスカントリーチェイス(6000m)
PrH グランドアニュアルハンデキャップチェイス(3300m)
GⅠ チャンピオンバンパー(フラットレース3200m)

クイーンマザーチャンピオンチェイスは、短距離チェイス路線の最高峰たるGⅠであり、この日のメインレースである。
せっかくなので、2日目のハイライトたるこのレースについては、以下に簡単な展望を記しておこうと思う。

現在、チェイス2マイル(3200m)路線には2頭のトップホースがおり、本レースも二強の様相を呈している。
エルファビオロ(El Fabiolo)ジョンボン(Jonbon)、どちらも複数のGⅠを制している強豪であり、ライバル関係にあると言われている。
今シーズン、エルファビオロは🇮🇪GⅠ ダブリンスティープルチェイス(レパーズタウン3400m)を、ジョンボンは🇬🇧GⅠ ティングルクリークチェイス(サンダウンパーク3200m)を優勝。
また、それぞれGⅡを1つずつ制している。
今シーズンにおける2頭の初対決になると言われたのは🇬🇧GⅠ クラレンスハウスチェイス(アスコット3400m)であったが、馬場浸水・凍結による開催延期、チェルトナム競馬場での代替開催に変更されたことに伴い、エルファビオロが同レースを回避。2頭の対決は、このチェルトナムフェスティバルまで持ち越されることとなった。
久々のライバル同士の直接対決。短距離チェイス路線を牽引する2頭が大きな注目を集めている一方、他の出走馬も虎視眈々といった雰囲気であり、この2頭の寝首をかく馬が現れても不思議ではない。
実際、寝首をかいた馬もいる。前述の通り、エルファビオロが回避したことでクラレンスハウスチェイスはジョンボンの完全な一強体制となった。
言うなれば銀行Vやねん!ジョンボン状態だったが、このレースでジョンボンは2着に敗れたのである。
1着馬はエリクサードゥナッツ(Elixir De Nutz)
今シーズンは他にもGⅡを制しており、着実に力をつけてきたという印象がある。
この他、今シーズンの同路線における重賞ウィナーたちもそのほとんどが参戦しており、エルファビオロもジョンボンもライバルだけを見ているわけにはいかないのではないだろうか。
なお、エルファビオロは3日目のライアンエアーチェイス(GⅠ)にも登録があり、どちらに出走するかによっても予想が大きく変わってくるだろう。

バリーモアノービスハードルは中距離ノービスハードル、アドバイザリーノービスチェイスは長距離ノービスチェイスの最高峰。
コーラルカップハンデキャップハードルはチェルトナムフェスティバルの中でも最も激しいレースとなり、20頭以上による障害のハンデ戦と荒れる要素しかない。
昨年も単勝50-1(51.0)倍の馬が優勝し、大波乱の決着となっている一方、後にGⅠウィナーとなる馬を輩出する出世レース的な側面も兼ね備えている。
ちなみに今年の登録馬は72頭。どーすんだよこれ……(ドン引き)
グレンファークラスクロスカントリーチェイスは、チェルトナム競馬場の内馬場にある専用コースで行われる。先ほどの説明には含めていなかったが、クロスカントリーというのはバンクを上り下りしたり、通常のチェイスでは飛ばない生垣を飛んだりする特殊なチェイスである。競馬場によってはラチすら立てられていない場合もあり、より自然な環境で行われる。
チェルトナムのクロスカントリーコースはほとんど使用されないので、このチェルトナムフェスティバルにおけるクロスカントリーチェイスは非常にレアだと言える。重賞でこそないものの今年の出走メンバーも豪華になりそうで、これも必見のレースとなろう。
グランドアニュアルハンデキャップチェイスは2マイルのハンデ戦。
チャンピオンバンパーは唯一のフラットレースにおけるGⅠであり、ここから来シーズンに飛躍するハードラー・チェイサーが現れる可能性が高く、未来のジャンプスターを探したいところだ。

3日目の3月14日はセントパトリックズサーズデー

GⅠ ターナーズノービスチェイス(4000m)
PrH ペルタンネットワークファイナルハンデキャップハードル(4800m)
GⅠ ライアンエアーチェイス(4200m)
GⅠ ステイヤーズハードル(4800m)
PrH フェスティバルプレートハンデキャップチェイス(4200m)
GⅡ ドーンランメアズノービスハードル(牝馬限定・3400m)
キムミュアチャレンジカップハンデキャップチェイス(5200m)

