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あの選手が首位打者になったのはブラストモーション効果?|元球団アナリストが語るプロ野球の実態 #4

こんにちは。河村佳太(@pon_kawamura)です。

2016年から昨年2020年までの5年間、横浜DeNAベイスターズでアナリストをしていました。現在は野球界を離れていますが、この度ご縁があり、筆者がこれまで経験してきたプロ野球界のアナリストの実態や野球界におけるデータ分析について文章を書くことになりました。

第4回を迎える今回は、多くの選手のバッティングに大きな影響を与えたブラストモーションについて書いていこうと思います。

・ブラストモーションが導入されたきっかけ
・ブラストモーションを使うと何ができるの?
・監督・コーチ・選手からの反応は?
・首位打者になったある選手とのエピソード

この辺りのことについて述べていきます。

※立場上チームの戦略に深く関わる部分については言及できないこと。私の書くことは昨年時点までの特定の球団での出来事や見聞きしたことをベースに書いていること、念頭に置いて見ていただけると幸いです。

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過去回はこちら

①「プロ野球界のアナリスト事情」と題して、筆者が所属していたDeNAの話をベースに、プロ野球界においてアナリストがどんな役割を担っているのかについて書いています。

②実際にトラックマンが導入・浸透される現場にいた筆者がトラックマン浸透によってプロ野球界にどんな変化がもたらされたのかについて、エピソードベースで書いています。

③チームの順位に大きく影響すると言われる外国人選手について、外国人選手スカウト時に重視することや活躍する外国人選手の条件について書いています。

そもそもブラストモーションって何?

書籍「ベイスターズ再建録」に収録され、Sportsnaviでも公開されたこちらの記事を読んだという方も多いのではないでしょうか。記事の中で出てきた「投手・投手コーチへのデータフィードバック」と「外国人選手のデータ分析」は、まさに私が担当していた領域です。

これまでの回で私の経験を色々とお話してきましたが、打者のスイング分析を行うツールである「ブラストモーション」の導入も大変思い出深い仕事のひとつでした。

ブラストモーションは、米国ブラストモーション社が開発したセンサーで、スイングスピードやスイング軌道、ボールとコンタクトした時の角度などを計測できます。以前からスイング計測を行う機器はあったのですが、25グラムの小さなセンサーをバットのグリップエンドにつけるだけで簡単に計測ができるという点が画期的でした(それまでのセンサーは結構大きかったり、計測開始前にキャリブレーションという工程が必要だったりしてあまり手軽ではなかった)。

※ちなみに計測できる項目はこんな感じ。

Bat Speed:いわゆるスイングスピード。ブラストモーションではコンタクト時のバットの芯の速度が表示される。よく巷で言われるスイングスピードはバットの先端の速度のため、ブラストモーションで表示される数値を初めてみた人は「あれ?ちょっと遅くない?」と感じがち。
Peak Hand Speed:バットを持つ手の速度
Attack Angle:インパクト時にの地面に対するバットの角度。アッパースイング・レベルスイング・ダウンスイングのどれに当てはまるかを現す指標。よくバレルゾーンに入れるにはスイング角度9度でみたいな話があるのと関連。実際には球種によって入射角が異なることなどから「X度のスイングが理想」と単純に言えるものではないが、概ね5-20くらいの角度で安定してスイングできていると良いとされる。
Time to Contact:スイング開始からインパクトまでの時間。これが短いほどスイング開始を遅らせられるため、ボールの見極めが良くなるとされている。
Power:バットの重さやスイングスピードをもとに生み出されたパワーを現したもの。結果指標なのでこれをみて何か改善するという感じではないが、複数打者で比較してみるのは面白い。
On-Plane Efficiency:ブラストモーションにおいて重要度が高く、またこれがわかるからこそ価値があると言える指標。いわゆるスイングプレーンがどれだけ綺麗かということを示す。インパクトから逆算してどれだけボールに対して一連の軌道でバットスイングできているかを割合で現す。これが高いほど、コンタクト率が上がるとされている。なぜならば軌道が安定していれば多少タイミングがずれても空振りにならず、しっかりコンタクトできるから(差し込まれても逆方向にヒットを打てるなど)。
Early Connection/Connection at Impact:いずれもバットと体の軸(体幹)のなす角度を示すもの。前者はスイング開始時、後者はインパクト時。いずれも90度が理想とされる。なぜならば、90度の時にもっともスイングしたパワーがバットに伝わるから(ハンマー投げなどをイメージするとわかりやすいでしょうか)。で、インパクト時に90度を作りたいのであれば、スイング開始時から90度にしておけば、極端な話そこから体を回転させるだけでいい。そうすれば自然とスイングは安定し、On-Plane Efficiencyの数値も上がってくる。
Rotational Acceleration:スイングの加速度。本当の意味での打者のパワー(=長打力)はここに現れる。バットはスイングするとどんどん加速していくため、ポイントを前にすると同じスイングでもスイングスピードは速くなる。ただしポイントが前ということは、それだけスイング開始を早めないといけない。加速度が高い打者はポイントが近くても速いスイングスピードを実現できる。
Vertical Bat Angle:インパクト時にバットがどれだけ倒れていたかを示すもの。下方向に傾くほど数字が小さく(マイナス数字)になる。低めを打つと数字は低く出る傾向。これだけをみて良し悪しを判断することはないが、他の数字(特にConnection at Impact)と組み合わせて、コースごとへの対応力を見る参考に。

計測する際には、バットのグリップエンドにセンサーを付けて、素振りしたりボールを打ちます。打つのはティー打撃でもいいですし、通常の打撃練習、試合でもOKです。

データはセンサーに蓄積されますが、スマホやタブレットでアプリを起動しておくとリアルタイムにデータが転送され、数値化されます。また、動画撮影をしておくと自動的にスイングと数値データが同期され、後から簡単に見返すことができます。

各指標について動画を交えた説明などがブラストモーション社のサイト(英語)にあるため、興味のある方は是非チェックしてみてください。

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