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ポーカープレイヤーに危険を及ぼす認知バイアス

認知バイアスとは、認知心理学や社会心理学で使われる用語で、人が何かを判断する際に自分の育った環境や経験、 状況などによって非合理的な選択をすること。

人間は日常生活で、例えば夕食のメニューといった小さなものから、購入する車といった大きなものまで、さまざまな選択を意識的にも無意識的にも行っています。

そしてポーカーという不完全情報ゲームにおいても、ベットすべきかチェックすべきか、ベット額はいくらにするか、相手のオールインを受けるか降りるかといった選択を行わなければなりません。

その際に認知バイアスによって非合理的な選択をしてしまい、結果的に間違ったアクションで損をしたり、プレイの上達の妨げになるケースがあります。

これは初心者だけでなく中上級者にも起こり得るいわば「脳のエラー」。

今回は、ポーカーのプレイや上達の障害となる認知バイアスをいくつか紹介します。

こういった認知バイアスを完全に取り除くことはほぼ不可能ですが、どのような認知バイアスがあるかを知っておけば、ある程度の対策を講じて誤った判断を減らすことができます。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分がすでに持っている先入観や仮説を肯定するために自分にとって都合のいい情報や意見だけを集め、反対に自分にとって都合の悪い情報や意見を無視してしまう傾向のこと。

自分にとって都合のいい情報だけを集めてしまうので、その情報が本当に正しいのか、重要な情報を見逃していないかを判断できなくなります。

近年ではSNSやソーシャルメディア普及によって、自分と同じ意見を持つ人を見つけやすくなる一方、自分と異なる意見を見なくなったり簡単にブロックできるようになったため、従来よりも確証バイアスが増幅している傾向があります。

ポーカーにおいて確証バイアスは、人からプレイの意見をもらうときに顕著に現れます。

例えば自分のプレイがどうだったのかハンドレビューをしてもらう時。

勝った時は「プレイが良かった」、負けた時は「運がなかったからしょうがない」という意見を過大評価してしまいがちです。

そのため、自分のプレイが本当に良かったのか・悪かったのかが判別しにくくなり、結果としてポーカーの上達が遅くなってしまう恐れがあります。

「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。
多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」
────ユリウス・カエサルの言葉


ダニング=クルーガー効果

ダニング=クルーガー効果とは、「スキルの低い人ほど自分が優れていると思いこむ」、「スキルの高い人ほど自分が劣っていると思いこむ」というものです。

端的に言えば「人間は自分の能力の程度を正しく認識できない」というもの。

ポーカーでダニング=クルーガー効果が働くと、自己を過剰に評価すれば「ベットやレイズを頻繁に行ってチップを沢山賭けてしまう」「身丈に合わないような高いレートでプレイしてしまう」といったことに繋がります。

また、反対に自己を過小に評価していると「アグレッシブにプレイができなくなる」「相手のベットやレイズに簡単に降りてしまう」といった事態に。

自分の能力を正しく評価することが、正しいプレイに繋がります。

「知るを知るとなし、知らざるを知らずとなす、これ知るなり」
────『論語』より


自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスとは、成功したときは自分自身の能力によるものだが、失敗したときは自分ではどうしようもない外的な要因によるものだと思いこむ考え方のことです。

最近はApex LegendsやVALORANTなどなど、その場で他のプレイヤーとチームを組んで対戦するゲームが人気です。

私もそういったゲームをソロ(いわゆる野良)でプレイすることがあるのですが、その際頻繁に遭遇するのが「負けたときに味方のせいにして文句を言う」プレイヤーです。みなさんも一度は遭遇したことがあるのではないでしょうか。

そういったプレイヤーの多くは自己奉仕バイアスによって、勝てば「自分が味方をキャリーした」、負ければ「味方が足を引っ張った」または「ラグでまともに戦えなかった」、「(実際にチートを使っていないにもかかわらず)相手がチートを使っている」と思い込んでいるのです。

自分のミスを棚に上げてしまう」と言えばわかりやすいでしょう。

ポーカーで自己奉仕バイアスが働いたときに陥りやすい思考の代表例として「負けたのはただ運が悪かったから」というものがあります。

また逆に、リバーで確率の薄いアウツを拾って勝ったときに「勝ったのは自分の実力」だと思うのも自己奉仕バイアスによるものです。

私がポーカーを6年やってて感じたことの1つに、

会話やSNSで「リバーで捲られた」「クソみたいなバッドビートで飛んだ」「運営が操作しているから負けた」といったことを頻繁に言う人はポーカーの上達がほかの人より遅い。

