野安の電子遊戯工房 ~クラスタ化の弊害:ハリルホジッチ監督解任について~


 

 ゲームに関係ないことを書きます。

 時事ネタに触れないことを、このコラムのルールとして自分に課してきたわけですが、今回は例外的に破ります。

 それほど、日本サッカー協会の愚行は、熱のあるうちに書いておこうと思った次第です。サッカーに興味のない人は読み飛ばしてください。




 ハリルホジッチ監督の解任。

 ——という決定を下したほうが、よりよい結果を生む、あるいはよりよい未来に到達できると考える人がいても当然だし、それは否定しない。

 ならば、せめて去年のうちに切らなくちゃいけないだろう。

 あとは選手を選んでワールドカップ本戦に挑むだけというタイミングでの監督の解任は、狂ってるとしか言いようがない。本番に向け、コンディション、さらにはプレイスタイルまで変え、照準を合わせて調整してきた選手たちの努力が、すべて無駄になる。

 W杯直前で監督を交代した国は、過去にもいくつかあるけれど、ほぼ全チームがグループリーグ突破を果たしていない。確率は「ほぼゼロ」になるってことだ。そんなデータを知っていれば、どれほど現在の監督が気に入らなくても、ここでの監督交代はあり得ない。何度でも言うが、狂っているとしか言いようがない。





 なのに、どうして、こんな決断が下されたのか。

 たぶん、サッカー協会の上のほうの人たちが、SNS時代の落とし穴にハマったんだろうな——と推測している。

 SNSが普及した現在という時代の怖いところは、「自分が多数派の側にいる」という勘違いを起こしがちなことだ。

 現代のネットは、気の合う仲間と、より深くつながっていくというシステムになっている。このため、自然と自分と似た意見の持ち主とばかり密接になり、自分に同意する人ばかりがたくさんいるように錯覚するのだ。自然とそうなってしまう。

 ネット用語でいうところの「クラスタ化」が起きるのだ。気付かぬうちに。

 たぶんサッカー協会の、それなりに偉い人たちは、「ハリルが嫌いな人クラスタ」に属している。そして、とにかく解任したほうがいいという意見ばかりが周囲に集まってきて、そうか、だったら解任すれば世間の支持を得られるはずだ——と信じたのだろう。

 だからこそ、記者会見でも、なんら具体的な説明がなかったんだろう。「みんなが嫌いなハリルさんを解任したんだから、理由なんかなくても、世間には納得してもらえるはず」と思っていたと。


 よくぞ決断してくれた!


 という声があふれることを、たぶん、彼らは本気で予想していたのだ。そんなわけないのにね。いま、ネット上で、サッカー協会への怒りの声が噴出していることに、サッカー協会は驚いているんだと思う。




 ついでに言うと。

 最近、マスメディアが信頼されなくなってきたのは、そこから出てくる主張が「それって、マスコミクラスタの意見に過ぎないよね」——と、みんなが理解するようになったからだと思う。

 業界によって、いろいろな意見がある。それは問題ない。多彩な意見の存在こそが、健全な社会の証だから。

 でも、あらゆる業界の中で、マスメディアだけが「自分たちの業界の意見が、世の中の大多数にとって正しい意見なのだ」と勘違いしているんだよね。つねに「自分こそが正しいに決まってる、と主張し続けるオタク」みたいなもん。そりゃあ信頼を失っていくよねと。

 でもって、今回は、それら「マスコミクラスタ」も、ハリルさんが嫌いだったんだろう。それもまた、サッカー協会が、こんな狂った決断をする背中を押したんだろうな——と、わたしは推測している。

 マスメディアの主張なんか信じちゃ駄目なのにね。いまの時代は。




 たぶん、この決断は、サッカー協会を地獄に突き落とす。一気に世間の信頼を失い、しばらく取り戻せないだろう。

 信頼回復までに何10年かかるか、想像もつかない。

 その間の損失を金銭的価値に換算すると、百億円単位になると思う。

 ほんと、「自分が属している、特定のクラスタの意見」を根拠に行動を起こしてしまうと、とりかえしのつかない事態になっちゃうぜ——という、ネット時代のリテラシーについて考える上での、ものすごーく貴重な反面教師になったと思うなぁ。

(2018/04/09)

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