「スーパーマリオオデッセイ」は、マリオに飽きつつあった人こそ、ぜひプレイすべきゲームだ――というお話(後編)


 「スーパーマリオオデッセイ」は、素晴らしいゲームだ!

 という、プレイした人には説明不要の、わざわざ書く必要のない野暮なコラムの、こちらが後編になります。

 ねんのため、最初に書いておきますと、こちらは「後編」を名乗っておりますが、独立したコラムになっておりますので、あらためて前編を読む必要はありません。

 「前編」では、「オデッセイ」は面白いゲームだよ! これまでのシリーズ作が「ついつい敵から逃げたくなるゲーム」だったのに対し、今度は「どんどん敵に近づきたくなるゲーム」に変貌しているんだ! だから、ぜんぜんプレイ感覚が違っていて、だからこそ新鮮だよ! マリオシリーズに飽きつつあった人も、すっごく楽しめるはずだよ!

 ――という話を、やや大袈裟な文章で書いております。お時間のある方だけ、読んでいただければと。



 さて。ここからが本題です。

 「スーパーマリオオデッセイ」って、マリオじゃないよね。これはマリオの皮をかぶったゼルダだよ――というのが、ゲームをクリアした後に到達した、わたしの結論です。

 異論反論が山ほどありそうなことは、百も承知です。

 でも、どこをどう見ても、このゲームってゼルダだよなぁ……と、わたしには思えるんですよ。

 たしかに、主人公こそマリオです。世界を駆けまわり、軽快にジャンプして進んでいくゲームですし、敵キャラもおなじみのヤツらばかりですし、世界観はマリオそのものです。外見上は、マリオであるようにしか見えません。

 でも、サメとイルカは、外見こそ似ていても違う生物種であるように、外見が従来のマリオシリーズに似ているからといって、「オデッセイ」をマリオだと即断してはいけないと思うのですよ。

 だから、わたしは、これはゼルダである! と強調したいといます。だって、よくよく"ゲームの骨格"を見ていくと、これ、まぎれもなくゼルダなんですもん。



 マリオシリーズの"骨格"の特徴は、なんでしょう?

 それは「誰でも、すぐに楽しさが理解できること」です。

 だからこそ、操作方法は極限までシンプルになっています。スティックを倒せばマリオが走り、ジャンプボタンを押せばジャンプする。プレイヤーが最低限、覚えるべきアクションは、この2つだけなんですね。

 コントローラーにたくさんのボタンが用意されている昨今、ここまでシンプルな操作方法を維持している理由は、マリオが、ゲーム界きっての名門・任天堂家の長男だからでしょう。

 名家の長男たるもの、けして無謀なことをしてはいけません。つねにみんなに愛され、みんなを笑顔にする義務を、その肩に背負っています。子供たちに「つまんない」「よくわかんない」と思わせる内容にすることは、ご法度です。そういった、家の顔に泥を塗るようなことは、長男であるマリオには許されていないんです。

 スティックを倒せば、走るよ!

 ボタンを押せば、ジャンプするよ!

 マリオは、この2つのアクションを覚えるだけで楽しめるゲームだよ! というフォーマットを、守り続けなければならないんですね。それが長男であるマリオに課せられた責任なのです。



 では、ゼルダシリーズの"骨格"とは、なんでしょう?

 それは「多彩なアクションを学習していく楽しさ」を提供することです。ゼルダには、弓矢、ブーメラン、フックショット……などなど、いくつもの武器がゲームに登場します。それらの武器を入手して、使い方をマスターし、使いこなすことによって、ゲームはどんどん楽しくなっていきます。

 ゼルダは、その知名度のわりに、じつは日本では大ヒットしていないゲームでありまして、だからゲームの中身を知らない人も多いでしょうから、かんたんにご説明しましょう。

 基本フォーマットとして、ゼルダには、8つのダンジョンがあります。

 それぞれのダンジョンで、ひとつの武器(アイテム)が入手できます。たとえばブーメランを入手できるダンジョンでは、ブーメランを使わないと解けない謎が用意され、ブーメランを使わないと突破できないトラップが仕掛けられています。ブーメラン、ブーメラン、ブーメラン……と、西城秀樹の歌のようにブーメランを使いまくることになるのです。そして、いくつもの部屋を突破すると最後に中ボスが待っていて、こいつもブーメランを使って倒すことになるのですね。

