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アユ見える渓流に戻るまで

 環境省は13日、滋賀県長浜市と福井県南越前町にまたがる山林に計画されている大規模な風力発電事業に対して、絶滅危惧種クマタカの生息に影響があるとして、風車の配置などを抜本的に見直すよう求める意見書を経済産業省に提出しました。

 意見書では、計画地周辺では複数のクマタカのつがいによる営巣が確認されており、風車が設置されれば生息地を奪うほか、風車に衝突する恐れがあると指摘しています。また、昨年8月の豪雨の影響で斜面の崩壊が発生していることにも言及し、切り土や盛り土を減らすことも求めました。
 この事業は「(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業」で、事業者はグリーンパワーインベストメント(GPI、本社・東京都港区)。約830ヘクタールに高さ188メートルの風車最大39基(最大出力約16万キロワット)を建設する計画です。
 三日月大造知事も3月20日、「重大な影響が懸念され、回避できない場合は事業取りやめなどの検討を」とする意見書をまとめ、認可権者の経済産業相に提出していました。

 事業計画地は、昨年の豪雨以来、私がずっと気にかけてきた高時川(長浜市)の源流域に当たります。高時川の氾濫をきっかけに連載した「流域治水編」で、地元漁協の組合長が「山が荒れている。このままではアユが住めない川になってしまう」と危機感を募らせているるのを知りました。
 完成すれば、陸上では国内最大級という風力発電設備が建設されれば、山の保水力が失われ、災害時に土砂流出が発生し、高時川の氾濫や濁水につながるのではないかと心配する声が地元にはあります。

 高時川の濁水問題について考える地元の住民グループ「すみつなぐ高時川」の子林葉代表。子林さんは、自然豊かなこの地域が気に入り、2018年に長浜市余呉町に移住。今は林業に従事しています。豪雨以前からこの山を歩いていた子林さんは、豪雨後の異変をSNSで投稿するなどして、いち早く警鐘を鳴らしていました。
 子林さんと歩いたのは、旧「ベルク余呉スキー場」跡地。崩れた山肌からは地層が見え、地面は約1キロに渡って崩壊していました。3m以上崩落したとみられる箇所がいくつもあり、大量の土砂がすべて川へ流れたと思うと、胸が痛みました。
 高時川に合流する支流の河岸には、大雨が降れば流れ出すのは免れないであろう盛土の山がそびえていました。剥き出しになった河岸の山肌からも、土砂が流れ続けていました。異常な光景を目の当たりにして、地元の人たちが口々に「山が荒れている」という意味が分かりました。

 朝日新聞は3月10日、この旧スキー場が、無許可開発などの森林法違反を繰り返し、最初の発覚から約26年が経過した現在も県が命じた是正工事が未完了であることがわかったと報道しました。

 子林さんたち「すみつなぐ高時川」は、「高時川の抜本的な環境回復計画の策定と実施を求める意見書」を関係機関へ退出するよう求める請願を長浜市議会に提出。3月の本会議で全会一致で採択されました。
 意見書では①旧スキー場跡地を含む、現流域の土砂流出防止と森林の再生②濁水の原因の調査と抜本的な環境回復計画の策定・実施③県は国に支援を求め、長浜市と連携の元土砂流出防止と森林再生に取り組むこと、を求めています。
 今回、この意見書が市議会で全会一致で採択されたことや、国や県が豪雨の影響を認識していることが分かったことに、ひとまず安心しました。
 でも、高時川はいまだに濁ったままです。アユが泳ぐ背中が見える渓流に戻るまで、県民の一人として何ができるのか、考えていきたいと思います。

2023年4月20日朝日新聞滋賀県版『丘峰喫茶店へようこそ』掲載



高時川の水は濁りが続いています。

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