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中国・厦门 part1 大部屋での思わぬ出会い

失恋の思わぬパワーを目の当たりにした福州の次に僕が向かったのは福州と同じ福建省の都市で厦门(アモイ)であった。

自然豊かな環境と年中温暖な気候から「海上花園」とも呼ばれる厦门島が市の大部分を占め、近年では経済特区に指定され発展著しい厦门。

青島旅以来久しぶりに海の近い都市に行くということもあり、僕は到着前から期待に胸を膨らませていた。

今回の厦门旅はこれまでの旅とは少し異なる点があった。

宿だ。

厦门旅までの僕は大部屋と一人部屋の価格があまり変わらないという中国の安宿事情を踏まえて、一人部屋を優先的にとっていた。

しかし厦门では外国人OKの一人部屋がなかなか見つからなかったため、仕方なく一つの部屋に多くの2段ベッドが置かれた大部屋を予約した。

久しぶりの大部屋。

以前上海で大部屋に泊まった際には同じ部屋に観光客はおらず、出稼ぎか何かの中国人たちが住み着き、全く会話の無い殺伐とした空間が広がっていた。

今回もあの空間に入らなければならないのか。

厦门到着前に膨らみきった期待が急速に萎んでいくかのような気分であった。

福州駅から厦门北駅まで高速鉄道で約2時間、 そこから宿がある厦门最大の繁華街まで地下鉄で1時間ほど。

宿に着いたころには既に夕暮れ時を迎えていた。

パスポートを見せて鍵をもらうだけという簡潔なチェックインを終え部屋に向かう。

部屋は6階。エレベーターはもちろん無い。

階段を登っている間、以前大部屋で遭遇したあの張りつめた空間が再び脳裏によぎった。

「またあんな感じか」

僕は気持ちの萎みに比例してどんどん萎んでいく足取りで部屋に入った。

結果は予想通りだった。

8畳ほどの空間に2段ベッドが3つ。生活用品の散乱した共有洗面所や机に昼寝をする中国人。

ある程度心の準備はしていたが、やはりこの大部屋の息詰まる感覚は僕を鬱屈な気分にさせるのに十分であった。

僕はこの大部屋の心理的圧迫感から逃れるように荷物だけを置いて街へ出た。

厦门の街は宿の抑圧感からはうってかわって、海沿いの街特有の明るく開放的な空気に満ちていた。

どことなく香港味を感じるようなごみごみとした商店街に

美しく整備されたウォーキングストリート

台湾の夜市を思わせる活気ある屋台たち。

様々な中華圏の文化が融合した街並みは散歩しているだけで深く満足できるものであった。

僕は宿の閉塞感を忘れ、気の向くままに街を歩き回った。

僕は元々知らない街を散歩するのが好きだが、厦门の街は無限に歩き回りたくなるくらいに魅力的な街であった。

だがしかし楽しい時間はあっという間に過ぎる。

徐々に夜が深くなり、冷たくなった海風が僕をあの大部屋に帰るように促し始めていた。

いくら厦门が南国気候とはいえ冬の夜に野宿をするのは不可能であった。

僕は例のごとく重い足取りで宿へ向かった。

宿に戻ると2人の中国人が何やら話をしていた。

僕は彼らに「ニーハオ」と最低限の挨拶を済まし、すぐさま自分のベッドに戻った。

彼らは当初僕に対して特に興味を持っている様子ではなかったが、しばらくすると突然「一緒に酒を飲もうぜ。」と声をかけてきた。

正直この時僕は彼らの誘いをかなり渋く感じていた。

何でいきなりよく分からん奴と酒を飲まなきゃならないのか。

だがしかし彼らが部屋の中で勝手に盛り上がっていくのはもっと渋いと感じたので、僕はしぶしぶ彼らの誘いに乗ることにした。

彼らはそんな僕の葛藤などお構い無しに、ビールにアルコール度数55%の白酒、そしてつまみのピーナッツと次々に準備を進めていく。

気づいた時にはもうあの生活用品で溢れた机は酒にピーナッツにタバコと飲み会仕様に切り替わっていた。

こうして僕にとっては人生初である中国人との飲み会が始まった。

僕は開会一番に自分が日本人であることを伝えた。

すると彼らは驚いた様子で「大学は?」「どこで中国語を勉強したの?」「日本の仕事の給料はどんな感じ?」といった具合で矢継ぎ早に質問を飛ばしてきた。

近年開放著しい中国においてでも、最安値の宿に泊まる人々にとっては外国人はまだまだ珍しい存在なのだろう。

彼らは僕の拙い中国語での解答にどれも一定の興味を示しているようであったが、僕が日本の性風俗産業について話した時、特に強い興味を持っていた。

周知の通り中国では性風俗業は違法であり、ネット規制により色情な動画を観ることすら難しいが、彼らは皆日本の風俗街や成人動画の女優の存在を知っている。

彼らは「違法じゃないの?」「値段はいくら?」「日本のAV女優はすばらしいね」といった具合で楽しそうに話を聞いていた。

気がついた時にはもう到着直後の圧迫感は完全に消えていた。

この夜からというもの僕の厦门旅は彼らと過ごすことが多くなった。

鼓浪屿という有名な離島に共に出掛けたり、

厦门名物のカキをご馳走してもらったりと、僕の厦门旅は全く予期していなかった展開を繰り広げた。

そしてあっという間に僕が厦门で過ごす最後の夜がやって来た。

彼らのうちの一人がこんなことを言い出した。


続く

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