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強さの秘訣

先日グランドファイナルが終わりストリートファイターリーグが終了しました。
みなさんのリーグに対する熱量は若干下がっていってるかもしれません。

でもプロの人は毎日毎日戦っています。
その日々の努力、積み重ねがいかに重要かを改めて教えてもらった話です。
是非とも最後までご覧ください。

『9節前』

第9節。対戦チームはふ〜どさん率いるフードガイアだ。

試合前の楽屋ではふ〜どさんとの戦いに備えてウメハラさんが最終調整を行なっていた。

見たところウメハラさんは同じ練習を繰り返し繰り返し行っている。僕はゲームの知識があまりないので〝こんな練習やるんだ?〟などの疑問を持つでもなくアホみたいな顔をしてぼーっとウメハラさんの練習を眺めていた。

すると僕の視線を感じたのかウメハラさんはクルッと振り返り、僕に対してどういう練習なのか説明をしてくれた。
こういう所がウメハラさんのすごさと言うか不思議な部分で、普通ビギナーで知識のない人間にプロの練習を説明するだろうか?しかも試合前の貴重な時間を割いてまで。
このウメハラさんのやってくれた行為を自分に置き換えて考えてみた。

例えばだが僕がM1で優勝するような芸人で、楽屋で本番前のネタを最終チェックしてたとする。仕事で共演した別ジャンルの仕事の人が面白くなりたいからネタの台本を見せてくれと言ってきたとする。果たしてその人にネタの説明をするだろうか?このフリが効いてるんですよ。とか、ここが三段オチになっていて、とか絶対説明しないと思う。説明してもわからないだろうな?とハナから相手にしないような気がする。

しかしウメハラさんはここでも事細かにどう言う練習をしているのか説明してくれた。
プロゲーマーを目指してる若者に教えるならまだしも、こんな売れてないゴミ芸人にだ。
小さい出来事だがこういう時のウメハラさんの態度にも惹きつけられた。

せっかく教えてもらった練習内容だったが案の定、知識のないビギナーの僕には聞いてもハテナな内容だった。
とりあえずわかったのはめちゃくちゃ難しそうな事をやっているという事だった。相手の技を瞬時に避ける練習だったのだが、見た感じ〝そんなの実戦で成功するの?〟って思うような練習内容だった。

しかしウメハラさんはそれを何度も何度も繰り返し練習していた。

(すげえなぁ、、、)

繰り返し繰り返し集中して練習する姿に、ただただ圧倒され、より一層アホな顔で再び練習をボーっと見ていた。

そして試合の時刻がやってきた。

『第9節。対フードガイア』

まずはビギナー戦。
相手は宮田君。
ふ〜どさんは配信に宮田君を呼びパイナポー対策なるものを9節前にしていた。
ふ〜どさんはツイッターでもパイナポーを必ず倒すと公言していた。だが僕もこの9節までは相当練習した。自信はあった。今まで使えなかった技の引き出しも増やした。勝てると思っていた。
1ラウンド目わりと簡単に勝てた。
行ける!そう思った。
2ラウンド目開始早々僕はクリティカルアーツという大技を決めた。正直この時点で勝ちを確信した。
だが、ここから一気に逆転される。何もさせてもらえず2ラウンドを先取される。
あれ?こんなはずでは、、
雲行きが一気に怪しくなった。
落ち着け。練習を思いだせ。
必死に集中力を高める。
続く第2セット目。第1ラウンド。

出だしは良かった。練習でやってきたコンボが連続で決まった。この時初めて本番で4連続の技を決めるコンボが出来た。
リーグのオーディションの時、実況の大和さんに、下段蹴りをコンボに入れられるといいというアドバイスを受けて約3ヶ月。
ようやく収録でそれが出来たのだ。
当時そのアドバイスを聞いた時、
「4連のコンボ?!下段蹴りをいれる?!絶対不可能だろ!」
そう思った。
しかし練習をし続けたら出来た。嬉しかった。成長スピードとしてはめちゃくちゃ遅いかもしれない。
大した技ではないがヘタクソな僕にとって4連コンボを決める事は1つの目標だった。試合本番で決める事が出来て本当に嬉しかった。

しかしだ、、

人が軽く感動に浸っているこの時、相手陣営からこんな声が聞こえてきた。

『安いよー!安いよー!』

八百屋の店頭のような声が聞こえてくる。
格闘ゲームの用語で大したダメージじゃない時などに使う言葉だ。

は????安い?!

