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セミノンフィクション小説「悪行の履歴書」(19)

第1章 忌まわしい泡の思い出 第19回 泡の顛末

売れっ子だったあたしは当初の売掛やサラ金への借金は半年足らずで返済できた。でもストレスからホスト通いが止められず、シャブもやっていたので中々お金が貯まらない。

そしてソープ嬢になってから数年があっという間に過ぎ、気がつくと27歳になった矢先に事件を起こした。カネがないあたしはそれでもシャブの売人から何とかシャブを引き出そうと路上で揉めていた時、私服警官に呼び止められた。

逮捕、送検、公判と続き懲役1年半・・・ただし初犯ということもあって執行猶予3年だ。
そこから、あたしは人間が出来た熱心な女性の保護司の下で、死ぬほどの苦しみを耐えて更生施設に通いシャブを断ち切った。そして、新しい生活を始めるべく、必死に貯めた虎の子の30万円を握りしめて東京に旅立つことになった。

「あなたは全てを断ち切らなければダメ」。

その保護司を心から信頼していたあたしは言うがままに行動に移すことにした。後年、まさかその保護司と東京で意外な形で再会するとは思わなかったが・・・。

シャブをやめ、正気を取り戻し、毎日好きでもない2、3人の男を相手に身を削りながらできた30万円。
最後の客はこの店では珍しい30前後の男だ。この高級店では若い男はとっても珍しい。とにかく酔っ払っている割に求めが激しかったので、最後の最後でキツかったことを覚えている。

あたしをソープに沈めたホストは毎月店からバックをもらっていたが、女がらみでヤクザと揉めて行方不明だ。ガソリンスタンドで最初にホストクラブに誘った同僚の子。あたしを最初からソープに沈めるためにそのホストと企んでいたことは後で知った。やはりシャブに手を出していて今はヘルスで働いていて闇金から金をつまんでいるという。やがて首が回らなったに違いない。

あてもない東京での新生活、当初はとにかく東京に出ることだけを考えていた。でも、ソープの支配人の従兄弟で東京で「一流企業」のサラリーマンをやっているという人に職を世話してもらえるというのだ。店への貢献度が抜群だったあたしへの退職金代わりのサプライズ、というわけだ。

支配人とは入店時の実技指導で一度交わったが、それはセックスとは言えない淡々とした指導だった。本当に嫌な仕事だったが人間という商品を扱う今の仕事、その根本を次元は違うがその支配人に教わったような気がする。
誰も信用しなかったあたしの、「当時」信用していた保護司と並んで数少ない信用できる人、だった。
執行猶予期間中の身元引受人という面倒そのものの役割も引き受けてもくれた。でも3年前にガンでその支配人は亡くなってしまった。「アイツ」のように大事な人に限って人は呆気なく離れていく。

さて、支配人の従兄弟というその男は、その会社の関連企業の派遣会社に出向していて、その男の世話で派遣社員で働くことができるとのこと。多少スケベだというが酒が好きないい男だという。驚くことに執行猶予期間が続く身元引受人の立場も引き継いでくれるという珍しい人物らしいのだ。
派遣社員というのがどんな身分か知らないけど、あたしがテレビのドラマで出てくる女の子たちのようにきれいなオフィスで働けるなんて・・・とても嬉しかったことを覚えている。

その、派遣会社に出向していたソープの支配人の従兄弟が、今のあたしの上司、田辺さんだ。

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