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フリーゲーム『魔法少女』レビュー


このフリーゲームの作者様はTS様(@ts_tassan)です。少し内容に触れています。ご考慮下さい。

SRPG(シミュレーションRPG)のフリーゲームを今回はご紹介致します。DLは上記リンクから。

シミュレーションRPG95(95は1995年から)という開発ソフトで作られており、システム面での古さは否めません。ですが、シナリオ、内容が群を抜いて長大で面白さに溢れ、登場人物が織りなすキャラクター性が実に素晴らしく、プレイした約10年前を思い出しながら、感想を書かせて頂こうと思います。

ジャンルとしてはSFで、しかしきちんとタイトルの意味は伏線回収されます。引き込まれる導入部、そこから気になるテキストの続きを読みながら、どうかこの物語が唐突に終わらないで、いつまでも続いて欲しいと思わせてくれた、大変に秀逸な大作でした。そしてその思いを裏切らないように、実に長大なシナリオが物語を不足感なくボリューミーにしてくれます。

物語設定としては、主人公たちの暮らす街に、突如怪物の群れが降りかかります。壊れていく街を、学校から眺めながら、これまた突如現れた宇宙人の猫型生物に、戦う為の力を授かります。変身する為に脊髄に注射を打たれ(!)、彼女たちは宇宙から飛来しているらしい怪物との戦闘に否応なしに巻き込まれていきます。

主人公の魔法少女は、霧島千代子(きりしま ちよこ)と日向遥(ひゅうが はるか)という二人の少女が担います。戦闘が激化するにつれ、仲間が増えていき、総勢なんと、25人にまでなります。致命的なネタバレは回避したい為、これくらいの説明で一応は済ませます。

シナリオの出だしの一文から、「これは絶対に面白いぞ」と確信を持ってプレイし始めた者として、そして、これほどプレイして後悔がなかったフリーゲームは稀であったことも付け加えておきます。

主人公の一人である霧島千代子ちゃんのキャラクター設定、造形は特に素晴らしく、ゲーム内の設定曰く、「自分の心に塵一つない潔癖さを求め、嘘をついたり、悪事を頑なに拒む性格で、それだけで周囲から疎外されている」とあります。これが設定だけではない、実際の性格であるが故に、物語の中では見事に中心人物の役割を果たしていきます。この子以外の主人公は考えられません。

主人公たちは主に中学生の年齢層で構成されているのですが、当然に学校に通います。千代子ちゃんは学校では理解のない教師たちから問題児扱い、学業、運動の成績も振るわず、しかしそれをネックにすることもなく、本人としては仲の良い友達が少ないことを一番に気にしている模様。親友であり幼馴染の遥ちゃんと会話することが学校での唯一の楽しみなのです。そんな序盤の彼女ですが、この物語はそんな彼女の成長物語では決して無く(!)、この時点でこのゲームが凡百性から逃れていることを示しています。彼女は一貫して、彼女のままです。世界を救っても。それがとても良い。

学校での扱いとは裏腹に、千代子ちゃんは、バイオモンスターと呼ばれる化け物との戦闘を通じて、一種のカリスマ的な活躍と存在感を示します。仲間から慕われていき、彼女の捉えられ方は、変化をしていきます。そうして彼女の魅力は遺憾なく発揮されていくようになります。彼女に与えられた、魔法の能力も、今まで適合者が皆無だったその能力を存分に扱えるようになるのは、その彼女の通徹してきた在り方が関係しています。精神的な強さが、能力のトリガーとなります。故に気弱になればズタボロに負け、気丈になれば能力は破格の向上をします。設定的にも、物語としての当然の帰結点としても、彼女の能力は最強になる訳です。

このゲームの主人公は2人と言いましたが、謂わばこのゲームは「群像劇」に分類されるものです。ですので彼女たち以外の登場人物にも、きちんと主導権と見せ場が用意されています。25人分あるので、とてつもない所要時間を想定するかもしれませんが、プレイしている間は体感的にあっという間です。それくらい、ダレる展開が皆無です。常時ピンチの状態が続くという緊張感もありながら、日常を合間に挾み、未知なる敵に敗北しない為に、それぞれの能力適合者に「仲間になるよう説得」を続けながら(これは猫型宇宙人がしてくれることなので、プレイヤー的には自動的に仲間が増えていく感じである)、物語展開は停滞感を見せないのです。

少しネタバレ気味になりますが、このゲームは「襲ってくる敵は何者か?」という謎もまた訴求要素なのですが、実はそれは設定的にあるだけで、この作品が描きたいことは別にあると推測できます。主人公の少女は主に中学生の年齢層と先程も書きましたが、その描写、及び設定が、何よりも重要視されています。物分りよくあることもあれば、生理的、感情的に無理なものは無理という描写も多々あり、ある意味での少女的リアリティを醸し出しています。

