Laifu 9

カードキーを差し込む。ドアノブにそのまま少し力を込めて部屋に滑り込んだ。
前回よりかなり落ち着いているけど、それでも鼓動はワントーン高くなる。
薄暗い室内、机においた紙袋からミネラルウォーターを手にとったxxくんのシルエットが、そこにはあった。ひと口水を飲んだxxくんの瞳の底が光る。ペットボトルに反射した光が映りこんだのだろうか。光は、さっきふたりで歩いた冷たい空気と同じように静かだった。
シバラク、オクツロギクダサイというように、ボクの後ろでガチリと音がした。ボクは、カードキーをフォルダーに入れた。

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夕陽を新幹線の小さな窓からぼんやり眺めているうちに眠ってしまったらしい。
刻々と色彩を落とす空の色。まばらに雲の切れ端に残っていた朱色はいつしか拭われ、青から群青、紺色へと彩度を落とす。なのに都心に戻ってから見上げた星空はいつもの紺色より明るくて白っぽく、褪せて見えた。目の奥に残る夕焼けのせいだろうか。
ビルの屋上にある飛行灯がまたたいていて、白い息が被さる。荷物はスタッフに任せ、ひとりタクシーに行き先を告げた。

ここ数日のハードスケジュール、慣れない枕、ボクは枕が変わると寝れないタイプなんだ。しかも昨日一昨日と朝が早かったから、正直頭も身体も重い。
タクシーの中でも寝おち。だいぶ疲れているな。
けど譲れない。どれだけこの日を待ちわびていたことか。

スタッフに無理を言ってギリギリでチケットを取り直してもらい、今もなんとかここまでたどり着けた。
奇跡的にふたりになれるこの時間。
顎に手をやる。伸びてきた髭がチクチクする。後でどうにかしなくちゃ。
小さな電光掲示板を確かめてから店に入った。

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ベッドサイドの灯りに照らされて、ボクの目の前にxxくんがいる。ボクの頬を撫でる。
xxくんは伸びかけの髭の感触に気づくと笑い皺をつくって、“お疲れさん”って囁いてから耳たぶに軽くキスをした。

コートも脱がず抱きしめあうと、どこかに隠れていた夜気が逃げ出す。服越しだってこんなに近しくて、離れてた分の恋しさが溢れて身体が震えた。

“手入れしてなくてゴメンね。xxくんの前ではキレイでいたいのに”
“帰ってきてくれただけでいいよ。しかも二人で会えるなんて嬉しすぎっしょ。ヤバい。”
強く抱きしめられた。

このまま離さないで抱きしめてて
さっきの電話で分かってるから、あと3時間たらずでしょう。
どれだけ無理してるんだろう、ボクたち。
イトシイ、イトシイよ、xxくん。

抱き合いながらコートのままベッドに倒れこんだ。コートごと服を脱ごうとしてるxxくんが可笑しい。靴だって履いたままだよ。するとxxくんはかかとで靴を蹴って飛ばした。 そんなとこも、愛しい。ふふ。

外寒かったね。その分xxくんがあったかいや。
ベッドサイドの灯りが黄色いからxxくんの肩のラインも黄色く艶やかに光ってる。xxくんに首筋を吸われながら、肩に回した自分の指にも光を灯してみた。なんて穏やかなんだ。xxくんがボクを強く抱きしめる度にベッドのスプリングがきしむ。なにかの音楽みたいだ。

トクントクンと心臓が鼓動を打っている。
ボクの左手は今、彼のかたを外れて自分の心臓の上にあった。彼はもうすぐセックスのとこまでいく。

ああ、、仄暗い天井を眺めていると、今さら頭がぼうっとなる。お酒、一杯しか飲んでないのに。ゴメン、xxくん。今日はこらえしょうがないや。右手でxxくんの髪を撫でる。ああ、キモチ良すぎ。。。

ずっとこんなふうに、君と抱き合っていたいよ。
朝なんてこなけりゃいいのに、と思う。
身体を起こしたいけど、思うように動いてくれない。ボクもxxくんに触れたいのにな。。。

優しく髪を撫でてるのはボクだったはずなのに、いつの間にかボクはxxくんに抱きしめられていた。
そう、優しく髪を撫でられながら…
ボクはいつしか眠ってしまった。
xxくんの胸のなかで。

ハレルヤ。。。
優しいキスの感触をボクの親指の爪に残し、
君は夜明けを待たずに出ていった。


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