だから、箱。
グラタンが出てくる場所がある。
毎日働いていればグラタンが出てくる、働かないと出てこない。
毎日行う仕事の内容はとても簡単で、小麦を刈り取り、指定の場所に置くというだけ。
天気はいつも快適で、ほどよく雨はあり、ほどよく日はのぼる。とても過ごしやすい環境で外でも苦はなく日没まで働いている。
グラタンを食べたくない時は小麦とともに育てている他の作物を食べて過ごす。グラタンに飽きた時にこの作物も合わせて指定の場所に置くとアレンジされて出てくるのでオススメしたい。
とにかく雨風をしのぐ小屋まであるから本当にこの暮らしは素晴らしい。惜しむらくは他に娯楽はないことか。
「だから、グラタンが食べたいなーって思ったんだよ」
「だからってこんなに大きな装置にしなくても良かったのに」
博士は自分のやりたいことを叶える術を持っている。でも人間なので失敗はザラだ。
今回の装置は10メートル四方の巨大な箱でそれ以外の特徴はない。曰く、全自動グラタン製造機なのだそうだ。
「で、グラタン食べられました?」
「いや、人道的な観点も持ち合わせないとなあってさ。君に怒られたし」
この巨大な箱はグラタンを食べるために作られたのに、博士はグラタンを食べることができていないらしい。上部になにかの投入口が見えるが、博士はそこにチーズを押し込んでいた。
「グラタンを食べるのに道徳がいりますかね?」
「いただきますは生産者に言ってるって聞いたからね、道徳はいるんだろう」
博士はひと月はそうして投入口に何かを入れていた。
しかし人間なので、忘れ去ってしまうこともザラなのだ。
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