「ポケモンGO」に関して語りたいこと・その2 ~ユーザーの労力が、ゲームの骨格を作っている~


 「ポケモンGO」旋風が吹き荒れる昨今。ネット上で「部屋でポケモンがゲットできます」と宣伝しているラブホまで発見でき、ちょっと驚いているところです。「うちのラブホは、ポケモンが出現しやすいですよ!」というアピールには、たしかに集客効果はあるでしょうが、そのラブホの近くに人が集ってしまう効果もあり、カップルが中に入りづらくなってしまうことも懸念されますが、そのラブホは平気なんでしょうか。

 ――と書いても、まだ「ポケモンGO」に触れていない人は、そもそも「ポケモンがゲットしやすい」というのが、どういう意味なのか、わからないかもしれません。

 今回は、そのあたりのことを、説明してみようと思います。


●ポケストップの仕組み

 このゲームには、ポケストップと呼ばれる「ポケモンが出現する場所」があります。

 ためしに「ポケモンGO」を手にして、近所を歩いてみると、「え? こんなところまで?」と驚くような場所が、ポケストップとして設定されていることに気付きます。公園の中の噴水や、道端のちょっとした石碑や、レリーフ、マンションの脇にある小さなモニュメントなどが、ポケストップとして設定されていて、ちゃんと「写真」としてゲーム内に表示されます。地元の人でも知らないような、もちろん地図情報だけでは調べられないような、ほんとに細かな目印がポケストップになっているのです。

 わたしの場合、最寄りの駅までの8分ほどの道の途中に、11か所のポケストップがあります。これほどの密度で、日本全国の市町村の津々浦々まで、いろんなものがポケストップとして設定されているのだから驚きです。それも日本のみならず、世界規模で同じことが起きているのですから、驚くしかありません。

 どこそこの公園に、何百人もの人がポケモンをゲットするために集っている。といったニュースを目にした人もいるでしょう。それらの公園は、大量のポケストップが林立しているエリアなのだと考えてください。それらの林立したポケストップの近くに行くと、まずはこっちのポケストップから、次はこっちのポケストップから――と、どんどんポケモンが出てくることになるため、みんなが自然と集うようになるわけです。

 ここで大事になるのが、さらにポケモンを出現しやすくする「ルアーモジュール」という有料アイテムです。これをポケストップに対して使用すると、そのポケストップから、どんどんポケモンが出てくるようになります。たくさんの人が集うような場所では、「オレが金を払って、ここにポケモンをどんどん出現させてやるぜ」とルアーモジュールを使ってくれる奇特な人が現れやすく、よりポケモンがゲットしやすい場所として知名度が上がり、さらに集う人が増えていくのです。

 出現するポケモンは地域によって違います。このため、「どこそこに、ふだんは出現しにくいレアなポケモンが出るぞ」と噂が立つと、一斉にみんながそこを訪れます。そのような場所では、ルアーモジュールを使いまくる奇特な人も出てきやすくなるので、さらに人が集まるようになるわけですね。


●ポケストップはユーザーが作った

 ここで、ひとつ疑問が浮かんだ方もいるでしょう。

 世界中に存在する、これらのポケストップの場所を決めたのは、誰なのでしょう? 地元の人も知らないような、しかも地図情報だけでは調べられないような、ほんとに細かな目印をポケストップとして設定したのは、いったい誰なのでしょう?