メインレースはライアンエアーチェイスである。こちらについても簡単に解説しよう。
有力馬の1頭がJ.オブライエンが管理するバンブリッジ(Banbridge)。昨シーズンには🇬🇧GⅠ ロトマニフェストノービスチェイス(エイントリー4000m)を制し、今シーズンは復帰戦となったGⅡを快勝して臨んでいる。
昨年の覇者でありGⅠ7勝のエンヴォイアレン(Envoi Allen)は、今シーズン2戦して3着2着と勝ちこそ無いものの安定した成績を収めており、今年も有力視される。
他には🇬🇧PrH パディパワーゴールドカップチェイス(チェルトナム4100m)を制したステージスター(Stage Star)なども有力馬であり、ここはいささか混戦模様か。
エルファビオロ(El Fabiolo)がクイーンマザーチャンピオンチェイスでなくこちらに出てくる可能性も考えると、直前まで予想を固められないレースとなりそうだ。

ターナーズノービスチェイスはマーシュノービスチェイスとも呼ばれ、中距離ノービスチェイス路線の頂点を決定するレースである。
ペルタンネットワークファイナルは21の予選にあたるレースを通過してきた馬たちによるレースで、ステイヤーズハードルはハードル長距離路線の最高峰。
プレートハンデキャップチェイスはハンデ戦であるが故に毎年荒れ模様であり、どんな低人気の馬にも勝つチャンスがある英国ギャンブラー紳士歓喜のレースだ。
ドーンランメアズノービスハードルは2016年に創設された比較的新しいレースであり、短距離ノービスで走る牝馬たちが争う。
キムミュアチャレンジカップはアマチュア騎手限定のレースである。

最終日となる3月15日はゴールドカップデー

GⅠ トライアンフジュベナイルハードル(4歳・3300m)
PrH カウンティハンデキャップハードル(3400m)
GⅠ アルバートバートレットノービスハードル(4800m)
GⅠ チェルトナムゴールドカップチェイス(5300m)
セントジェームズプレイスハンターズチェイス(5300m)
GⅡ ミセスパディパワーメアズチェイス(牝馬限定・4000m)
マーティンパイプハンデキャップハードル(4000m)

その名の通り、メインレースはチェルトナムゴールドカップである。このレースについても、この後でチャンピオンハードルと併せて詳しく展望する。
トライアンフハードルは4歳ハードラーの最強を決定するレースであり、ここを勝ってチャンピオンハードルを制する馬も過去には現れている。
カウンティハンデキャップハードルは長年チェルトナムフェスティバルの荒れる最終レースとして、英国紳士たちに夢と希望を与えていた(?)のだが、2009年からは最終日の2レース目に組まれている。
長距離ノービスハードル路線の最高峰がアルバートバートレットノービスハードルで、ステイヤーズハードル勝者も輩出する、若きトップステイヤー選抜レースだ。
セントジェームズプレイスハンターズチェイスはアマチュア騎手による競走。アマチュア騎手の頂点を争うレースである。
ミセスパディパワーメアズチェイスは2021年から追加されたチェルトナムフェスティバル最新のレースであり、牝馬中距離チェイサーたちが集まる。
そして、チェルトナムフェスティバルの最後はマーティンパイプハンデキャップハードル。デビュー直後のプロの新人騎手のみが騎乗するレースで、ここから飛躍する馬も多く、最後まで目が離せない。

以上、1日7レースで4日間。
計28レース、24の重賞レース、14のGⅠレースがチェルトナムフェスティバルの全てだ。
まさしく「各路線の最強決定戦」。この4日間にヨーロッパの障害競走を牽引するトップスターホースたちが一同に会し、チェルトナム競馬場の同じコースを走る。
ヨーロッパの障害競走、その歴史を作ってきた馬たちは、そのほぼ全頭がチェルトナム競馬場を走ったということになる。
故にチェルトナム競馬場は障害競走の聖地とされ、チェルトナムフェスティバルは「世界最大の障害競走の祭典」足りうるのである。

