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せんろはつづくよ どこまでも

映画『パターソン』をみて、「線路はつづくよどこまでも」の原曲はアメリカの民謡だと知った。
しかも、タイトルは "I've been working on the railroad"
鉄道労働者の歌だったとは驚いた。日本語版では子どもたちの「楽しい旅の夢」だ。

小学校一年生の時のことを思い出した。校内の発表会で、私のクラスはこの曲を歌った。
練習中に、担任の先生が「誰か、汽笛の音が出せる笛を持っていませんか」とたずねた。間奏のところで吹いたらどうかということだった。そんなにありふれたものではないと思うのだが、なぜか私の家にはそれがあった。私は「はい」と手を上げた。ほかに、男の子が一人、手を上げた。

次の日、私とその子が学校に笛を持ってきた。
私のは木製の笛で、まるで本物の蒸気機関車の汽笛みたいな音がするものだった。

今ひとつの笛は、小さな鳥の形の笛だった。尾のところから空気を吹き込むと、ピィーと鳴いた。同じものがお祭りの縁日で売っているのを見たことがあった。
結局、私の笛が採用になった。
ただ、2つの笛が並べられた教壇のそばにいて、私はうれしくなかった。
もう一つの笛の持ち主は、恥ずかしいんじゃないかと思ったのだ。そういう思いをさせていることに対して、悪いと思った。

彼の気持ちは分からない。単に「なんだ、そうか」と思ったかもしれない。その日家に帰ってランドセルを置いたら、もう忘れてしまったかもしれない。
でも、その時の自分の気持ちをよく覚えている。先生の求めに応えることができて、気持ちが高揚するはずのところだったが、そうならなかった。打ち上げ花火の導火線を持ったまま、火を点けられずにいるみたいな気持ちだった。

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