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なんでもはできないわたしたちの話

なんにもできないって言われて育った

いい子でいることだけが鎧だった

でも鎧は成長とともに通用しなくなって

重くてきつい鎧はもう脱げなくて

守ってくれてた鎧は枷でしかなくなって

鎧に押し込められたわたしはそれ以上成長できなくなって

なんにもできないって言われ続けて

そのままの大人になった


周囲になじめないと評されてきた

いじめを受けることも多かった

大人に訴えても咎められるのはわたしで

内気で暗くて元気がないせいだとされた

いい子でいることは

すなわち真面目で勤勉で学力があって大人の言うことを聞くということは

何の効力も持たなくなった

なんにも褒められない人間になった


なんにもできないと言われて育ち

なんにもできない大人になった

やっていることやできていることは

できるにカウントされなかった

やれることがいくら増えても上達しても

なんにもできないと言われ続けて

なんにもできない自分を生きた


なんにもできないわたしでも

何かができると思いたかった

人に尽くすことを覚えた

幼い存在の世話に生きがいを見出した

わが身を削って尽くすことだけが

わたしを何者かにさせてくれた

それはあるときは素直な部下であったり

あるときは優しい先生であったり

あるときは従順な彼女であったりした


誰かに尽くし好かれることだけが

なんにもできないわたしにできることで

わたしの世界は他人次第だった

人並みの幸せを求めても得られなかった

自分ひとりではなんにもならなかった

なんにもできないように育ったわたしは

なんにもできないように扱われながら

ひとりではなんにもならない夢を見た


なんにもならない夢を見てもがいて

なんにもならない状況にいたわたしは

あの日あの場所できみの世界に触れて

ひとりで叶えたい夢を思い出した

今なお叶えられてはいないけれど

なんにもできないように育ったわたしが

わたしの力で何者かになれる夢を抱いた

強い光がそこに生まれた

世界の色が変わった


なんにもできないと言われたわたしを

あなたはできる と言ってくれた

なんにもできないと言っていた母に

できる人です と言ってくれた

きみが信じてくれるから

なんだってできるような気がした

そうしてわたしはわたしの中に

生きるための力を見つけた

ともに叶える夢を見つけた

だからどこだって行けた


なんにもできないと言われたわたしが

なんだってできるような気になって

どこにだって行くつもりで

スーツケースを転がしてここに来た

なんにもできないと言われたわたしは

なんにもできないわけじゃなかった

できることがたくさん増えた

できてたこともあったと知った

なんだってできるような気がした


なんにもできないと言われたわたしが

なんだってできるような気になって

なんにも知らないところで

なんにも知らないことをしながら

ほとんどなんにも知らない相手と

なんだってできそうな暮らしを始めた

なんにもできないわけじゃなかった

できることがたくさん増えた

だけどなんでもはできなかった


わたしはなんでもはできなかった

きみもなんでもはできなかった

わたしたちはなんでもはできなかった

ふたりがんばっても力を合わせても

なんでもなんてできなかった

なんでもなんてできないと知った

なんでもなんてできなくていいことも

なんでもはできないわたしたちは

なんにもできないわけじゃない


なんにもできないと言われたわたしは

なんだってできるような気になって

なんにもできないわけじゃないと知って

なんでもはできないことも知った

きみはヒーローなんかじゃなかった

わたしもスーパーウーマンじゃなかった

ヒーローなんかじゃないと知っても

ともに生きてほしかった

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