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リサとハリー(エッセイ寄りver.)


「雑踏風景」


私は子供の頃余りよろしく無い家庭環境の中で育った。

成長し自我が芽生えていくにつれ、
自身の存在は無価値なんだと思った。

私は物を作ってお金を生み出し
自分が価値のある人間だと言い聞かせた。

金銭的価値を生み出せる自分にしか価値を見いだせず、
稼いだお金で、他人に金品を与える事により安心感を生み出していた。
そんな19歳だった。


そんな時に出会ったのが、
リサだった。リサは私の事をいつもすごいと言って、
自分自身が描いた絵を無価値だと言いどこにも出さずしまい込んでいた。

そんな彼女をみて私は初めて彼女の絵を買った。
彼女に自信をつけさせたい
初めはその一心だったし、本当に彼女の作品が好きだったからだ。

でもあの時私は、リサが上手くいく事を
一切信じていなく、彼女の魅力を知るのは私だけでいいとも思っていた。
結局は同情だった。

彼女を自分のおまけとして
様々な場所に売りこみにいった。
彼女を連れて様々なところへ出かけた。
変な人や仕事からは引き剥がした。

19歳の私はこんな楽しいリサと二人の日々を
続けさせるにはどうしたら良いのか考えた。

その答えは「大金を稼いで彼女を周りの環境から切り離して行き場をなくしてしまおう」というものであった。私の欲望は根本からゆがみ切っていた。

私は働いた。
様々なファッションショーに服を出した。
様々な会議に出た。
周りが心配しても止めなかった。
彼女が誰かに取られてしまうことが怖かった。
少しでも稼ぐスキルのない人だと思われるのが怖かった。
漠然とした焦りの中でがむしゃらに働いた。

働き過ぎた。
日常と創作の境界線が曖昧になり、
だんだん部屋は荒れていき、
食事の味もよく分からなくなった



かつて絵描きの人に言われた言葉を今なら思い出せる。
「絵の中に引き込まれそうになったら
逃げるんだよ」

でも当時はそれさえも気づかなかった。

求められたら答えたくて仕方がない。
求められた以上のものを出せないと不安で眠れなくなっていった。
そして描けない日は突然始まった。
それまでがトントン拍子に進み過ぎて、
私は失敗の仕方、助けての言い方が分からなかった。
日に日に「死にたい」という思いが
日常的に現れてきた。
夜に眠れなくなり、慢性的に頭がぼーっとする
服を作ろうとするとイライラし、
投げやりなものしか作れなくなる。
しかし相談しようにも自分の今の姿を見せたくなく、
あることない事いい話だけを話す。
自分がどこまで嘘を言ったのか、
ホントを言ったのか記憶も無いので
人と話している時にどこ不安がつきまとい、
さらに嘘を重ねる。
嘘の話と、本当の話が
混合してしまい、嘘も事実のように捉えてしまう。
周りがどんどん優しく接するようになって行くことを感じる。
それはまるで腫れ物を扱うようだった。
私はその優しさの裏にある言葉を想像してはさらに眠れなくなった。

それと同時期に
リサが様々なファッションの賞を取りだした。
出せば必ず何かしら引っかかるそういった具合だ。

かつてはそのポジションにいたのは私だったはずなのに
当の私は一日中無気力で立ち上がれないのに。
嫉妬心だけはフツフツと煮えたぎっていて、
彼女さえも私を見下しているんだと、

「あなたの才能を褒めて伸ばしたのは誰だ」と、
なんともまぁ汚らわしい感情と共に
今日も今日とて布団に潜った。
なんにも出来ない自分に嫌気がさした。裁断バサミを持とうにも手が震えて苛立ちが止まらない。

そんな私の元にリサから「会いたい」と連絡が来た。
予定なんてひとつも無いくせに、
忙しい振りをして、「この日だけなら空いてる」と言った。
ドタキャンしてやろうと思いながら、
ネットで服を買い、美容室に行き、爪を整えた。
私は自分が今いかに売れているのか
嘘の設定を練っていた。
私はリサの上を行かなければ、
彼女に近づいてはいいけないと思いながら
いつの間にか過ごしていた。