と、ここまで長々と障害競走(ナショナルハント)、並びにチェルトナムフェスティバルについて解説をしてきたわけであるが、本稿はまだ終わりではない(絶望)。
ここからはチェルトナムフェスティバルのGⅠレースの中でも、特に重要視される2つのGⅠレース──最強ハードラー決定戦たる「チャンピオンハードル」と、最強チェイサー決定戦たる「チェルトナムゴールドカップ」について展望した先に、この記事はようやく終わりを迎える。
筆者自身すら「まだあんのかよ……」と思っているのだから、読者諸兄はとうの昔にブラウザバックしていそうだが、例え壁打ちになろうともこの2レースの展望をし終えるまで本記事は続く。
もしここまでお付き合いしてくれている読者がいらっしゃるのであれば、是非一度画面から目を離し、窓の外でも見て目を休めてほしい。
その上で、最後までお付き合い頂ければ幸いである。

チャンピオンハードル(GⅠ)展望

ユニベットチャンピオンハードルトロフィー
(Unibet Champion Hurdle Trophy)

2024/3/12 15:30(日本時間24:30)
格付け:GⅠ
開催地:イギリス・チェルトナム競馬場
レース番号:第4レース
距離:ハードル・2マイル87ヤード(約3298m)
条件:4歳以上・4歳11ストーン(約69.9kg)・5歳以上11ストーン10ポンド(約74.4kg)・牝馬7ポンド(約3.4kg)減
総賞金:45万ポンド(約8550万円)
障害数:8

《出走予定馬》(3/11現在)
コロネルマスタード(Colonel Mustard) 66/1(67.0)
 騎手:J.スレビン 調教師:Mrs.R.ファウラー
イベリコロード(Iberico Load) 12/1(13.0)
 騎手:N.ボワンヴィル 調教師:N.ヘンダーソン
アイリッシュポイント(Irish Point) 11/2(6.5)
 騎手:W.ケネディ 調教師:G.エリオット
ネメアンライオン(Nemean Lion) 28/1(29.0)
 騎手:R.パトリック 調教師:K.リー
ノットソースリーピー(Not So Sleepy) 22/1(23.0)
 騎手:S.ボーウェン 調教師:H.モリソン
ステートマン(State Man) 1/3(1.3)
 騎手:P.タウンエンド 調教師:W.マリンズ
ザラクザブレイブ(Zarak The Brave) 25/1(26.0)
 騎手:D.ジェイコブ 調教師:W.マリンズ
ルチア(Luccia) 28/1(29.0)
 騎手:J.ボーウェン 調教師:N.ヘンダーソン

《展望》
先述の通り、ヨーロッパにおける短距離ハードル路線の最高峰のレースである。
が、当初の想定では、このレースは銀行になると考えられていた。少なくとも私はそう思っていた。

何故か。
現在、この路線には1頭、絶対王者と呼んでも差し支えないほどのトップスターホースが君臨しているからだ。

コンスティテューションヒル(Constitution Hill)

8戦8勝GⅠは7勝、2着馬につけた合計着差は98馬身半
未だ公式戦において無敗を固持する、間違いなく現役最強と言えるスーパーハードラーだ。
昨年のチャンピオンハードルも9馬身差で圧勝しており、本馬を脅かせる馬は最早この路線には存在せず、連覇は確実と思われていた───が、今シーズンに入ってからのコンスティテューションヒルは順調さを欠いているという印象もあった。

復帰戦に予定していたのは12月初週の🇬🇧GⅠ ファイティングフィフスハードル(ニューカッスル3200m)であったが、開催されるニューカッスル競馬場の積雪・馬場凍結により1週間順延、サンダウンパーク競馬場での代替開催となったことで同レースを回避。
12月末のクリスマスハードル(GⅠ)で今シーズンの初戦を迎えると、ここは9馬身半差圧勝と流石の走りで、絶対王者の健在をアピールしてみせた。
しかし、チェルトナムフェスティバル前の叩きとして出走するはずだった🇬🇧GⅡ インターナショナルハードル(チェルトナム3400m)は喉の不調により回避を余儀なくされ、チェルトナムフェスティバル2週間前にケンプトンパーク競馬場で行われた公開調教では併せた2頭の遥か後方に置き去りにされるという、王者にあるまじき不甲斐ない走りを見せた。
その後の検査で気管支炎を患っていることが判明し、数日おきの複数回の検査を経て回復を待ったものの経過は芳しくなかった。
そして、レースの約1週間前となる3月4日、コンスティテューションヒルは今年のチャンピオンハードルを回避することが、同馬を管理するニッキー・ヘンダーソン調教師から発表されたのである。

