夏休み

『おじさんの家はなんもないから宿題持ってけよ〜〜』と親父は言った。僕の先祖からの家は岡山県は美作の國。則平という小さな集落にある。
夏休みそこに帰るのが僕の家のルール。
ここにきて1週間。暑い日が続く。都会に住んでる僕にとっては虫は嫌いで生の野菜を食べる、めったに肉や魚は出ない。こんな生活は嫌だった。おばちゃんの家庭菜園のきゅうりやトマトを取ったり、近くに住む知らない子供たちと遊びに行く。もちろん公園なんてない。昔からある山道、小川、廃れた田畑で遊ぶ。年に一度会う友達だった。名前も知らないけどいつも一緒だった。あの群青の空、夕暮れのひぐらしの鳴き声。どれも鮮明だ。泊まらせてもらっている家の主人は祖父の弟。トラックドライバーでお酒が好きだからビールマンと言われていた。背が大きくて背中も大きい器のデカい人だった。
去年より少し白髪が増えたような気がする。縁側で午前に収穫したきゅうりとトマトで冷やし中華を食べた。食べっぷりにおじさんは若いやつはよく食べて元気でいいなぁとつぶやく。僕はおじさんは年寄りだから元気がないと思ってしまった。嫌な考えだと思った。3年後死んだ。中学生に入り、あんな元気もなく反抗期の時だったと記憶する。あの群青な空もひぐらしの声も何も響かない。14にして嫌な年の取り方だ。けど故郷はいつも都会での心を無にしてくれる。おじさんとのコンバインでドライブ。軽トラの荷台で冒険もした。夏祭りでは花火を見たり、親が許さなかった炭酸のコーラもおじさんの前では飲むことが許された。『炭酸のコーラは歯が溶けるけん、飲みすぎたらいけんよ!』年一しか飲めないコーラは格別なのだ。地元のしらない兄ちゃんが作ったお好み、焼きそば、つまみ食いしてもお母さんもお父さんも多分気づいている。けど、なんかいつもじゃ許されないのに口に出さずにいてくれる。僕にとってはパラダイスだ。

故郷とはなんだろうか。僕は特別な場所だ。先祖代々の墓参りも多くて大変だ。あの頃は遊び場だったこの場所も今やいい思い出だ。先祖ありきの自分。いつかまた来ます。そう言い残し今年も墓参りを終えた。僕の中にある故郷。
いつも久石譲のsummerを聴いて、仏壇の前の亡くなった主人の写真を見て思い出す。あの夏。
もう今はもう存在しないのだけど。。
ある日突然全部を忘れ、"あの群青"以外何も考えられなくなる時がある。
あの頃、遊んだ子たちは何をしているんだろう。会いたいけど会わなくていいんだ。あの頃を今懐かしんでもしょうがないよ。あの頃だから楽しめたんだ。そう呟きながら暑い中山道を歩いた。
毎日にように行ったあの廃れた田畑まで。。
山道には通行している人の気配はなく、あの時確かに踏みしめていた地面には草が生い茂り、
もうあの頃の記憶が薄れていっているような気がした。いつか誰かが来てくれると信じて当時の虫網を良く遊んだ巨木にくくりつけた。いつかの証だ。
かつての僕はここで最高に普通の夏を過ごしたんだと。。

久石譲のSUMMERは僕にとってあの夏を思い出させてくれるんだ。

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