お兄ちゃんは僕の未来と心中した

10も離れた弟は、世界に望まれて生まれたような天才だった。

かたや兄の俺は、自分の人生が50年先も流れ作業みたいにつまらなく進むことが分かってしまっていた。

絵を描けば賞を貰い、作文を書けば賞を貰い。

驕らず、誰にも優しく接して、慕われる。

たった6歳の弟には豊かに枝分かれした未来が用意されていて、父母もその行く末に自らを投げ打つ覚悟すら見せていた。

俺の、俺のものだった道を一本になるまで削ぎ落としてから過ちに気付いて、その可能性を捨てたからこそできる覚悟だろう。

経験したから分かるって、そんな話があるかよ。


だから、昨日弟が持って帰ってきた油粘土の塊を泣きながら眺めてる。

将来の夢を作れと言われて「お医者さん」を作ったという、その油粘土を泣きながら、泣きながら頭から食べてやった。

喉に詰まって苦しいし、鼻も詰まってるから息はできない。

結局、俺はその油粘土を全部食べきれたのかは分からないが、お前の夢を挫く壁にはなれた。

ざまあみろ、医者になっても油粘土食って死ぬ奴なんてどうしたらいいかわかんねえだろ。


「だから、僕はお兄ちゃんみたいに苦しむ人を助けたくてこの仕事を——カウンセラーになろうと思ったんです」

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