単勝1倍台の支持を集めることが確定的だった絶対王者・コンスティテューションヒルが回避したことにより、本レースは銀行から混戦へ───と思いきや、何とこのレースが銀行であることに変わりはない
コンスティテューションヒルが不在となってもなお、チャンピオンハードルを銀行レースへと変化させている存在が、昨年の2着馬ステートマン(State Man)だ。

ステートマンはアイルランドの名門ウィリー・マリンズ厩舎に所属する7歳セン馬であり、現在13戦10勝GⅠ8勝
昨シーズンから今シーズンにかけて、敗北はたったの1回。チャンピオンハードル(GⅠ)でコンスティテューションヒルに敗れた1戦のみ。
この2年間、ステートマンはコンスティテューションヒル以外の馬には一度も負けていないのである。

今シーズンは🇬🇧GⅠ モルジアナハードル(パンチェスタウン3300m)から始動し、2着馬に5馬身差をつける快勝で順調なスタートを切った。
以降はアイルランドでGⅠを2戦。12月末のマシソンハードル(GⅠ)とアイリッシュチャンピオンハードル(GⅠ)、どちらもレパーズタウン競馬場の3200mで行われたレースで危なげのない勝利を収め、このチェルトナムフェスティバル・チャンピオンハードルに駒を進めてきた。

日本競馬に例えるならば2000年のテイエムオペラオーに対するメイショウドトウ、オジュウチョウサンに対するアップトゥデイトなどになるだろうか。ステートマンにはコンスティテューションヒル以外の敵がいない
現在の短距離ハードル界におけるもう1頭の王者、それがステートマンなのである。

コンスティテューションヒルの回避により、既にステートマンはブックメーカーでの前売りオッズにおいて1/3(約1.3倍)の圧倒的1番人気に浮上している。
コンスティテューションヒルがいなくなった今、ここは絶対に負けられないとステートマン陣営は考えていることだろう。

とはいえ、他陣営からするとコンスティテューションヒルを相手取るのに比べれば、まだステートマンの方が付け入る隙がある。
対抗はアイリッシュポイント(Irish Point)が筆頭か。
フランス産のGⅠ3勝馬であり、多頭出し世界記録保持者アイルランドの名伯楽ゴードン・エリオット調教師の管理する6歳セン馬だ。
今シーズンは🇮🇪GⅢ ボトルグリーンハードル(ダウンロイヤル3400m)から始動して勝利、12月末には🇮🇪GⅠ ジャック・デ・ブロムヘッドクリスマスハードル(レパーズタウン4700m)を優勝し2戦2勝。
昨シーズンから数えて重賞4連勝、GⅠは2連勝としている。
当初は3日目のステイヤーズハードル(GⅠ)との両睨み状態であったが、コンスティテューションヒルの回避によってチャンピオンハードルへの出走を決定したようだ。
3300mは本馬にとっては若干短いという気はするが、中距離から長距離まで幅広い距離で結果を残している馬であり、連系の馬券を買うならば外せない1頭となりそうだと感じる。

3番手としては、GⅠ3勝の12歳セン馬ノットソースリーピー(Not So Sleepy)を挙げたい。
前走は先程申し上げました(CV:川田将雅)、1週間延期によりコンスティテューションヒルが回避したファイティングフィフスハードル(GⅠ)を8馬身差で優勝。
そこからチャンピオンハードル直行のローテーションを組んでおり、万全の状態で出走してくることが期待される。
あまり人気はしていないが、ずっと短距離ハードル界の重賞戦線で走っている馬であり、十分通用しても良いのではないかと思えるのだ。

3番人気のイベリコロード(Iberico Load)は今シーズンに短距離ハードル重賞を2勝しており、その内1つはチェルトナム3300mというコース実績も魅力の馬。
ザラクザブレイブ(Zarak The Brave)などは重賞2勝GⅠ2着の実績があり、この他にも重賞馬たちが顔を揃えた。

ステートマンがもう1頭の短距離ハードル王者として意地を見せ、無事に銀行を成立させるのか。
アイリッシュポイントが短距離でも強さを見せるか、あるいは12歳のベテラン・ノットソースリーピーが正真正銘のトップハードラーの座へ上り詰めるのか。
もしくは、その他の伏兵馬の台頭があるのか──コンスティテューションヒルの回避は非常に残念であったが、コンスティテューションヒルを抜きにしても、見所のあるレースになることだろう。

