トラックマンがプロ野球に与えた3つの変化|元球団アナリストが語るプロ野球の実態 #2
はじめに
こんにちは。河村佳太(@pon_kawamura)です。
2016年から2020年までの5年間、横浜DeNAベイスターズでアナリストをしていました。現在は野球界を離れていますが、この度ご縁があり、筆者がこれまで経験してきたプロ野球界のアナリストの実態や、野球界におけるデータ分析について文章を書くことになりました。
前回は「プロ野球のアナリストの実態」と題して、筆者が所属していたDeNAの話をベースに、プロ野球界においてアナリストがどんな役割を担っているのかについて記事にしています(まだ読んでいない方はぜひ!)。
そしてこの第2回では、今やほとんど全ての球団が使っているデータ分析ツール「トラックマン」が、プロ野球にどのような変化をもたらしたかについて、トラックマン導入当初から現場にいた筆者がエピソードベースで書いていきたいと思います。
注:立場上、具体的な選手名や数値に言及できない箇所があります。また、元DeNAスタッフということで、その他の球団の内情については伝聞ベースでしか把握できていないことをご了承いただいた上でお読みいただけると幸いです。
そもそもトラックマンってなに?
「最近よく聞く名前だけど、正直トラックマンのことよくわからない」という方のために、まずはトラックマンについて簡単にご説明します。
トラックマンは、デンマークのトラックマン社によって開発された弾道測定器です。元々はミサイル迎撃システムのパトリオットの技術を転用しています。トラックマンによって投球や打球の速度、回転や軌道などを計測することができます。
具体的には、投球だと球速・回転数・回転軸・変化量・リリースポイント・投球コース。打球だと打球速度・角度・飛距離・最高到達点・打球方向・回転数といったデータを取ることができます。
私がDeNAに入る少し前の2015年から試験的に導入されていて、聞いた話ではMLBのウィンターミーティングで現物を見たり、MLB球団の方に話を聞いて導入を決めたそうです。
ウィンターミーティングとは、オフにMLB30球団の幹部が一堂に会する集まりです。ここは一般にはトレードやFA移籍が決まる場所みたいなイメージですが、各球団の幹部・選手・代理人が集まることから、野球関係のツールなどの営業・展示会なども行われています。
ある日突然、私はトラックマンの専門家になった
書籍「ベイスターズ再建録」に収録され、Sportsnaviでも公開されたこちらの記事を読んだというDeNAファンの方も多いのではないでしょうか。この記事の中で出てきた「投手・投手コーチへのデータフィードバック」と「外国人選手のデータ分析」は、まさに私が担当していた領域でもあります。
しかし、私はデータを処理する専門家ではありましたが、当時トラックマンは導入されたばかり。当然ながらトラックマンデータを見るのは生まれてはじめてのことでした。また、野球経験も一応軟式野球をやっていただけで、一流選手の感覚など知るよしもありません。そのため、フィードバックや有効な分析を行えるようにするため、常に学び続ける日々でした。
具体的には、
①MLBの各種サイトや論文などを読み漁る
「フォーシームのホップ成分によってゴロ率に有意な差が出る」「ある球種では回転数と被打率の間に相関が見られる」など、MLBで用いられている分析手法を学ぶ。
②某大学の研究者からレクチャーを受ける
「ホップ成分・シュート成分というボールの変化量の見方・整理の仕方」や「投手の投球フォームと球質の関係性」などについてレクチャーを受けるなどしてトラックマンのことを学ぶ。
③選手・コーチ・元選手のスタッフなどにさまざまな質問を投げかける
試合前の練習や試合日以外の練習、キャンプの際に
「そもそもキレとは何か?」
「良いストレートとはどんなストレートで、例えば誰が投げている?」
「なぜ逆球は良くないと言われるのか?」
「変化球の変化量を変えるには、具体的にどのようにしているのか?」
などを投げかけて一流投手の感覚についても学ぶ。
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以上のように、いろいろな方の支援を受けながら、トラックマンを正しく使う準備を整えました。(それ以前に実質野球未経験の若者がチームに受け入れられるために、ITの御用聞きから入ったという話もありますが、それは私個人のnoteを参照いただければ幸いです)
では、このトラックマンはプロ野球界にどのような変化をもたらしたのでしょうか。
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