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【白い巨塔2003】「里見先生はどうして財前さんのためにここまで出来るんですか?」について

※画像…白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ

⚠️この記事は、2003年版「白い巨塔」の財前と里見の関係性が好きすぎる人間が書いていることをご承知おきください。⚠️

また、ネタバレを含みますので未視聴の方はご注意下さい。

─里見先生が裁判に協力した理由─


🥼20話にて

里見は財前の肺がんの手術の執刀をお願いするため、東先生に頭を下げに来ました。

その帰り道、東の娘の佐枝子が里見に言ったのがタイトルの台詞です。

「財前さんのためにここまで」が指すのは、「確執のある財前に代わって東に手術の執刀を頼みに来たこと」

……だけではなく、むしろその後がメインではないでしょうか。

「里見先生が法廷で最後に仰った言葉を聞いて、里見先生は財前さんのことを考えて裁判に協力したのだと改めて思いました。私には真似できません」

白い巨塔(2003年版) 第20話,フジテレビ


ちなみに里見が裁判で最後に言った言葉とは?こちらです。

「責任は財前先生1人ではなく、結局は彼の独断を許した私や、大学病院の在り方そのものにあると、私はこの裁判を通じて感じています」

白い巨塔(2003年版) 第20話,フジテレビ


見方によっては財前を庇っているようにも思えます。


─里見は真実を明らかにしたいが財前を裁きたいわけではない─


まず前提として、里見が原告側の証人となったのは財前を裁きたいからではないです。

里見は以前に証言台で、迷った末に出廷した理由を尋ねられます。
そして、財前の方を見てからこう言いました。

「法廷は医者を裁く場ではなく、医学の進歩に資する場と考えたからです」

白い巨塔(2003年版) 第15話,フジテレビ


更に前、原告側で証言台に立つことについて財前に咎められた際、こうも言っています。

「君を陥れようとしてるわけではない。医師として、事実を証言するだけだ」

白い巨塔(2003年版) 第14話,フジテレビ

「俺は最後まで君に医師であって欲しいんだ」

白い巨塔(2003年版) 第14話,フジテレビ

「俺は君を辞めさせたくて証言台に立つわけではない」

白い巨塔(2003年版) 第15話,フジテレビ


そして、関口弁護士に最後の証言を頼まれ、引き受けた際の葛藤がこちらです。

「私が財前から、メスを奪うかもしれないということですね」

白い巨塔(2003年版) 第20話,フジテレビ


里見はただ、原因を明らかにして今後同じことが起きないようにしたいし、遺族の無念を晴らしたいのです。

財前が裁かれるのは結果でしかありません。

まぁいずれにせよ財前にとってはたまったもんじゃないでしょうが。


しかし里見には間違いなくその正義感があったのです。
だからこそ、出て行った妻も、最終的には夫の信念を理解して戻ってきたのでしょう。

しかし佐枝子は「里見先生は財前さんのことを考えて裁判に協力した」と言いました。

里見が裁判に協力した1番の理由が医療界や遺族のためであるならば、「里見先生は財前さんのこと“も”考えて」と言うべきではないでしょうか。

この言い方はまるで、「財前さんのことを考えて」が1番の理由のようです。

そもそも「財前のことを考えて裁判に協力した」とはどういう意味でしょうか。

─10代の頃から共に歩いてきた“パートナー”への想い─


「どうして財前さんのためにここまで?」という佐枝子の疑問に対する里見の返答がこちらです。

「財前とは医学部の学生時代から一緒でした。専門も考え方も違いますが、医師を辞めるその日まで、ずっと一緒に歩いて行きたいと思っています」

白い巨塔(2003年版) 第20話,フジテレビ


その学生時代について、里見は以前佐枝子にこう語りました。

「あの頃から考え方は正反対でしたが、でも財前と話すと何故だか力が漲ってきました。お互い良い医者になれるだろうと」

白い巨塔(2003年版) 第16話,フジテレビ


そして更に前の話では、教授選挙に血眼になっている財前に対してこう語りました。

「お前が基礎から第一外科に移った時、『どんな患者でも助けてやる』って豪語してたよな。なんて傲慢なヤツだと思ったが、妙に清々しかった。あの時のお前の顔が忘れられんよ」

白い巨塔(2003年版) 第7話,フジテレビ


里見と財前は医学生の頃から考え方が違いつつ、互いに医学に対する姿勢や能力を認め合ってました。

真剣に医学と向き合う財前を、里見は誰よりも長く、誰よりも近くで見てきたのです。


財前は本来は信念と矜持のある医師であると里見は分かっているし、そう信じているのでしょう。


教授戦の投票の真っ最中、里見が財前に「君が教授であろうとなかろうと自分にとっては関係ない」と前置きして、次のような言葉をかけています。

「俺は君を、ただ外科医として信頼してる」

白い巨塔(2003年版) 第9話,フジテレビ


だからこそ、権力と名誉に溺れ、患者を軽んじた結果、大きな過ちを犯した“財前教授”の有様を誰よりも悲しんでいるのも里見なのだと思います。

「俺は最後まで君に医師であって欲しい」の言葉には、これまで2人で歩んできた時間の重みを感じます。

本当の君はそんなじゃない、本来の君に戻って欲しい、そんな気持ちがあったのではないでしょうか。

そして医師として尊敬し合える財前と「ずっと一緒に歩いて行きたい」、それが里見の願いなのでしょう。

─白い巨塔(2003年度版) 第2話,フジテレビ─

(なお、里見役の江口洋介さんは、第二部のDVD-BOXの特典DISCのインタビューにて財前のことを「失いたくないパートナーみたいなもの」と評していました。)