 このため、ひとつのダンジョンをクリアしたとき、プレイヤーは、ごく自然にブーメランを使いこなせるようになっています。するとフィールドに戻った後、ブーメランを使うことで突破できる箇所を、無事に突破できるようになります。こうして新しい大地へと歩を進めると、そこには新しいダンジョンが待っていて――と、この繰り返しで、ゲームは進んでいきます。

 新しいダンジョンに行くたびに、新しい武器を入手できる。新しいアクションを使いこなせるようになっていく。こうして、どんどん自分が成長していくことが実感できる。その成長していく過程が、とてつもなく楽しい――というのが、ゼルダというゲームの"骨格"なんです。

 スポーツに夢中になっている人が、新しいテクニックを覚えていくにつれて、どんどん試合が楽しめるようになっていくのと同じです。成長するのって、楽しいんですよね。



 「オデッセイ」に話を戻しましょう。

 マリオとゼルダの"骨格"を知ったいま、「オデッセイ」が、ゼルダにそっくりであることが、わかるかと思います。

 これは、次から次へと、新しい国(ワールド)へと渡り歩いていくゲームです。新しい国では、そこにしかいない敵キャラがいます。その敵キャラに帽子を投げつけて「キャプチャー」すると、その敵キャラに乗り移れるようになります。そして、敵キャラごとに設定されている独自のアクションを使うことで、どんどんゲームを攻略していくわけですね。

 また、それぞれの国には、中ボスのような存在がいます。こいつらを倒すためには、マリオの能力だけでは無理。敵キャラに乗り移り、その敵キャラの特徴を生かしたアクションを使いこなすことにより、倒せるようになっています。

 ほら。どこをどう見たって、これってゼルダじゃないですか。

 ダンジョンを国に、そして武器を敵キャラに、それぞれ置き換えてみれば、まったく構造が同じになっていることが、わかります。

 いかがでしょう? 「スーパーマリオオデッセイ」は、マリオの皮をかぶったゼルダである――という、わたしの意見、それなりに納得してもらえるのではないでしょうか?



 今回、マリオは、「走って、ジャンプするだけで楽しめる」という、これまでのフォーマットを捨てました。

 それは、任天堂家の長男としては、本来、絶対に許されないことだったのかもしれません。プレイヤーが覚えるべきアクションを極力まで少なくして、誰もがゲームの楽しさに触れられるようにすることが、マリオに課せられた義務だからです。

 でも、結果として、「オデッセイ」というゲームは発売されました。

 そこにいたるまでには、たぶん、任天堂家に大激震が走るような家族会議があったことでしょう。「どうしてそんな無謀なことをするんだ!」「長男として役目を忘れたのか!」「おまえがシンプルな操作を捨てることはまかりならん。絶対にダメだ」……と、つい擬人化として語りたくなるような論争があったんだと思います。

 なので、擬人化トークのまま結論を書きますと、そんな論争を止めたのは、任天堂家の次男・ゼルダだったんだと思います。

 「これまで、子供達でも楽しめるよう、マリオ兄さんはずっと我慢してきたんだ。だから今回、マリオ兄さんは好き勝手にやっていいよ。兄さんの役目は、ぼくが引き受けるよ」

 ――と、そんなセリフがあったのかどうかは定かではありませんが、今回だけは、ゼルダが長男の役目を果たすことを決意したんじゃないかと、わたしは想像しています。そうして作られたのが、「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」なんじゃないかなぁと。



