サンコーレアモノショップのステマサイトを発見、サーバの設定ミスで露見か?
ユニークな生活雑貨やアイデア家電の取り扱いで知られるサンコー株式会社の直営店「サンコーレアモノショップ」が、無関係の第三者を装って、自社商品の購入を促すステルスマーケティング(ステマ)を行っていると思しきウェブサイト「レア家電.JP」(rare-kaden.jp)を発見した。
発見の経緯
ある日、サンコーレアモノショップのウェブサイト(www.thanko.jp)にアクセスしようとしたところ、次のようなサーバ証明書エラーが表示されたのが発見の切っ掛け。
ウェブサイトは証明書で同一性を証明します。www.thanko.jp は無効な証明書を使用しているため、Firefox はこのサイトを信頼しません。この証明書は次のドメイン名にのみ有効です: www.rare-kaden.jp, rare-kaden.jp
なぜかサンコーレアモノショップのウェブサイト(www.thanko.jp)に別のウェブサイト(www.rare-kaden.jp, rare-kaden.jp)の証明書が使用されている。共有サーバ証明書が誤って使用されるトラブルは稀によく見掛けるが、これは独自ドメインに発行されたGlobalSign承認のDVサーバ証明書である。つまり、これらのドメインのサーバは同じ管理者が運営している可能性が高い。
なお、この画面から「危険性を承知で続行」すると、無地のページに「thanko.jp」とだけ書かれたページが表示された。メンテナンス中のように見えるのだが、Twitterなどで検索しても障害報告は上がっておらず、試行錯誤した結果、どうやら特定のVPN回線を通じて接続した時だけこのような表示になることが分かった。
しかし、数時間後に同じVPN回線で接続した際にはこの現象は発生しなくなっていた。サーバがメンテナンス中だったのか、DNSの切り替え手順を誤ってリゾルバに古いキャッシュが残っていたのを参照してしまっていたのか、今となっては確かめようがない。
ステマサイト「レア家電.JP」
さて、問題の証明書の発行先ドメイン rare-kaden.jp にアクセスすると「面白くて役に立つコラム2020」(ただしHTML上のtitleは「面白くて役に立つおすすめアイテム特集2019」)というアフィリエイトブログのようなウェブサイトが表示された。
東京在住の26歳女性「やまこ」を名乗る管理人が「面白くて役に立つ便利グッズや生活家電、時短家電などをご紹介!」という触れ込みで、2019年8月6日から計19記事を執筆している。そのすべてがサンコーの商品紹介記事であり、記事中の「公式サイトで購入」というボタンをクリックするとサンコーレアモノショップの該当商品ページにジャンプするようになっている。
どこかのブロガーが紹介報酬目的で立ち上げたアフィリエイトブログかと思いきや、商品紹介リンクがASPのアフィリエイトリンクではなく、純粋に商品ページへの直リンクになっている。もうお分かりだろうが、このウェブサイト自体が、サンコーの運営するステマブログなのだ。
ちなみに、問題のサイトに設置されているサイト内検索機能を使って「サンコー」というキーワードで検索すると、記事一覧には表示されない3つの隠しページ(WordPressの固定ページ)がヒットする。
これらの固定ページは明らかにサンコー株式会社側の視点で書かれたものである。更新日付から察するに、当初はサンコーの公式ブログとして立ち上げる予定だったものの、何らかの事情で身元を隠したステマブログに方向転換したのではないかと考えられる。
WHOIS情報
JPRS WHOISで rare-kaden.jp のドメイン名情報を調べたところ、登録者名は「レアモノ家電」となっている。どう考えても身元を隠すための虚偽登録だ。
Domain Information: [ドメイン情報]
[Domain Name] RARE-KADEN.JP
[登録者名] レアモノ家電
[Registrant] rare kaden
[Name Server] ns1.dns.ne.jp
[Name Server] ns2.dns.ne.jp
[Signing Key]
[登録年月日] 2019/08/27
[有効期限] 2021/08/31
[状態] Active
[最終更新] 2020/09/01 01:05:08 (JST)
Contact Information: [公開連絡窓口]
[名前] さくらインターネット株式会社
[Name] SAKURA internet Inc.
[Email] nic-staff@sakura.ad.jp
[Web Page]
[郵便番号] 530-0011
[住所] 大阪府大阪市
北区大深町4番20号
グランフロント大阪 タワーA35階
[Postal Address] Osaka
Osaka
35F,4-20,ofukacho,kitaku
[電話番号] 06-6376-4800
[FAX番号]
汎用JPドメインでは2014年以降Whois登録者情報非表示設定(いわゆるWhois情報公開代行)が利用可能となっているが、レジストラであるさくらインターネットではこれに対応しておらず、その代わりになんと利用者に虚偽の登録者名(サイト名など)を入力するよう促していることが分かった。
Q ドメイン取得時、WHOIS情報(ドメイン)はどうなりますか?