─里見にも責任の一端はある─


・今後の医療の発展のために協力したい
・遺族の無念を晴らしたい

この正義感は間違いなく本当です。

加えて、「責任は財前先生1人ではない」「独断を許した自分や大学病院の在り方にも責任はある」という発言からも分かるように、

里見は自分に対しても責任を感じています。

裁判に協力したのは贖罪のためでもあるでしょう。

最初に佐々木庸平を診察し、財前に手術を依頼したのは里見です。

里見は関口弁護士と初めて出会った時に、このように語りました。

「申し開きをするつもりはありません。また、どんな言い訳も許されるものではありせん。佐々木さんは亡くなってしまったのですから」

白い巨塔(2003年版) 第13話,フジテレビ


私も11話を見ていて、「里見がもうちょっと頑張ってくれたら何とかなってたんじゃ……」と素人ながらつい思ってしまいました。

実際には過ぎた要求なのかもしれません。

ただ、あの時の財前の独断を止めることが出来る人間がいるとしたらそれは里見だけでした。

だからこそ、誰よりも里見自身が「あの時もっとああしていたら」と思っているのでしょう。

だから里見はきっと、財前を裁くのではなく、

財前の罪を共に背負いたかったのだと思います。


そのためにはまず財前に自身の罪を認めさせなくてはなりません。
本人が認めてもいない罪を一緒に背負うことは出来ません。

もし財前が敗訴によって医師としてのほぼ全てを失っても、里見は一緒に再出発したいと思っていたのではないでしょうか。

─白い巨塔(2003年度版) 第20話,フジテレビ─


─愛でもありエゴでもある─


「里見先生は財前さんのことを考えて裁判に協力した」

この言葉を更にもっと平たく言うと、「里見が裁判に協力したのは財前のため」であるという意味になります。

医療界や遺族に対しての正義感や責任感も間違いなくありますし、周囲の大半の人間はそれが最大の理由だと思っているはずです。

ただ、本当の1番は「財前のため」だったというのがおそらく佐枝子の見解です。

財前のために財前の敵になったのです。


所属していた大きな組織を敵に回してまで。
確かに、常人には真似できないことです。

すなわち、財前への深い愛(恋愛的な意味ではなく)、ひいては里見自身のエゴのため、職を失い家庭さえ崩壊させかけた。

結果的に家庭より財前を優先したことにすらなります。


ここに夫として、父として、大黒柱としての里見の罪深さが垣間見えます。

勿論財前だけを家庭より優先させたのではなく、そこには正義感や責任感なども色々と絡んではいます。

ただ、1番大きな理由が財前だったと佐枝子は考えているのでしょう。

筆者による想像です。数字に根拠はありません。


そんな捨て身の姿を目の当たりにしたら、里見に片思いをする佐枝子が「財前さんが羨ましいです」と本気の嫉妬心に駆られるのも理解できます。

あくまで佐枝子個人の考えでは?と思うかもしれませんが、

「何よりも財前さんのために裁判に協力したんですね」みたいなことを言われて、それが違うなら里見はちゃんと否定するのではないでしょうか。

それが自分の信念に関わることなら猶更です。

また、佐枝子の発言は作中では一環として「正しいもの」として描かれています。

RightではなくCorrectの意味です。特に佐枝子が誰かの代弁をする時はそう思います。

最終話で、佐枝子は父である東先生にこう言いました。

「財前さんのそばにいてあげて。財前さんはお父様に手術をして欲しいと望んだわ。それは、ただお父様の技量を求めたわけじゃないと思う」

白い巨塔(2003年版) 第21話,フジテレビ


これも決して佐枝子の勝手な思い込みとしては描かれていません。

しばしば佐枝子は他のキャラクターの代弁者のような役割を果たしていると、物語全体を通じて思っています。

里見の「ずっと一緒に歩いていきたいと思っています」という言葉。

それは「どうして財前さんのためにそこまで?」に対する回答であると同時に、

「財前さんのことを考えて裁判に協力した」に対する遠回しな肯定でもあるように聞こえてなりません。


─白い巨塔(2003年度版) 第13話,フジテレビ─



里見は正義感が強すぎる、潔癖すぎて腹立つ、などと言われることがしばしばあります。

しかし佐枝子の見解に従うならば、私情やエゴで動く側面も確実にあるのです。


また、財前は「里見のことが大好きすぎる」などと冗談半分に言われることがありますが、

おそらくそれは財前の一方通行ではないのだと、私はこのドラマ全21話を通じて感じています。



なつめ


白い巨塔(2003年版)

医学界の知られざる実態と人間の生命の尊厳を描いた山崎豊子の代表作「白い巨塔」を、25年ぶりに再連続ドラマ化。

FODより

白い巨塔(2003年版)は現在FODでのみ配信中。(上記リンクより)

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