 答はシンプルです。「これまでに、位置情報ゲームをプレイしていた、世界中のユーザーたち」です。

 テレビなどでは「ポケモンGO」は画期的なゲームだ! と報じられておりますが、残念ながら、これは大嘘です。「ポケモンGO」は、GPSによる位置測定技術と、風景の中にCGを表示するARと呼ばれる技術を組み合わせたゲームなのですが、よくよく考えれば、カーナビがとっくに普及していることからもわかるように、GPSは10年以上前からある技術ですし、ARだって、ニンテンドー3DSの内部ソフトとして用意されているくらいですから、これまた数年前から普及している技術です。なので、この2つの技術を組み合わせたゲームは、とっくに存在していたんです。「ポケモンGO」ほどの世界的ヒットになっていないから、あまり知られていないだけなのですね。

 それらの位置情報ゲームをプレイしていた世界中のファンは、よりゲームを楽しむために、「わたしの住む町の、この目印をゲーム内の基点として登録してほしい」と申請したわけです。数年かけて、そうやって世界中から膨大な位置情報データが一か所に集まりました。「ポケモンGO」は、それらの位置情報データをフル活用することで、いきなり全世界を網羅する大ヒットゲームとしてリリースできたんですよ。

 鳥取県知事が、鳥取砂丘を「ポケモンGO」の遊び場として活用してね! とアピールしたという報道を見た方もいるかもしれません。こんなことが可能になったのは、かつて鳥取砂丘という「砂しかない場所」を歩き回り、そこに点在する杭(測量用のもの?)を発見し、それらの目印を、ひとつずつ「ゲームの基点として申請した」人がいたからなんです。何時間もかけ、汗水たらして申請してきたユーザーの労力があったからこそ、いまの鳥取砂丘にはポケストップが存在し、「ポケモンGO」が楽しめる観光地としてアビールすることが可能になったのですね。


●ユーザーがユーザーを楽しませる構造

 これが「ポケモンGO」というゲームの、もっとも興味深いところです。

 「ポケモンGO」が楽しいのは、いたるところにポケストップが存在するからです。たくさんポケモンを集めるためには、それらのポケストップを巡り歩くことになります。これによって「歩いていると、いきなりポケモンが出現。それをゲットしていく」という楽しさが味わえます。

 しかし、その肝心かなめの、いわばゲームの楽しさを支える「骨格」となるポケストップの位置情報は、ゲーム開発会社が作ったものではないのです。ユーザーが労力をかけて発見し、申請してきたものを集めて、その膨大なデータをゲームにフィードバックしているだけなのですね。

 よく考えると、これってYoutubeやニコニコ動画などの動画サイト、あるいは無数のSNS、そして掲示板サイトなどと同じ構造であることに気付きます。Youtubeの運営会社は、ユーザーを楽しませるキモである「動画」を、自分たちで作っているわけではありません。FacebookやTwitterも同様で、運営会社が「ユーザーを楽しませるための文章」を書いているわけではありません。

 それらのサイト(やサービス)で、ユーザーを楽しませる動画やテキストなどのコンテンツを提供しているのは、参加しているユーザー自身です。ユーザーが労力をかけて作ったコンテンツを一か所に集積して、それらが楽しめる場所ですよ! という付加価値をつけることで多くの人を引き付け、ビジネスとして成立させているわけですね。

 その仕組みを、ゲームという形に落とし込むと「ポケモンGO」になるのですよ。ユーザーが労力をかけて作られたデータが、他の多くのユーザーを楽しませる「骨格」となり、巨大な利益を生むエンタテインメントになっているわけです。いやはや、この仕組みは、スマホが普及した時代ならでは、ですよね。


●人が集まりやすい店の誕生

 というわけで、「ポケモンGO」の登場以前から、位置情報ゲームを楽しんでいて、自分が経営する店舗などを位置情報」として提供してきたみなさん、おめでとうございます。あなたの先見の明は、報われたはずです。いま、その店舗はポケストップになっていて、周囲にたくさんの人が集まりやすくなっていることでしょう。

 コラム冒頭で紹介したラブホも、そのような経緯で、いまはポケストップとして設定されているのかもしれません。とはいえ、やはりラブホは「人が集まりやすくなっている」ことにマイナス要素もあると思うので、平気かなぁ、と思わずにはいられません。入り口付近に、スマホ(という撮影機能付きデバイス)を手にしている人がたくさんいたら、カップルは入りづらいんじゃないかなぁ……。

(この項続く)

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