ある登場人物曰く「そもそも、この戦闘に拒否権は用意されていない。なにせ負ければ全人類が滅びるのだからな」という台詞があるのですが、それはその通りなのですが、道理なのですが、そう簡単にはいかないからこその、仲間に加入するための「説得」が必要になります。戦闘と皆無である人生を送っている少女が、突然に戦士になれと言われて出来る訳もないこともまた道理であり、そこが、また統率を乱す行為が頻出したりと、展開の妙技を発揮していきます。

この件に関して言えば、霧島千代子というカリスマの、カウンターパンチとして用意されたであろう登場人物として八島唯(やしま ゆい)という中学3年生の仲間がいます。このゲームは巧みに伏線が張り巡らされているため、ある程度の展開が読めることがありますが、それは決して欠点ではなく期待値を上げるものになっています。「ああ、この設定はこういうことに繋げるためだったのか」と腑に落ちることが実に快感でした。彼女の登場もその一つです。

存在がほんのりと匂わせられていた彼女ですが、実際に登場してみると実に良い役割とキャラクターをしており、話としても更に盛り上がっていくことになります。自分もお気に入りのキャラクターの一人です。彼女の加入が、物語の視点を一辺倒にしないことになります。言ってしまえば、彼女を、肯定するか否かで、派閥が仲間内でできてしまうのです。霧島派と八島派ですね。そう如実にできる訳ではないのですが、展開的にはそう読む他ありません。戦闘では一丸とならなければならない一方で、仲間の内情は複雑化していきます。もっといえば、バイオモンスターとの戦闘どころではないという展開も生じてきます。これも、先程の、真の作品の描きたいことと繋がってくる話ではないかと思います。実の所、戦闘自体は作品的には二次的な扱いに過ぎないのです。

凡百な作品では、仲間は同じ学校の校舎で全員集合となるのでしょうが、この作品では、仲間集めは学校を超えて必要となります。同じ町内の、複数の学校から適合者を集める展開となります。設定として、これも個人的にとても好きな所でした。彼女達の所属する学校が違えば、事情も異なってくる訳で、それもひっくるめての「町内防衛」となるので、代わる代わる起こるシーン展開は飽きさせることなき見事な配慮的設定だと思えました。

結局、この物語が何を言いたかったかといえば、有り体に言えば「行きて帰りし物語」です。

そういう意味では、序盤と違い、霧島千代子ちゃんは「変わった」ことになるのでしょう。芯の部分に変化はありませんが。世界の防衛と、世界を行き来することによる展開は、往還するという意味での二重のリンクであり、彼女たちの精神的な面と、実際の行為が繋がるものです。

単に世界を救っただけではない、彼女たちの在り方が光ることこそが、物語を際立たせていたのだなと感嘆するばかりでした。人知れず世界を救ったヒーロー達は、そして日常に回帰していくのです。

この作品には、最後の最後まで「強大な悪」という存在は登場しません。これも戦闘を副次的なものにしている証左であり、しかし彼女たちの「日常」を脅かすには十分な悪ではあります。か弱い一般の人間であり、しかし力を授かることにより、彼女たちは強大な力を所有することになり、そういう意味でも彼女たちの「日常」は崩壊の危機に晒されます。それを忘れない為に彼女らは「町内防衛」というネーミングを地球防衛戦に対し愛用します。いつか還る日常の為に。

意識というものが設定や作品的に重要視される物語であるが故に、このいつか帰る場所を守るという行為は、彼女たちを現実的に、虚構的展開に対峙させます。こんなことは夢であってほしいと逃げ出しても誰も責められない展開の中、誰一人脱落することなく、義務など無い責務を果たしたことに、感動するのは自分だけではないと思います。

登場人物の25人を、未だにきちんと全員諳んじれることも、このゲームが、いかに人物描写に力を入れていたかという証左かと。誰しもにお気に入りになる登場人物がきっといる筈。その子の在り方に寄り添って、ゲームをプレイしてみるのもまた一興になるのではないでしょうか。

プレイする時間を何とか用意してもらいたいです(長時間が必要になることは必須なので)。大変に他者にもオススメしたい作品です。私は3日間を費やしました。ゲームへと充てられる時間を全て、『魔法少女』に費やした3日間は良き思い出です。プレイ後は多少虚無感に襲われました。喪失感がとてつもなかった、ということなのでしょう。本当に素晴らしい体験を、ありがとうございました。



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