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記事98:日本語ラップ100選⑨

医者から塩分を控えるよう言われているが、松屋の太客なのでよく行く。最近は食券を買った後セルフサービスになっている店舗が多い。この間行ったときはカウンターがあったのに、という経験がいくつかの店舗である。セルフ対応店舗への改装は一晩で行われるのだろうか。ミステリーサークルみたいだ。

席について、食券の番号が呼ばれたら取りにいく。このとき、自分の荷物を置いたまま席を立つのは少し心許ない。でも特に混雑している時間だと、「ここ座ってますよ」と席に何か残しておかないといけない。よって食券購入→水汲み→着席→取り行くとき水残し、がベストだ。
心許ないと思うのは、紛れもない。松屋だからだ。席を離れた一瞬の隙をついて隣の席の人が荷物を持ち逃げするかもしれない。松屋だからだ。松屋ってそういうところだ。そういうところの太客だ。

81. WATT a.k.a. ヨッテルブッテル『栞』
ラッパーでありトラックメイカーでもあるけど、この人はとにかく良いトラックを作る。哀愁がある、日本人ならではという感じのトラックだ。あまりそっち方面に明るくないので分からないが、ソウルのネタ使いがうまい。そんな中、M-10『夕空』の元ネタは絶対どこかで聴いたことある!と思って必死に記憶を探ったら小林大吾の『女と紙屑 / a miserable day for coelacanth』と同ネタなだけだった。日本語ラップばかり追っているので本当の元ネタはもちろん分からないが、思い出せたので満足だ。

82. ZONE THE DARKNESS『The N.E.X.T.』
1st『心像スケッチ』が廃盤、プレ値化する中、待望の2nd。歌詞の全行でパンチラインを残そうとしている。「生活がクソ イコール制作は順調」のラインが大好き。今もライブでやるのは代表作のM-4『奮エテ眠レ』ぐらいかもしれないが、M-3『Tokyo 25世紀』や8:30超えの大作、M-11『Alice In Underground』のようなストーリーテリングが素晴らしい。ストーリーテリングの曲だけど、もちろん韻はガチガチだし話の世界観はぶっ飛んでる。この後にリリースした『ロンリー論理』にも同様の試みが見られるが、今後はもうこういうスタイルやらないのかな。あまりに勿体ない。

83. いとうせいこう『MESS/AGE』
日本語ラップのパイオニアの一人、いとうせいこうの名作。1995年発売らしい。今の基準で聴いてみても、しっかりラップをしている。トラックはヒップホップとはいえないものも多く、試行錯誤の跡と実験的な内容が見られる。今の時代にここまで探求しているヒップホッパーはごく少数だろう。とはいえ、僕がいとうせいこうのラップに出会ったのは□□□の『ヒップホップの初期衝動』だったけど。あれ、何度聴いてもかっこいいよなぁ。

84. 韻踏合組合『ジャンガル』
1stでマイクロフォン病にかかっていたERONEも参加し、MC7人みんないた頃の2ndアルバム。グループ内グループが4組いたというか、4組が集まって作っていたグループだからコンピの色も少しある。ポッセカットのM-1『ジャンガル』、M-7『What's Tha Numba?』、M-11『GREEN車』の出来が最高なのはもちろんのこと、鬼才MINTのソロ曲M-12『生理的に大好き』とか各人がインパクト残しに全力なのが良い魅力になっている。観覧車デートの描写で「頂上でキスなんてクライマックス 超上出来っすよホント」は語り継がれるパンチライン。

85. 降神『降神』
以前の記事で紹介したので多少省略するが、文系ヒップホップを極めた人たち。世に出てくるのがあまりにも早過ぎた。前述の韻踏やMSCと並び、2000年代のアングラヒップホップシーンを牽引した。M-12『お尋ね者 feat. エローンざ尋, 漢』ではその2組からMC2人が客演している。でも降神はオリジナルすぎて、フォロワーに該当するようなグループが現れていない。原点にして頂点という感じだ。
一聴しても分からない、二聴しても分からない。ああ、意味ではなく響きを楽しむべきなのかな?と思うがそれにしては文学性が強すぎる。結果、もう一周聴くことになる。

86. 餓鬼レンジャー『UPPER JAM』
この人たちもまた、地方からシーンを底上げにしにきたヒップホップ侍だ。ヒップホップ侍という言葉はいま作って初めて使ったが、意味は決めていないので分からない。この頃からポチョムキンのオフビートラップは誰にも真似しようがない。21曲入り、やりたいこと詰め込みまくり。M.O.S.A.Dやラッパ我リヤ、RYO the SKYWALKERといった当時すでに名前の売れていた人だけでなく、地元の得体の知れないMCもしっかり客演に呼んでいるところが侍だ。このあと出したアルバムにも参加していた海ってMCが好きだったけど、今は活動してなさそう。

87. 漢『導~みちしるべ~』
これも以前別の記事で少し紹介したのでさらっと…MSCとしての作品よりもっとパーソナルな面を歌っていて、どこまで本当の話なのかなと思うが全部本当の話っぽくてゾクッとする。いまや面白ラップおじさんになりかけているが、相当危ない人だということを思い知らせてくれる。

88. キミドリ『キミドリ』
時代を感じさせない作品。文系ヒップホップの始祖ともいえる。アルバムをこれ1枚しか残していないにも関わらず、その後の日本語ラップに与えた影響は大きいと思う。トラックもラップも陰湿なんだよな。でも初期のFUNKY GRAMMAR UNITにもキミドリっぽさを感じるときがある。M-4『自己嫌悪』は高校〜大学の頃に出会ってしまうと人生のアンセムにもなりかねない。

89. キングギドラ『空からの力』
世代的には『最終兵器』の方を頻繁に聴いていたけど、日本語ラップ100選ならこのアルバムは絶対に外せない。僕の好みや評価というよりは日本語ラップファンの義務として。教科書の1ページ目に載るようなアルバムだし、曲単位で見るとやっぱり日本語ラップ史から外せないものばかりだ。注目すべきはその名曲のうちのいくつかはZEEBRAがトラックも手掛けていること。M-4『大掃除 feat. T.A.K.THE RHYMEHEAD』やM-6『フリースタイル・ダンジョン』あたりの上モノの使い方なんかは特に好みだ。

90. ケツメイシ『ケツノポリス2』
よりによってキングギドラの次の登場になってしまった。この人達もまた、世間一般とラップを繋いでくれる貴重な存在だ。RIP SLYMEとKICK THE CAN CREWが席巻していた頃、そこからさらに少し離れたところにいた。コアなヒップホップファンからはヒップホップと認知されておらず、批判の的になるところに上がっていなかった感じがする。でも先日RYO-ZとLITTLEの対談の中でも名前が挙がっていたとおり、同年代のグループとして意識していたというから胸熱だ。RYOも大蔵もラップうまいもの。手紙シリーズが名作なのはもちろん、M-3『ビルの谷間』やM-10『ア・セッションプリーズ』といったラップを前面に押し出した曲もあって幅の広さを見せてくれる。

日本語ラップ100選でZEEBRAのアルバムを1枚も選ばないのは僕ぐらいかもしれない。

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