どうか、嘘つきを許してほしい。

「白髭のおじいさんだと思ったかい?」

今年こそは、と意気込んでいたのに気が付いたら夢の中にいた僕には、興奮のためか普段では目が覚めない時間だった。

そこに映った景色は、想像したものとは異なっていた。

真っ赤な服に、白くてながーい髭を蓄えたおじいさん。
トナカイで空を飛んで、煙突からやってくる。

家に煙突なんてないからどうするのかを考えて、今日だけはとこっそり家のドアの鍵を開けておいた。

しかし、目の前にいるのは若くて黒髪の髭もない男の人だった。

かろうじて、赤い服を着てはいたけど、とても想像していたそれには結びつかなかった。

「いい子にしてたからね、今年も届けにきたよ。夢の途中で起こしてしまってごめんね、良い夢を。」

そう言って頭をポンと撫でて去っていった。何時だかかわからなかったけど、こんな時間に起きていることなんてなかった僕は、またすぐに夢に溶け込んでしまった。

「来てくれたー!!」

朝目が覚めると、お願いしていたゲーム機が枕元に置いてあって、昨日の想像とは違い僕の理想のものだった。

自慢げに両親にそれを見せる僕は、すっかり昨日の出来事なんか忘れてしまっていた。

「良かったね。でもやりすぎたら来年は来てくれないかもよ。」

とお母さんの声は聞こえず、すでにゲーム機を起動していた僕は、それで冬休みの殆どを過ごしていた。

「なあ、サンタって本当にいると思う?」

有意義に過ごした冬休が終わり、学校が始まって久し振りに会う友達がそう言った。

「確かに、俺のところにも来てプレゼント貰ったんだ。新しいやつ、すっかりそれやってたら冬休み終わっちゃったんだけど。でもさ、みんなにも来てるんじゃん。どうやってみんなに配るのかな。トナカイだって空は飛べないし。」

やけに現実的だけど、その通りだなと思った。

毎年、毎年どこの家にもやってきてプレゼントを用意してくれる。でも、実際は見たこともないし、みた人もいない。お母さんだって、お父さんだって来ても教えてくれなかった。いったいいつ、どうやって来たんだろう。

「そういえばサンタさんに会ったかも…。でも、若くて髭もなかった。」

「それ泥棒じゃない?笑」

「でも、ちゃんとプレゼントがあったんだよ。それに赤い服は着てたし。」

「サンタっていうのはさ、白くてながーい髭の赤い服を着たおじいさんなんだよ。」

「そうだけどさ…。」

「なあ、来年はサンタさんに会おうよ。」

「どうやって、、?」

「こっそり起きてるんだよ。そしたらサンタさんがプレゼント置きに来たところをみられるんじゃないか。」

「それがいいね!」

そう意気込んだ僕たちは、素直で単純だった。しかし、次の登場の日には300日以上の月日が必要で、その間にも沢山の出来事で溢れている僕らは、すっかりその意気込みをどこかへやってしまった。

こういったやり取りがまた次の冬休みでも行われ、気がついたら僕たちは大きくなった。サンタさんは会えないし、用意してくれているのはいつだって大人だった。
家の中でかくれんぼをしていたら、押し入れの奥底に頼んでおいたゲーム機がかくれんぼしているのをみつけてしまい、知ってしまった。

中学生にもなれば、信じている人も話題にする人もいないし、演じていた大人だってもう隠す様子もなくなっている。

そうしていつからか、存在を忘れてしまい期待もしなくなってしまった。

でも、あの時みたサンタさんは、何だったんだろう。

「良い子にしていたらサンタさんが来てくれるよ。」

時の流れは、歳を重ねる毎に早くなるって言ってたおばあちゃんの言葉なんて全く信じてなかったのに、痛感するようになったのはもう20代も終わりを迎えるこの頃になってからだ。

最近歩けるようになったと思ったら、おしゃべりもできるし、ブランコにも乗れるし、3時のおやつの時間が大好きになってる娘。

そんな娘にいつの間にかこう伝えていて、サンタさんに何お願いするのって聞いている自分がいる。

とうに現実を知って、存在なんか気にもしていなかったのに。

「何がいいかなー!どうやって来てくれるのー?」

おもちゃが貰えるとわかって、興味津々の娘に一般的なサンタ像を伝える。空飛ぶトナカイに乗って、煙突から赤い服を着た白くてながーい髭のおじいさん。

空なんて飛べないし、煙突もないし。そんなおじいさんになんか会ったこともないのに。

それでも、どうにかその単純さに、純粋さに甘んじて、赤い服や白髭を量販店で仕入れている。

どうにかバレずに、どうにか存在を信じて喜んでくれている。

これがいつまでできるのか。

きっといつかは、現実を知ってしまう時が来るだろう。時の流れは恐ろしく速い。

「3歳って楽しいー!」ってブランコを一生懸命に漕いでるだけで、そう叫べる素直さもいつかみえなくなるだろう。

大きくなんかならないでー!とも思う。でも、大きく育って欲しいとも思う。

その時君は、何を思うのだろうか。

嘘つきー!と喚くのか、悟って存在を忘れるようになるのか。

どういう反応をみせるのか、楽しみでも恐怖でもある。

でもね、君の喜ぶ顔がみたかっただけなんだ。
期待して、わくわくしている姿を。
会ったこととないのに、サンタさんの一言で素直になっちゃう純粋さを。

きっと、あの頃信じてやまなかったサンタさんは誰かの思いの形だったんだろう。

自分が変装したり、身近な知人に代役をお願いしたり、どうにかしてサンタさんを演じている。それが時には、白くてながーい髭じゃないこともあるだろう。

別に、それだけが全てじゃない。色んな形があったっていい。

きっと、誰かにとってのサンタさんはいつも傍にていてくれて。

きっと、その思いは誰かのサンタさんへと繋がっているんだ。

存在を知ったときに、どうか知らない振りをしてほしい。

気が付かない振りをして、どうかその役目をながく演らせてほしい。

君が、誰かの何かになりたいと思えるまで。

素直に慣れない私の思いが、そこにはあるのだ。

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