チェルトナムゴールドカップ(GⅠ)展望

ブードルズチェルトナムゴールドカップ
(The Boodles Cheltenham Gold Cup)

2024/3/15 15:30(日本時間24:30)
格付け:GⅠ
開催地:イギリス・チェルトナム競馬場
レース番号:第4レース
距離:スティープルチェイス・3マイル2ハロン70ヤード(約5294m)
条件:5歳以上・5歳11ストーン(約69.9kg)・6歳以上11ストーン10ポンド(約74.4kg)・牝馬7ポンド(約3.4kg)減
総賞金:62万5000ポンド(約1億2000万円)
障害数:22

《出走予定馬》(3/11現在)
ブレイブマンズゲーム(Bravemansgame) 20/1(21.0)
 騎手:H.コブデン 調教師:P.ニコルズ
コーラックランブラー(Corach Rambler) 22/1(23.0)
 騎手:D.フォックス 調教師:L.ラッセル
ファスタースロウ(Fastorslow) 5/1(6.0)
 騎手:未定 調教師:M.ブラッシル
ギャロパンデシャン(Galopin Des Champs) 11/8(2.375)
 騎手:未定 調教師:W.マリンズ
ジェントルマンズゲーム(Gentlemensgame) 25/1(26.0)
 騎手:未定 調教師:M.モリス
ジェリーコロンブ(Gerri Colombe) 11/1(12.0)
 騎手:未定 調教師:G.エリオット
ヒューイック(Hewick) 20/1(21.0)
 騎手:未定 調教師:J.ハンロン
ジャングルブーギ(Jungle Boogie) 100/1(101.0)
 騎手:未定 調教師:H.ブロムヘッド
ロームプレッセ(L'Homme Presse) 16/1(17.0)
 騎手:C.ドイッチュ 調教師:V.ウィリアムズ
モンクフィッシュ(Monkfish) 28/1(29.0)
 騎手:未定 調教師:W.マリンズ
ナッサラーム(Nassalam) 50/1(51.0)
 騎手:未定 調教師:G.ムーア
シシキン(Shishkin) 7/1(8.0)
 騎手:N.ボワンヴィル 調教師:N.ヘンダーソン
ザリアルウァッカー(The Real Whacker) 40/1(41.0)
 騎手:未定 調教師:P.ネヴィル

《展望》
ヨーロッパ・スティープルチェイス長距離路線の最高峰のタイトルの1つであり、将来的にはグランドナショナルにもつながる可能性のある一戦である。
今年は第100回という節目でもあり、例年以上の注目が集まるのではないだろうか。

今年の出走馬の中で最大の注目を浴びるのは、ギャロパンデシャン(Galopin Des Champs)

3月11日現在、オッズ11/8(2.375)倍の1番人気に支持されているウィリー・マリンズ厩舎の8歳セン馬だ。
昨年のチェルトナムゴールドカップの勝ち馬であり、今年のゴールドカップは連覇がかかるレースとなる。
通算ではGⅠ8勝、昨22/23年シーズンはGⅠ3連勝でゴールドカップを優勝、障害界最高峰のタイトルを獲得した。
その後は22/23年シーズン最後の🇮🇪GⅠ パンチェスタウンゴールドカップチェイス(パンチェスタウン4800m)で2着、今シーズンの始動戦となった🇮🇪GⅠ ジョンダーカンメモリアルパンチェスタウンチェイス(パンチェスタウン3900m)で3着と若干精彩を欠く走りが続いたが、12月末の🇮🇪GⅠ サヴィルスチェイス(レパーズタウン4900m)を23馬身差で制して完全に復調。
前走はサヴィルスチェイスと同条件のアイリッシュゴールドカップチェイス(GⅠ)を4馬身半差で快勝、ディフェンディングチャンピオンは今年も最有力馬と見られている。

対抗馬としては2番人気、オッズ5/1(6.0倍)の8歳セン馬ファスタースロウ(Fastorslow)
昨シーズンのパンチェスタウンゴールドカップ(GⅠ)においてオッズ20/1(21.0倍)ながら優勝を果たし、ギャロパンデシャンの連勝を止めた馬である。
今シーズンは復帰戦となったジョンダーカンメモリアルパンチェスタウンチェイス(GⅠ)を優勝して通算GⅠ2勝目を挙げ、前走アイリッシュゴールドカップ(GⅠ)もギャロパンデシャンの2着と、安定した走りを続けている。
ギャロパンデシャンを止めるとすればこの馬、という見立ても当然であると言えるだろう。