確かに与えるダメージとしてはそんなに大きくはない。だがこっちには3ヶ月の重みがあった。この苦労を安いだと?!
僕はこんな出来の悪いパイナップル安い安いと挑発されているようだった。

試合中ながらもカチンと来た。
見てろよ。攻め気になって攻めた。

だがこれが正に相手の思うツボだった。
ほとんどの攻撃にカウンターを入れられた。
リードしていたゲージはみるみる減っていき逆転KOを食らった。

あれ?どうしてこうなった?
よし!行けると思っていた状況から一変。
あと1ラウンド取られたら負けのところまで来ていた。
やばいやばいやばい。
視界が歪み始めた。何かが崩れそうだった。
しかしここですかさずウメバイス。

『対空しましょう!』と一言。

そうだった。その意識がなくなっていた。
なんとか冷静さを取り戻す。
第2ラウンド。相手の飛び込みに対して対空を出す事に成功。攻撃も少しづつ決まる。

こちらがリードしていく。
CA(クリティカルアーツ)も出せる状態になった。
行ける、、
CAとはゲージを溜めて出すことの出来る超必殺技だ。
(これを決めれば勝てるぞ)
そんな風に考えていると、それを見透かしたかのように相手陣営からまた声が聞こえてきた。

「相手CAしか狙ってないよー」

声の主はカワノだ。
フードガイア
ハイクラス
KA・WA・NOだ!!

え?おれの行動読まれている?!
見透かされてる?!
急に焦った。
そしていろいろと雑念がよぎった。

(おいおいカワノよ。お前を家に泊めてあげたことあったよな)

(「自信つけたいからナガシマさんボコらして下さい」って言う、お前のめちゃくちゃなお願いを快く引き受けてあげた事あったよな?)

以前の恩など関係ない。これは勝負の世界だと言わんばかりに相手チームは全員で勝ちに来る。

結果

2セット目はストレートに負けた。
負けた、、負けた、、負けた、、
漫画カイジのように視界がねじ曲がりぐにゃあ〜っと世界が歪んでいくような感覚だった。
結果ふ〜どさんのパイナポー潰しますという公言通りぐしゃぐしゃに絞られた。

プロのガチ対策おそるべし、、

頼むオニキ君!
仇を!カワノをしばいてくれ!
不遜カワノを!頼む!!

オニキ君に託した。
ハイクラス戦が始まった。

最初のラウンドはカワノ勝利。
次のラウンドはオニキ君がとる。
一進一退。
続くラウンドをカワノにとられて第1セットを落とす。

くそぉ、、自分の試合のように悔しくなる。
モニターでカワノを見るとニヤニヤして顔が緩みっぱなしだ。

頼む!奴の顔を渋らせてくれ!

続く第2セット。
オニキ君が先取。
次はカワノがラウンドをとる。
第3ラウンド、オニキ君がとった。
巻き返した。

よし!行けるぞ!
流石のカワノにも焦りが見えるはず。
不遜カワノが謙遜カワノになるか?!
すかさずモニターに目を向けた。

カワノは手を叩いて笑っている。

おのれぇ!カワノォォォォォォ!!!!!!

頼む!勝ってくれオニキ君!!

続いての試合。
ファーストラウンドをカワノに取られる。
声を出して笑うカワノ。その声がこちらにまで届いてきた。
頼む!!奴を黙らせてくれ!オニキ君!
ストレートでラウンドを取られた。
オニキ君の敗北。

負けた、、
悔しかったがカワノがどれだけ喜んでいるのかが気になりモニターに目を向けた。

【カワノは無表情で水を飲んでいた】

ここは喜ばんのかいっ!!!