久しぶりに風呂に入り、化粧をし、
何も無かったように服を着る。
リサはどんな格好で来るのだろうか、
何度も予想しては、自分を着飾らせた。

それから約束の日になり。
私は久しぶりに外に出た、人の目が怖い。
知り合いに見られているような
焦りがずっとある。

遠くに彼女が見えた。
すぐに分かった、だけど私は
自分から歩み寄りたくなかった。
彼女が自分に歩み寄ってくれる事で、
自分を慰めたかったんだ。
久しぶりに会えて嬉しいのに
こんな事を考えている時点でもう
私は心のどこかの隅で負けた負けたとささやく声が聞こえた。

彼女は私を見つけて、
おーいおーいと言いながら近付く。
私は聞こえない見えないふりをして、
キョロキョロと辺りを見回す。


そこから私達は昔のように話した。
雑踏の中で私達はふたりぼっちになれた。

私はリサに将来の目標を尋ねた、
あなたはどこまで行ってしまうの
どこまで離れてしまうのと遠回しに聞きたかった。
初め彼女は当たり前のように「特にはないかな」と答えた、
そんなはずは無いと少し苛立ちながら
彼女をさらに問い詰める。

彼女は捻り出すように
「おなかいっぱいご飯を食べられて眠れるならなんでもいい」と言った。

そうだった彼女は昔からこういう人間だったんだと思い出した。


勝手に彼女を怖いと思い込んで遠ざけて恨めしがっていたのは私だった。

負けた。これは、誰のせいでもなく
自分との戦いだったんだ。
そしてこれに終わりはないんだろうとも
確信した。

あとがき

今回のこの短編小説は
60分という制限時間の中で
自分の過去の「負けた」という出来事を
テーマに一本小説を書くという物でした。

60分なんて楽勝と鷹を括っていたら、
(2000文字くらい20分ありゃできるかなと思ってた)
残り1分まで必死に書いてた。

今までの課題で一番余裕がなかった。

太宰治の黄金風景初めて読んで、
ベースにしてこのお話を書いてみたんだけど
こんな模倣的小説の書き方は初めてで、
まさに新感覚、なのに不快感はない。

描き終わった感想は、
「やりきったー!!!!」だなぁ。

この山田先生の授業は合計三回あったんだけど、
三回とも自身の負の感情を全力投球してやろうと
心に決めていたし、そもそも私は
全力投球しかできなかったんだよね。

そのせいで息切れもして、度々低浮上になったりもしたんだけど、
「……あー…あんなことまで話してしまった…
あんな病んだことばかり話して、
合わせる顔がない…死…」
となりながらも、三回とも受け通したからなんとか
コルクでのミッションクリア!って感じ。

今回の小説は負けたがテーマなんだけど、
書いていくうちに卒制ように書いてる「リサとハリー」って
漫画に自然と近づいて行った。

この漫画は自分の内面に近づき過ぎてるからか、
描いてると時々主人公に対して、「いや!私はこんなんじゃない!あっち行って!!」となる漫画で一歩進んで2歩下がるをくり返している。

ある意味キャラと喧嘩しながら描いてるのかな。

「本当はもっとこうして欲しいんでしょ?」って問われながら描いてる。
私は物語って作者の叶えたかった思いという独りよがりな
欲望を書く物だと思うから、
書いてて恥ずかしくもなる事も多々ある。
なんというか妄想のシルバニアファミリーを
覗き見されてる感じというか…

うーん、恥ずかしいけど、
やっぱり描きたいから露出狂の気があるのかしら…(冗談です)

書いてると感情ジェットコースターになるし、
振り落とされるけど、
結局しがみついてるからこれからもきっとそうなんでしょう… 

読んでるあなたも、書いてる私も変わってるね。



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