見出し画像

登録販売者の理想と現実

皆さんは「登録販売者」という資格をご存知だろうか.
「登録販売者」とは2009年にできた比較的新しい資格でこの資格を取ることで一般用医薬品の大半のお薬(第2類医薬品〜第3類医薬品)を販売することができるようになる.(正確には薬種商の後継の資格が「登録販売者」にあたる.)
ドラッグストアやスーパーマーケットなどでお薬を販売する際はこの資格を持った人が売り場に常駐していなければならない.

現在ドラッグストア業界は競争が激化しており,店舗数は右肩上がりで増加している.また,法規制の緩和でこれまで医薬品の販売に積極的ではなかったホームセンターやコンビニエンスストアなど異業種でも医薬品を販売している場所が増えてきた.

資格取得を推奨しているサイトを見ると
「薬のスペシャリスト」
「手当が出ることもある」
「働き口が多い」
など魅力的な言葉で溢れている.

実際のところ登録販売者資格を得るとどうなるのか.
本稿では新米登録販売者が抱きがちな理想とそれに対する現実を紹介する.

第一章:登録販売者は薬のスペシャリストなのか

登録販売者にしかできない業務として「お薬相談に乗る」業務がある.
資格を持っていない店員は医薬品をレジでスキャンすることはできるがお客様からのお薬相談に対応することはできない.もし,非資格者がお客様から「このお薬とあのお薬はどう違うの?」といった感じでお薬相談を受けた場合はすぐに資格者を呼んで対応してもらわなければならない.
「お薬相談に乗る」業務は(薬剤師を除けば)登録販売者資格を持つ人が専ら従事する業務である
WEBサイトには「お客様に合ったお薬をご案内できることが登録販売者の魅力です!」と書かれていることもある.

お薬相談に乗ることができる,という点では「お薬のスペシャリスト」というのは間違いではない.しかし,問題はその頻度である.
ドラッグストアに来店するお客様の多くは日用雑貨品や食料品を目当てに来店している.なので,そもそもお薬を買いに来ているお客様というのはそもそも少数である.また,お薬を買いに来たからといって登録販売者に必ずしもお薬の相談をする訳でもない.
インターネットなどで予め購入したい医薬品について目星をつけてから来店されるお客様や,単純な価格差で比較して薬を購入するお客様も多い.

したがって,「登録販売者としての知識」を活かして接客できる場面というのは実はそんなに多くはない.
薬剤師の場合,会社によっては「調剤業務が中心で,売り場にはほとんど出なくても良い」という会社もある.しかしながら登録販売者で「ずっと医薬品関連の業務に携われる」ということはまずない.
1日8時間業務としてそのうちの大半は食料品の品出しやレジ打ち,発注業務など医薬品販売とは関係がない業務に勤務時間の大半を費やすことになる.

お薬のスペシャリストというのは誤りではないが活躍の機会はかなり限定されることになる.

第二章:削り取られる休憩時間

労働をする際の休憩時間については働いている方ならご存知の方がほとんどであろう.労働基準法第34条で休憩時間について『労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分 8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない』と定められている.
登録販売者資格を持つ人にもこの法令は当然適応される.

法令は適応されるが,法令が遵守されているか否かは全く別の話である
例えば,登録販売者資格を持っている人が1人しか出勤していない場合,休憩中だろうが何だろうがお薬のことで呼び出されたら否応なしで対応しなければならない.
会社によっては資格者が1人という状態が常態化していることもある.この場合,資格を持っている人は呼び出されたらすぐに対応できるように心がけている必要がありおちおち休んでもいられない.

法律的には「作業をしていなかったとしても、使用者から指示があった場合は、すぐに作業に取り掛かれるような状態で待機している時間のこと」を「手待ち時間」という.手待ち時間は休憩時間としては認められず,労働時間としてカウントされる.

上述のように呼び出されたらすぐに対応できるように待機していなければならない状態は「休憩時間」ではなく「手待ち時間」であり,法的には「休憩時間を与えていない=違法状態」であると考えられる.
にもかかわらず「登録販売者が店舗に1人しかいない」状態は多くのドラッグストア企業で見られる傾向である.
現在の状態が業界全体として是正されるには司法による判断や省庁による明示的な通達を待つ必要があるだろう.
当面の間は資格者になれば休憩時間中であっても業務に従事しなければならなくなる可能性が高いと考えた方が良い.

第三章:医薬品のノルマ

正社員の求人サイトを見ると
「弊社には現場に負担を強いるノルマはありません!」
と書いてることがある.しかしながら,この記載はしばしば虚偽であることもあるので注意が必要である.
小売業の多くの会社で
「推奨販売品」「販売週間」のような名目でノルマを設けていることが多い.
ノルマの対象商品が医薬品のドリンクだった場合たとえ雇用区分がパートであったとしても
「登録販売者の資格を持っているのだからもっと積極的に売り込んでいってよ」
と,ノルマの重圧をかけられることがある.ノルマによる締め付けが緩い会社はまだ良いが,中にはノルマに達しないとなぜノルマに達しなかったのかその理由を文書で提出させるような会社もある.
資格を活かして働くことになった場合は自分が入社しようとしている会社がどのような会社なのかしっかりと理解したほうがいいだろう.

まとめ

このように登録販売者の境遇はお世辞にも良いとは言えない.
お薬を販売する会社で働こうと考えている人は一度立ち止まってご自身が誤った理想を持っていないか考えてみてほしい.
パートやアルバイトであれば辞めることも簡単だが,正社員となると少しハードルが上がる.正社員としてドラッグストア企業などに入社しようと考えている場合は,実際にそこで働いていた社員の口コミなどを見ることを推奨する.

2016年頃から廃墟に関心を寄せる。2018年、実際に廃墟へと趣き、廃墟訪問にハマる。現在はその廃墟がかつてどのように使われていたのか、いつ頃廃墟になったのかを特定することに力を注ぐ。 地域・店舗限定のエナジードリンクを見つけることにもハマっている。自他共に認めるエナドリ中毒者。