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ラジオ備忘録『安住紳一郎の日曜天国』

ふだん何気なくラジオを聴いていると、ふとしたときに自分が思っていた、悩んでいた事と繋がる言葉に出合うときがあります。うんうんと共感したり、励まされたり、思わず泣いたり……。偶然のそんな一瞬の出合いを味わいたいから、わたしはラジオを毎日聴くのかもしれません。刹那的ともいえるラジオの魅力をここに書き留めます。

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【TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』
(毎週日曜10:00〜11:55)】

TBS看板アナウンサー・安住紳一郎がメインパーソナリティを務める人気番組。通常ならばアシスタントのフリーアナウンサー・中澤有美子とともに進んでいくのですが、2021年1月3日(日)の放送回は、三が日という理由もあり、安住さんいわく「今日はワンオペでお送りします」と、安住紳一郎がひとりぼっちで番組を進行。ふだんとは異なるイレギュラーの回となりました。

2021年で17年目を迎える日曜天国こと“ニチテン”。過去の面白かったコーナーを中心に振り返るとともに、アナウンサーとして普段どんなことを想っているのか、また新人時代のエピソードや、お母様そして3人の叔母様たちのお話などが紹介されました。通常運転でも、テレビでは掴めない安住紳一郎という人柄を垣間見ることはできるのですが、この回を聴くだけでもより好きになってしまう。まるでラジオの神が降臨したかのような神回のオンパレード編成です。

●口の硬い男(2009年放送)
日本でただ一人、醤油大使として拝命された醤油好きの安住さんいわく、「どう〜最高でしょ!? 見たことも聞いたこともないもんね」と言った前代未聞の放送。安住さん宛にいただいた熊本産の醤油をお福分けするために、口の堅いリスナーにプレゼントするという企てに受けて立つ、リスナー・イシヅカさんとのやりとりを紹介。「たくさんの優秀なリスナーに支えられているのもわたしたちの自慢です」と仰るとおり、番組を支えるリスナーとはなんぞや、という問いへの模範的解答でもありました。

●汚いAD ナカムラ(8年前の放送)
「会社員とボウリング」は、親和性の高いネタとのこと。安住さんのサラリーマン人生に、さまざまなところでボウリングが彩りを添えているらしいです。そのなかの一編を紹介。そもそもラジオ東京が母体という歴史あるTBSで行われた社内レクリエーション「ボウリング大会」での出来事。
廊下に張り出されたそのお知らせのポスターをみて、70チームが出場するなか、ラジオ部からは1チームしか参加していないことに気づいた安住さんは、なんとチーム「日曜天国」を結成。ラジオ部の復権を賭け戦う安住紳一郎。やっぱりラジオって弱いと思われたくない。錚々たる部署をなぎ倒す意気込みで必ず勝つにはコレしかない……ということで「不正をするんです」。日曜天国チームに、日本でトップ10にも入る女性プロボウラー・中村美月選手を投入し、社内のレクリエーションの場で挑む。プロだとバレてはいけないと、中村プロに一番ダサい私服で来てくださいとお願いをしたところ、安住さんの趣旨を理解され、“昨日家に帰れなかったADさん”のような完璧な装いであったとか。結局、プロ選手を交えたチーム日曜天国は、正式に処分されたとのこと。なにをやっているんだと怒られたなかでも、「やっていることはテレビ、ラジオを制作する延長線上にあることで面白かったよ」と言ってくれた先輩もいらっしゃったんだとか。この件で激怒された方が昨年定年退職を迎えられたことから再び今回聴くことができました!

このあと、リスナーからのリクエスト曲、サンボマスターの『できっこないを やらなくちゃ』がかかるのですが、その流れがなんともお見事で美しすぎる! 面白い、やってみたいと思ったことを忠実にやる、やり遂げている人こそ生き残るんじゃないかと、会社の組織と戦うサラリーマン・安住紳一郎を通して考えさせられた内容でした。

●採用試験を受けたときのテープが出てきました(1996年2月)
「私自身、さまざまな側面から放送に関わっていることが好きなので、フリーにならず局アナとして仕事を続けている」安住さんは、1997年にTBSに入社。ここに辿り着くまでにさまざまな試験を受けられてきたそうですが、当時、明治大学文学部の安住さんが第3次面接を受けている音源が紹介されました。試験官が20人いるなかでの試験会場の司会をしていたのが、小林豊アナウンサー。そのやりとりがなんとも面白い。いや、もう愛おしいのです。たとえばこの場を実況中継してというオーダーに、自己PRしちゃうところとか…緊張が伝わってくるんですよ。ご本人いわく「懐かしい、けれどなぜ受かったのかわからない…なにか一点突破したような気がする」と、しめくくっておられました。

ここまでの放送で約40〜50分くらい経ちました。どうです?めちゃくちゃ内容盛りだくさん。濃いんですよ。その後もまだまだ過去の音源を紹介するコーナーは続きます。

●四姉妹に育てられた私
●ゴミ屋敷にて…
●魔性の館内放送
●新人アナウンサー安住紳一郎
●アメリカ50州覚え歌

この内容の充実ぶりに「晴れた日に濃い目のソースを一気飲みしたかんじでしょうか」と安住さんは仰っておりました。
最後の締めくくりとしてね、また素敵なことを仰っていたんですよ。
初めてラジオ中継に出たときのことに触れつつ…

「大沢悠里さんに、23年前、安いところに住むと書いて安住くん〜と呼ばれ、「はい、今家賃が5万円です」みたいな答えをしてリポートを始めているんですが、そのときに埼玉県にお住まいの女性の方からハガキが来て、そのときのやりとりが面白かったです。これからあなたの人生、放送で声を聴くのを楽しみにしています。……一番最初にラジオを聴いている人からそうやって肯定されたことで、私はラジオに対して前向きな気持ちになりました。若い話し手の人が今たくさん番組に挑戦しております。ぜひ老婆心ながら応援のメールを送ってくれるとその喋り手が伸び伸びと喋ることができ、そんなこともお伝えしたいなとおもいました。うるさくてごめんなさい」

安住紳一郎という方は、情報を伝えるアナウンサーという側面を持ちながらも、表現者として、また放送を届ける職人としての魅力があるんですね。だからわたしたちリスナーは惹かれてしまうんじゃないのでしょうか。なによりも言葉を多く持っている人は強いです。面白いです。今回のワンオペ放送を聴いてより、この方の魅力にハマってしまいました。



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