僕は心の中で盛大にツッコミをいれていた。
カワノは終始、楽しんで試合をしていた。
これが彼の強味なのだろう。

後がない、、

続いてはリーダーウメハラさんの番だ。
正直この時はウメハラさん厳しいかも?と思っていた。
ふ〜どさんは別の大会で好成績を残し仕上がっていると言われていた。
それにウメハラさん自身もふ〜どさんとの対戦はちょっと厳しいかもと何節か前にこぼしていたからだ。
しかも初となるビギナー、ハイクラスの連続負けでのバトンタッチ。
そしてリーグ終盤。
ここで全員負けたらグランドファイナル行きはかなり厳しくなるというプレッシャー最大の状況。
この悪い流れでのウメハラさんに託す。
まるで9回ノーアウト満塁でマウンドを託すような状況。
不安だらけの感情でウメハラさんに目を向けた。

ビクッ!!

反射的に身体がビクついた。
ウメハラさんがとんでもない空気を纏っている。正直怖かった。2人の負けでキレているのかな?とすら一瞬思った。
違う。
ウメハラさんは完全集中していた。
とてもじゃないが話しかけられない。
近づく事すら許されないような雰囲気。

ファーストラウンド開始。

静かな立ち上がり。
ふ〜どさんの操るキャラ、バーディーが攻めてくる。
だが、全く寄せ付けない。
なんと仕上がりきっていると言われていたふ〜どバーディーを圧倒的にねじ伏せ第1ラウンドを勝利。

スポーツ漫画や少年漫画で見たことがある光景だった。
絶対ピンチの中覚醒して相手を圧倒する。
チームの大ピンチに立ち上がり覚醒するヒーロー。僕の目にはそう映った。

見ているこちら側もかなりの興奮状態になった。

第2ラウンド、ファイト!

またもやウメハラさんのガイルが優勢。
しかしふ〜どさんも黙ってはいない。
反撃を仕掛ける。ふ〜どさんはウメハラさんのゲージをどんどん削っていく。
ゲージもお互い残りわずか。
一瞬たりとも気の抜けない場面。
ここで見覚えのある技をふ〜どさんが繰り出した。
それはウメハラさんが繰り返し避ける練習を楽屋でしていた技だ。
後ろで何度も見ていた技だった為すぐにわかった。
(あ!あの技だ!)

その瞬間
ウメハラさんは練習とまったく同じようにその技を避けた。

ゾワっ

鳥肌が立った。
あれだ!!ずっとやってたやつ!!
本当に成功した!!

めちゃくちゃ難しそうに見えたあの練習を本番この土壇場でウメハラさんは決めた。

すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい!!

シンプルに感動した。
興奮状態もあり涙がこみ上げてきた。

あの練習をビギナーの僕に説明したのはこういう事だったのか。
成功させるからよく見とけよ。そう言われたようだった。

第9節までのウメハラさんの地道な指導、反復練習のさせ方などが全部この瞬間に繋がった。

1つ1つの積み重ねでウメハラさんは世界のトップになるまで強くなってきた。それをこの試合で証明してくれたような気がした。

そしてウメハラさんは続く第2セットのファーストラウンドを一発も技をもらう事なくパーフェクトKOで倒した。
手がつけられない。
誰もウメハラさんを止められない。
この時はそんな雰囲気だった。

そして2ラウンド連取してこの試合を勝利した。

この試合のあの技を避けた瞬間が、全部の節を通して僕に1番の衝撃を与えた。

日々の努力。小さな積み重ねがいかに大切かを見せてもらった。
そしてそれを本番で出し切るメンタル。
トップに立つ人の強さがわかった。

第9節 終わり。

つづく

あ、ちなみにこの日の収録終わりカワノと飲みに行きました!笑
仲はいいです!

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