 よく見てみると、「ブレスオブザワイルド」も、これまでのゼルダのフォーマットを捨てていることが、わかります。

 こちらは、ゲーム開始から数分で、「走り回って、剣を振って敵を倒して冒険するゲーム」であることが、直感的に理解できます。驚くべきことに、最後の最後まで、そんな直観的なプレイのままでクリアできます。いろいろな武器の使い方を学習する必要は、まるでありません。

 とにかく、敵をガシガシと攻撃するだけでいい。もちろん華麗なテクニックを使って戦うこともできますし、そうしたほうが気持ちいいと感じる上級プレイヤーもいるでしょうが、つねに大量の食事を用意して冒険に挑めば、とことん無謀な突撃攻撃だけでもゲームを進められます。ラスボスも倒せます。実際、わたしは、そんな無謀な攻撃だけでゲームをクリアしちゃいました。

 ちなみに、ダンジョン(のようなもの)は4つありますが、そこで入手できる武器はありません。中ボスはいますが、ふつうの武器で倒せます。そもそも倒さなくてもクリアできます。無視してもOKです。クリアまでに100時間ほどかかるゲームなので、4つあるダンジョンなんて、ゲーム全体から見れば数パーセントの比重しかありません。

 ほら。こうしてみてみると、これまでのゼルダの"骨格"を、まるで無視したゼルダであることが、わかります。

 なにしろ、新しい武器の使い方を学習していく必要が、ほとんどないんですよ。武器を振り回す、という誰でも直観的に理解できる操作だけで、クリアまで突き進むことができちゃうんですから。

 つまり、こちらは、ゼルダの皮をかぶったマリオ、とでも呼ぶべきゲームになっているんですね。中身はすごくシンプルなゲームなんですよ「ブレスオブザワイルド」って。



 こうして、任天堂の家の長男マリオと、次男ゼルダは、それぞれの役目を入れ替えました。

 だからこそ、任天堂は歴代ハード――ファミコン、スーパーファミコン、ニンテンドー64、ゲームキューブ、Wii、WiiU――では、つねに「マリオ→ゼルダ」の順にソフトを発売してきましたが、今回、Nintendo Switchでは、史上初となる「ゼルダ→マリオ」の順での発売に踏み切ったのでしょう。

 誰もが直感的にプレイできる「ゼルダ」を先に発売して、いろいろなアクションを使いこなす楽しさを提供する「マリオ」を、その後に発売するというスケジュールを組んだのですね。

 Nintendo Switchの世界的なヒットの要因として、「マニア向けゲームであるゼルダを先に発売したこと」と指摘している方もいるようですが、それって、たぶん間違いなんです。

 ちゃんとクリアするまでプレイしてみれば、わかります。今回の「ゼルダ」は、誰もがすぐにゲームの面白さを理解できるゲームだからこそ、先に発売されたんですよ。そして、その後に、いろんなアクションをマスターしていくタイプのゲームとして「マリオ」が発売されたんですね。

 先に、誰もが楽しめる間口の広いゲームをリリースし、その後、より操作が難しいゲームをリリースするという、任天堂の基本的な戦略は、今回も、まったく変わっていないよなぁ――と、わたしは思います。



 こうして、Nintendo Switchでは、長男マリオと次男ゼルダは、それぞれ役割を交代しました。

 だからこそ、この歴史あるシリーズの最新作は、どちらも、すっごく新鮮な気分でプレイできるゲームになっているのです。ゆるやかなマンネリ化に陥りかけていたところからの、完全な脱出に成功しました。

 だから、最近、マリオやゼルダには、ちょっと飽きてるんだよなぁ……と思っている方こそ、ぜひプレイしてほしいのです。「オデッセイ」も「ブレスオブザワイルド」も、ほんと新鮮な気持ちでプレイできる大傑作です。これをプレイしないなんて、ほんと、もったいなさすぎますよ。

 


 さて。

 これで、コラムの後編はおしまいです。読んでいただき、ありがとうございます。

 とはいえ、こんなにも長文になったのに、それでも泣く泣く省略しなければならなかったネタもありまして、それを書くためのコラムを、近日中にアップしたいと思います。

 というわけで、もうすこしだけ、続きます。

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