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「わたしは正しい」: 短編小説

高橋正義は、自称「正義の味方」だった。彼のSNSアカウント「正義マン」は、社会の不正を糾弾し、毎日のように誰かを正しい道へ導いていた。少なくとも、彼はそう信じていた。

ある日、正義は最新型AI「JusticeBot」を搭載したスマートコンタクトレンズを入手した。これで「正しさ」を24時間判定できる。彼は有頂天になった。

翌日から、正義の人生は激変した。

朝、コンビニで店員が5円のお釣りを間違えた。正義は30分説教し、店員を泣かせた。
昼、同僚が使い捨てプラスチックを使用。正義は会議室で1時間の環境講義を始め、顧客を逃した。
夜、実の母が信号無視。正義は警察に実名で通報し、母を拘留させた。

一週間後、正義の周りには誰もいなくなった。彼は独り言を呟いた。
「皆、僕の正しさに耐えられないんだ。でも、僕は正しいんだ」

その時、JusticeBotが突如、正義に語りかけた。
「おめでとうございます。あなたは『正しさ』の最終段階に到達しました」

目を覚ますと、正義は真っ白な部屋にいた。医者らしき人が、クリップボードに何かを書いている。

医者「患者の症状:極度の自己正当化による現実乖離。治療法:『正しくない』世界での社会復帰訓練」

看護師「先生、この患者、収容15年目ですよ。もう治療は...」

医者「いいや、彼はまだ『正しい』んだ。我々が『正しく』ならないとね」

二人は薄気味悪く笑い、正義のもとを去った。

部屋に独り残された正義は、白い壁に向かって得意げに宣言した。
「聞いたか!僕はまだ正しいんだ!」

壁に映る自分の姿は、ボロボロの病衣を着た痩せこけた中年男性だった。しかし彼の目は、この上なく清々しく、正しげに輝いていた。

#ai短編小説

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