というものがあります。

そういった人は自己奉仕バイアスによって「自分のプレイは間違っていない、ミスがなかった」と思い込んでいるので、ポーカーの上達に必要な「自分のプレイを見返し、反省し、学習する」といった過程を(無意識に)蔑ろにしてしまっている可能性が高いからです。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
──── 松浦静山の剣術書『剣談』より


後知恵バイアス

後知恵バイアスとは、実際に物事が起こったあとにそれが予測可能だったと考える傾向です。

例えば、事が終わってから「やっぱりそうなると思った」というのは後知恵バイアスの典型的な例。

ポーカーで後知恵バイアスが働くと、負けてしまったときに「やっぱり持ってると思った」「リバーで落ちる気がしたよ」と、実際はそう思っていなかったのにも関わらず、あたかも予想していたように考えてしまいます。

こう考えてしまうと、上記の自己奉仕バイアスのように「自分のプレイは悪くなかった、相手の運が良かっただけ」という思考に陥ってしまいがちです。

'Monday morning quarterback'
────アメリカの慣用句


信念バイアス

信念バイアスとは「結論が妥当であれば、その議論や過程までも正しい」と誤認すること。

そこから転じて「物事の結果が良ければ、それまでの過程もすべて正しい」ととらえることを指します。

ポーカーは分散の激しいゲームですので、プレイが間違っていても運によって逆転勝ちすることが往々にしてあります。

その際に「今のプレイはすべて正しかった」で終わってしまうと、そのプレイを省みないためポーカーの上達の妨げになったり、運に頼りがちなプレイになってしまいます。

また、反対に「物事の結果が悪ければ、それまでの過程もすべて間違っていた」と考えてしまうのも信念バイアスの特徴。

ポーカーで正しいプレイをしたのに運が悪く負けてしまったときに、必要以上に「自分のプレイが悪いから負けた」と感じてしまうと、その後のプレイを変えてさらに損をしてしまう可能性があります。

勝ったときも負けたときも、常に自分のプレイにミスがなかったか、最適なプレイができていたかを意識するだけで、信念バイアスに打ち勝つことができます。

「勝ち負けには、もちろんこだわるんですが、大切なのは過程です。
結果だけなら、ジャンケンでいい。」
────羽生善治の言葉


正常性バイアス

正常性バイアスとは、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまうことです。

一般的には自然災害や事件、事故に遭遇した時に「大したことはない」「自分は大丈夫だろう」と認識してしまうことを指しますが、まったく予期せぬ出来事が起きた際に「これはありえない」という先入観や固定観念によって、物事を軽く判断して対応が遅れるのが、正常性バイアスによるものとされています。

ポーカーにおいてもこの正常性バイアスはプレイヤーに襲いかかります。

自分がストレートやフラッシュを持っていて勝っていると思ったのに、相手がそれ以上のフルハウスやストレートフラッシュなどを持っていて、結果大きく負けてしまった……

ポーカープレイヤーなら一度は経験があるかと思います。

また、ポーカーだけでなくギャンブル全般で言えることですが、大きく負けが込んでしまった際に「自分は大丈夫、まだ逆転できる」と考え、長時間プレイしたり実力以上のレートでプレイしてしまいます。

目の前のリスクを正しく判断できなくなったら、一度プレイを止めて息抜きしたりリラックスすることが必要です。

「仮定とは危険なものである。」
────アガサ・クリスティの言葉


コンコルド効果

コンコルド効果(別名、埋没費用効果)とは、ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資がやめられない状態。

簡単に言えば「もったいない」と強く感じてしまうことです。

負けが込んでいるときに「元を取らないといけない」「負け分だけでも取り返さないといけない」と考えてしまうので、上記のギャンブルにおける正常性バイアスと似ています。

また、ポーカーではオッズがあっていないのにすでにポットが大きく膨らんでいるため、勝率が極めて低いことがわかっていながらコールしてしまうこともコンコルド効果によるものです。

「進み続けるものは負け、退くものは勝つ。」
────小島武夫の言葉

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