3番人気、オッズ7/1(8.0倍)のシシキン(Shishkin)はN.ヘンダーソンが管理する10歳セン馬であり、GⅠ6勝馬。
しかし、今シーズンの復帰戦となった🇬🇧GⅡ 1965チェイス(アスコット4200m)では、オッズ8/13(約1.6倍)の圧倒的1番人気に推されながらまさかの発走拒否をかます。曰く、新しく付けたブリンカーが効きすぎたとか。
ブリンカーを外して臨んだ🇬🇧GⅠ キングジョージⅥ世チェイス(ケンプトンパーク4800m)ではちゃんと発走することに成功、最終直線では完全に抜け出す。
しかし、最終直線での障害飛越時にバランスを崩し騎手が落馬、競走中止となってしまった。落馬さえしなければ勝っていたという脚色だっただけに、シシキンの馬券を握っていた英国紳士淑女の皆様のテンションはさながらジェットコースターであったことだろう。
と、能力を示しながらも今シーズンは歯車の噛み合わない競馬が続いていたシシキンだが、前走の🇬🇧GⅡ デンマンチェイス(ニューベリー5000m)はオッズ8/11(約1.7倍)の圧倒的人気に応えて快勝した。
前走でようやく本来の姿を取り戻したという印象があり、この流れで一気にゴールドカップの栄冠を掴み取りたいところである。
筆者個人としては、シシキンを一番応援したい。頑張れシシキン。ちゃんと無事に発走してくれシシキン。最後まで無事に完走してくれシシキン。

ここまでの3頭が、ブックメーカーによる前売りでオッズ10倍を切る人気となっている。
この他に挙げるとすれば、11月の🇮🇪GⅠ チャンピオンチェイス(ダウンロイヤル4800m)を優勝して通算GⅠ4勝としたジェリーコロンブ(Jerri Colombe)や、今シーズン3戦して全て2着、GⅠは2連続2着と堅実な走りを見せるブレイブマンズゲーム(Bravemansgame)
キングジョージⅥ世チェイス(GⅠ)を優勝して直行で臨むGⅠ2勝馬ヒューイック(Hewick)、昨年のグランドナショナル勝ち馬コーラックランブラー(Corach Rambler)など実力ある馬たちが揃っており、ヨーロッパ・トップチェイサーを決定するに相応しいメンバー構成となった。

ギャロパンデシャンの連覇か、ファスタースロウが再び王者の寝首をかくのか、今シーズン辛酸を嘗めたシシキンがその鬱憤を晴らすのか。
はたまた、他馬が評価を覆す走りを見せるのか──チェルトナムフェスティバル最終日のメインレース、スティープルチェイス長距離路線の頂上決戦は、決して目が離せないものとなるだろう。

おわりに

リマインドとなるが、今年のチェルトナムフェスティバルは3月12日から15日までの4日間にかけて行われる。
ただ平日となる上、日本時間では深夜のレースとなる。中継を見る手段も限られるので、リアタイは難しいというのが実情ではある。
たまにRacing TVが公式YouTubeチャンネルでライブ配信してくれるが、今年もあるかはわかんにゃい。

また、ヨーロッパの障害競走はここまでご覧頂いた方にはお分かりの通り、日本の障害競走よりも遥かに過酷であり、落馬・競走中止の場面を見ることは珍しくない
少なからず人を選ぶものであるので、私としてはゴリ押しする気もない。
あくまでも、ご興味を持って頂けた方がいるならば、見てみるのもいいのではないでしょうかという思いである。無理して見るようなものではない
本記事はあくまで「こういうレースもあるんだよ」という紹介のつもりで書いたものだということを、皆様にはご理解頂きたく思う。

しかし、ヨーロッパの競馬ファンが平地競走以上の熱視線を送る障害競走における年に一度の祭典、チェルトナムフェスティバルに関心を持って頂けるならば、長々と記事を書いた者としては嬉しい限りである。
最後となるが、ここまで読んで下さった方に最大の感謝を申し上げたい。

《参考》
Racing Post:Cheltenham Festival Racecards

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