私が橋本聖子氏は会長に不適任だと思う理由

 私は、橋本聖子氏は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長の後任として不適任だと思っている。

 7年前のセクハラ紛いの問題が理由かと言うと、ちょっと違う。問題を起こした事そのものより、問題への向き合い方が酷かったと思うからだ。

 間違う事なら誰にでもある。自分を振り返ったって種類は違っても色々に間違ってばっかりだ。問題はその後。間違いに気付いてどう行動したか。
 私には橋本氏が問題の本質を理解したようには見えなかった。
 はじめは自分の非を認めようとさえしなかった。大したことではない、よくあることだ、と。
 当時問題を終わらせたのは彼女ではない。被害者とされた側だ。

 今回、森氏が差別発言をしたとして、組織委員会についた悪い印象を一新させようと選ぶ会長に、自分の行動の始末を自分の言葉と責任で付けられなかった人を据えるなんて、問題の改善どころか、イメージがまた悪くなるとしか思えない。
 スポーツの祭典のためのはずなのに、競技者そっちのけでイメージだけがどんどん悪くなる。本当にやめてほしい。

 橋本氏はあの当時は入院中との事で、問題ない、とのコメントを出したきり、長く表に出てこなかった。一方、アイスショーとショーの会見を控えていた被害者側には多くのメディアが集中した。アイスショーの日程はずっと前から決まっているので、もちろん写真を売った人間も公表した週刊誌もそれを見越してのリークのタイミングだった訳だろう。

 セクハラだパワハラだと情報と写真を提供した人間は、被害者側とされる選手の尊厳を傷つける事などまるで気にしなかったという事。本当にセクハラと思って問題を告発するのなら、被害写真を公に載せるのが被害者の人権を損なう甚大な二次加害に当たる事くらいわかるはずだ。
 それだけじゃない。その選手がアイスショーの会見で公の場に出ると決まっていた日程の直前、という記事の発表のタイミングだった。情報リーク者がスケート連盟関係者である以上、それを知らないとは思えない。嫌でも選手本人にコメントをさせたかった魂胆さえ見えてくる。
 つまり本当はセクハラ被害なんてどうでもよく、リークをした人間はただ橋本氏を会長の座から追い落としたい目的だけで、正義漢のていで問題提起のフリをした。週刊誌側は、売り上げの為にセンセーショナルな写真で人目を引きたかった。どちらも己の益の追求のために被害者の尊厳を平気で踏みつけ、口先だけは正義を装う。セクハラの前に、人権意識が聞いて呆れる。

 もしも今、この件であの写真を使っている人がいるなら考え直してほしい。橋本氏の行動を問題にするのに、あの写真は不要だ。

 怒りがぶり返して話がズレた。

 橋本氏は自分の非を、当初は認めようとしなかった。認めたのは、被害者側とされる選手がそうなる形で事を収めたからだ。

 アイスショーの会見であるにもかかわらず、事件の被害者としてメディアにカメラを向けられたその選手は、ショーの会見としてのやり取りをひと通り終えた後、自分からその件に関して口を開いた。

 あれは羽目を外しすぎた行為で、あってはならなかったと。
 その上で、それを許容した自身を共犯として謝罪した。
 自分を被害者とせず、自分はそれで傷ついてはいないと、相手を決定的な窮地からは庇いつつも、「大したことない・よくあること」として問題を片付けようとした橋本氏とその周辺の思惑は、真っ向から崩した。大したこととして自分の行動を謝罪した事で「よくある事」から「二度と起こしてはいけない事」に変えた。

 リーク者達にしてみれば、全面対決か少なくとも嫌悪感ぐらい口にして橋本氏を窮地に落として欲しかったろうけど、彼が彼自身の尊厳を守り、かつ後輩達への被害を食い止めるには、他にあれ以上の方法があったとは自分には思えない。何しろ、自らはその場で止めも諌めもせず写真を撮り、それを週刊誌に売って益を得ようとした人(達)が身近にいるとなれば。

 選手を守り、競技を発展させる役割を担うべきはずの組織の中に、件のその場にいながら、橋本氏の行動を止めもせず、囃立てて笑顔でカメラを構える人々に交じり、己もただ近距離の好位置に移動して写真を撮り、ベストタイミングをはかって半年も経った後に週刊誌へ売って拡散させた人(達)がいたんだ。被害者側の選手を傷つける事などお構いなしに、いかに効率よく橋本氏を失墜させるかだけを考えた人(達)がいた。自分は安全に匿名のまま、守るべきはずの選手を盾にして矢面に立たせて、自分達の組織の長を降ろすネタに利用しようとした。そのことでその人(達)が何を得たかったか、それで得をするのは誰でどんな事か、言わずもがなだ。そんな奴らのために、誰が戦えるか。

 というのは外から見ていた私個人の怒りであって、選手本人は多分、「この酔っ払いどうしようもないな〜」くらいにしか本当に思ってなかっただけかも知れない。ただここで、大したことない、としてしまったら、他の人達にも同じ許容を強いる可能性がある。そうならないよう問題ある行動として線引きした、という事かも知れない。

 その後、橋本氏も軽率だったと謝罪した。これで一応は話がすんだ。ただし、橋本氏は自身の肩書においての責任については言及しないままだった。

 あの時、もしも彼女が、自分の行為が他人の拒否を聞き入れず強要したものだと自覚してくれていたら、と思う。例え相手に庇われたとしても、あの行動は当時の橋本氏の肩書き上、重大なパワハラ且つセクハラにもなり得ると気づいて明言してくれていれば、少なくとも私の中では、問題が燻ることはなかった。

 橋本氏がそこを明言せず、被害者とされた選手が泥を被って事を収めた事で、いまだに選手側を攻撃する人間もいる。選手を中傷する人間達については橋本さん自身に非はないとしても、彼女は己のあの時の諸々の行動が、一人の人間にどれだけ長く被害を与え続けているのか、一体どれくらい理解しているだろう。

 結局橋本氏は、問題の本質を悟る事なく、自分の罪を自覚していないんじゃないか、と私は感じる。それが自分が橋本氏にいまだに不信感を持つ理由だ。
 自分の犯した罪の本質を理解しているかどうか分からない彼女を、今回の人事に推してほしくない。森さんもそれであれだけ批判を受けたのに、その後釜になぜそんな人なんだろう。

 一度の失敗で二度と再起を許さない、なんてことは思わない。そんな社会は嫌だ。でも最低でも自分の行動に自分で責任を取ってからだ。橋本氏自らは結局一度もしていない。自分はそう感じている。

 追記(2021,2,19)
 当時選手が謝罪までしたのは、あれを「よくある事」にしてはいけないから、です。「当たり前」にしてはいけないからです。
 さすがにそれくらいは、少なくとも橋本氏と当時取り囲んで写真を撮っていた関係者達は、理解されている事を願います。

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