クリエイティブリーダーシップ特論I 第14回(10.11.2021)

【講義内容】
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科
クリエイティブリーダーシップコース

クリエイティブリーダーシップ特論I 第14回
2021年10月11日(月)

【登壇者情報】
ビジネスデザイナー  佐々木 康裕さん

プロフィール:
クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。Takramでは、デザイン思考のみならず、認知心理学や、システム思考を組み合わせた領域横断的なアプローチを展開。エクスペリエンス起点のクリエイティブ戦略、事業コンセプト立案を得意とする。DTC含むニューリテール、家電、自動車、食品、医療など幅広い業界でコンサルティングプロジェクトを手がける。ベンチャーキャピタルMiraiseの投資家メンター、グロービス経営大学院の客員講師(デザイン経営)も務める。
2019年3月、ビジネス×カルチャーのメディア「Lobsterr」をローンチ。 Takram参画以前は、総合商社でベンチャー企業との事業立ち上げ等に従事。経済産業省では、Big DataやIoT等に関するイノベーション政策の立案を担当。 早稲田大学政治経済学部卒業。イリノイ工科大学Institute of Design修士課程(Master of Design Method)修了。
*参照: takram

●Institute of Design(ID)での経験

IDは米イリノイ州シカゴにキャンパスを構える、イリノイ工科大学のデザイン大学院です。佐々木さんはファーストキャリアを伊藤忠商事でスタートし、その後IDへ留学をされ、Design Thinkingを専攻されています。

佐々木さんいわく、IDでの学びを整理すると以下の2つだと言います。

1. 超・多様性
 デザイン思考や論理思考、その他を有機的に組み合わせた新しいアプローチが必要
2. 創造性非依存の再現性あるアプローチ
 創造性やインスピレーションに依存せず、高い再現可能性を持った規律的プロセスで新規事業創出を行う

私が興味を持ったのは、「創造性非依存」という点でした。
例えば、スタンフォード大学が提唱するデザイン思考は、"Empathize"からスタートします。つまりユーザーを観察し、共感するところから始まります。また、アート思考は、自分自身の解釈や違和感がスタートになります。
IDの考え方は、まずこうしたプロセスとは趣が異なります。

複雑で答えのないVUCAの時代における事業開発・サービス開発には創造性が求められると言われ、デザイン思考などのフレームワークが重用されるようになりましたが、実際のところ創造性だけでは再現性が生まれません。
つまり、デザイン思考は論理思考やシステム思考とのトレードオフではなく、うまく組み合わせることによって創造性を持ちながら高い再現性を実現することができるのだと理解しました。

あらゆるフレームワークは決して魔法の杖ではなく、思考を進める上での一手法でしかないという(いわば当たり前のことを)改めて考えさせられました。

●Puzzleを解くか?Mysteryを解くか?

IDには「Puzzle」と「Mystery」という表現があり、これらは対峙する課題を表した表現です。そしてIDではMysteryの解き方を教えています。

・Puzzle:論理思考・資源投入で解決可能・答えがある
・Mystery:システム思考・デザイン思考・プロトタイピング・答えがない

例えば、世界中で猛威を奮っているCOVID-19は、まさにMysteryの領域です。終息させるための答えがなく、さまざまなプロトタイピングを繰り返しながら、少しずつ解決に向かっています。(まだ解決に向かっているかどうかも本当のところはわかりません)

そしてCOVID-19以外にも、さまざまなMysteryが世界には存在します。
気候変動や環境問題、Black Lives MatterやMe Too活動などの背景にある差別の問題など、これらのグローバルアジェンダはすべて、答えのないMystery的イシューです。

私たちは創造性と論理性を行ったり来たりしながら、多様な人たちと手を取り合い、答えのない問題に向き合っていく必要があるのです。

Q. 日本でデザイン思考を根付かせる方法はあるか?

講義の終わりに、参加学生から表題の質問があり、佐々木さんの回答が面白かったので最後に書いておきたいと思います。

----
Q. 日本でデザイン思考を根付かせる方法はあるか?

A. アメリカ西海岸では、まず大企業の中で事業を立ち上げる文化がありません。社内調整が不要で、いかに社外でスピーディにユーザーに求められるものを作れるかが重要とされています。

西海岸のデザイン思考の言葉に、「2回買われる必要はない」というものがあります。”2回”というのは"社外"と"社内"のことを指しており、あくまで社外に受け入れられることが大切であり、社内に受け入れられるかどうかは考える必要がない、という意味です。

一方、日本では社外と社内で2回買われる必要があります。日本では根回しが非常に重視される文化があるためです。

ちなみにIDのキャンパスがあるイリノイ州シカゴは、ある意味で日本的な文化を持つ街です。伝統的大企業のオフィスが多く、社内に根回し担当のVice Presidentがいる企業もあるくらいです。

日本のデザイン思考は打ち上げ花火感がありますが、本当はもっと地味に習慣化することが大切だと思います。例えば、「毎月ユーザーインタビューする」とか、毎回の会議でデザイン思考的会話ができるか…など。あまりフレームワークに囚われすぎない方が良いのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?