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漠然とした行き場のない想いを抱えて

【 私の本棚 - No.002 】

作品:明け方の若者たち
著者:カツセマサヒコ
出版:幻冬社(2020年)

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あらすじ

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」
その16文字から始まった、沼のような5年間。

明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、“こんなハズじゃなかった人生”に打ちのめされていく。息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。高円寺の深夜の公園と親友だけが、救いだったあの頃。

それでも、振り返ればすべてが美しい。人生のマジックアワーを描いた、20代の青春譚。

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感想

とても久々に読んだ長編小説です。
傷から流れる血が止まらなくなる。

上を向こうと、もっと良くなろうと、心だけが焦っていくけれど、現実はそううまく変わっていかない。そんな漠然とした物足りなさを感じている大人たちには間違いなく刺さる作品かと思います。「こんなハズじゃなかった」ことの繰り返し。でもそれは今しか体験できないできないことなんだ。不思議なもので、読み進めながらそんな絶望すら愛おしくなってきます。
そして、文中に散りばめられた固有名詞たちが妙にリアリティを駆り立ててくる。これは誰の物語なのか。うっすらとぼやける主人公と自身との境界線がなんとも心地悪い。よくもわるくも。

全体を見返してみると、主人公自身、その選択の末路を知っていて、わかっていて選んだ道なのに後悔しているんですよね。あと1歩踏み出せなかった。その1歩を踏み出してしまった。自分で選んだ道だというのに。

途中にある「加点方式の人生」というくだりが現代に横たわるこの漠然とした不安と物足りなさをうまく説明していて、非常に共感した部分です。私達はただ、褒められたいんですよね。必要とされたいんです。それにはいろんな形がある。ただそれだけで、それがすべてなんだ、って。

クスリと笑える描写もこの作品の魅力です。親友の定義とは。
ヴィレヴァン好きな、悩める20~30代にぜひ。

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