ドメイン取得時に、「登録者のお名前(英字表記を含む)」以外の項目(登録者住所・担当者など)は、さくらインターネットの情報で登録します。
「登録者のお名前」については、入力に認証及び制限を設けていません。
お客様にてサイト名などの プライバシーの及ばない名称 をご入力ください。
属性型・地域型JPドメインにつきましては、登録資格等を確認する必要がございますため、さくらインターネットの情報を代行することはできません。
明らかにこれはJPドメイン名のルール違反である。これでは何らかのトラブルが起きた場合でもレジストラは登録者を特定できず、被害者が泣き寝入りとなってしまう。
サンコーへの問い合わせと回答
「レア家電.JP」をサンコーが運営しているという確証を得るため、サンコーに対し、以下のような問い合わせを行った。2020年12月6日のことである。
「やまこ」と称する管理者がサンコーの商品を紹介するブログ「面白くて役に立つコラム2020」(rare-kaden.jp)は、サンコー様と何か関係ありますか?
こうした案件を問い合わせるための適切な窓口が見当たらなかったので、カスタマーサポートのアドレス<support@thanko.jp>と特定商取引に関する法律に基づく表示のアドレス<shop@thanko.jp>の両方にCcでメールを投げたところ、翌日それぞれから次のような返信があった。
お世話になります、サンコーサポートです。
rare-kaden.jpは、弊社が運用しているサイトとなります。
宜しくお願いいたします。
お世話になっております。サンコーレアモノショップでございます。
お問い合わせの件につきましてですが、
こちら弊社が運営している広報用サイトとなっております。
新作情報やコラムなども掲載しておりますので、ぜひご覧くださいませ。
今後とも、サンコーレアモノショップを何卒よろしくお願い申し上げます。
あっさりとサンコー自身が運営するサイトであることを認めた。というか、無関係な第三者を装ってこうしたサイトを運営することがステマだという認識すらなさそうである。
ステルスマーケティングについて
消費者庁は「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」において次のように述べている。
(4) 景品表示法上の留意事項
○ 商品・サービスを供給する事業者が、口コミサイトに口コミ情報を自ら掲載し、又は第三者に依頼して掲載させる場合には、当該事業者は、当該口コミ情報の対象となった商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は当該商品・サービスを供給する事業者の競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されることのないようにする必要がある。
日本弁護士連合会は「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」において次のように述べている。
しかし,問題はステルスマーケティングによって表示された内容が優良誤認又は有利誤認にあたるか否かではない。たとえ,表示された内容自体に優良誤認や有利誤認の問題がない場合であっても,その表示が中立な第三者の意見であるかのように誤認されるならば,消費者の合理的な選択が阻害されてしまうおそれがある。したがって,優良誤認や有利誤認に当たるか否かではなく,中立な第三者の意見であるかのように誤認されることそのものが問題なのである。
現在日本では,中立な第三者の意見であるかのように誤認される表示方法そのものを規制する明確な法規範が存在しないのである。
ステルスマーケティングは,客観的・中立的な情報を装って,実は事業者の意図する主観的な情報を提供するという,欺まん的な情報提供の態様である。諸外国では既にこれを規制する法制ができているが,日本における法整備は遅れている。
なりすまし型のステルスマーケティングは,欺まん性の高い類型であり,これを禁止すべきことは明らかである。
ステマサイト「レア家電.JP」のその後
「レア家電.JP」はその後、東京在住の26歳女性「やまこ」を名乗る管理人の存在が抹消され、続いてサイトのタイトルが「面白くて役に立つコラム2020」から「THANKO MAGAZINE -サンマガ- 」に変更された。
また、サンコーレアモノショップのウェブサイトからブログにリンクしたり、サンコーレアモノショップの公式Twitterアカウントでブログ記事を紹介するなど、公式ブログとしての性格を強めていく。
また、ドメインの登録者名も「レアモノ家電」という虚偽の情報から「サンコー株式会社」という真正の情報に修正されていた。
Domain Information: [ドメイン情報]
[Domain Name] RARE-KADEN.JP
[登録者名] サンコー株式会社
[Registrant] Thanko,inc.
ただし、依然としてブログには運営者情報が掲載されず、ステルスな状態が続いている。ドメインもサンコーレアモノショップとは異なっていることから、検索などで流入した閲覧者はそれがサンコーの運営する公式ブログだと確信することは難しいだろう。
ステマサイト「レア家電.JP」のその後のその後
特に告知などは見つけられなかったのだが、いつの間にかステマブログのURLが"https://rare-kaden.jp/"から"https://www.thanko.jp/blog"に変更されていたようだ。
2021年10月頃にはサンコーレアモノショップのトップページから新しいURLでブログにリンクされており、旧URLの方は2021年12月1日に取得されたGoogleキャッシュを最後にアクセスできなくなっている。
サンコーレアモノショップのステマ問題もこれで決着というところだろうか。