お互い納得できるまで話し合おうよ

ちょっと前の話となるが、日本証券業協会から2022年2月28日に公表された 「公開価格の設定プロセスのあり方等に関するワーキング・グループ」報告書 (以下「公開価格WG報告書」という。) について書こう。
論点が多岐にわたるため、そのすべてをカバーしてここに記載するのは無理なので、気になった&目に留まった点だけを書こう。

成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定) では、「初値が公開価格を上回った場合、・・・スタートアップには直接の利益が及ばない。このため、同じ発行株数でより多額の資金調達をしえたはず」という記述があった。あたかも公開価格と初値の乖離という事実が悪、といった印象さえ受けとれる記述だなと思っていた。
しかし、公開価格WG報告書では、公開価格と初値の乖離について問題意識としてあげた上で、19の論点に分けて改善策を検討している。成長戦略実行計画でのトーンと比べると、単純に悪と決めつけたりするような感情的な議論は見当たらず、冷静に専門的知見から丁寧に分析されている印象だ。

公開価格WG報告書を受けて、日本証券業協会の「有価証券の引受け等に関する規則」(以下「引受規則」という。) が改正された(改正日:2022年6月10日・施行日:2022年7月1日)。その中で目を引いた項目が2つあった。

① 価格設定の中立性確保として、想定発行価格、仮条件又は公開価格の提案に際し、その根拠を発行会社に説明することが明示されたこと(引受規則26条2項)
② 国内外での並行募集時のオーバーアロットメント(OA)の上限数量として、(国内OA数量+外国OA数量)/(国内募集数量+国内売出し数量+外国募集数量+外国売出し数量)≦15% が明示されたこと(引受規則29条)

①について。結局のところ、発行会社がどこまで公開価格およびそこに至るまでの決定プロセスに納得感を醸成できるか、ということに尽きる。引受証券会社と発行会社の間で最も揉めやすい場面であり(上場承認後かつ公開価格決定直前の時期で揉めると、最悪きわまりない。)、ここでいかに丁寧に説明を尽くして発行会社と目線をすりあわせられることこそ、IPO(POでも同様だが)における引受証券会社としての腕の見せ所なのではないか。そう考えると、本来は規則化するまでもないと言わざるを得ない、、、

②について。OAの効果として、需要動向を踏まえた消化や売出し後の流通市場における需給関係の悪化を防止すること、が一般的にあげられる。これに加えて、私見では、(副次的ではあるが)市場に対するアナウンスメント効果もOAの効果と考えている。
(国内募集数量+国内売出し数量)と(外国募集数量+外国売出し数量)がそれほど大きな差がない場合にはあまり問題にならないと思われるが、両者で極端に差がある場合でかつ少ない数量の市場でしかOAをやらない場合、OAの需給動向へのインパクトが大きくなる。市場に対するアナウンスメント効果としてはプラスに働くばかりでないと考えられ、今後の運用実績の積み重ねを注視していきたい。

引受規則の今回の改正(施行日:2022年7月1日)はあくまで第1弾という位置づけで、2022年12月にも第2弾が予定されている。引き続き、改正動向にも目を配っていきたい。


上記資料のほか、次の資料も参照した。

  1. 日本証券業協会が発行する説明資料とパブコメ(2022年6月10日公表)

  2. 宮脇隆宗ほか「公開価格WG報告書を受けた「有価証券の引受け等に関する規則」等の改正に関する解説」旬刊商事法務2299号(2022年)22-26頁


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