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BL感想まとめ

エッチで露骨なネタバレがあります。

①『きみは皮肉なキラキラ星』佐倉リコ
②『この手を離さないで』咲本崎
③『うしみつどきどき古書店譚』tacocasi
④『春懸けて鶯』那梧なゆた

①実力派若手俳優×コンプレックス強めの美人な俳優

・あらすじ
受けは綺麗なルックスを武器に活躍中の舞台俳優。自分の顔の良さを自覚しているが演技の実力不足も自覚し悩んでいた。そんな中仕事で共演することになったのは演技の才能は素晴らしいのに人付き合いが苦手な攻めだった。せっかく才能があるのにと放っておくことが出来ずちょっかいをかける受けを攻めは鬱陶しいと感じていたが……。そんなある日受けは攻めと先輩俳優の修羅場をたまたま目撃してしまい攻めがゲイだということを知ってしまう。

・感想
繰り返しになる気もするが美人=色素薄い系というBLの多さよ。銀髪もしくは金髪の儚げなキャラデザだと大抵あらすじに絶世の美人な受けが出てくる。BL界の七不思議に認定されていいと思う。これが美人な攻めになると黒髪が多くなるのなんでだろ?誰か論文出してそう……。
舞台(しごと)と恋と、ちょっぴりえっち、というキャッチコピー?最高です。えっちに重きを置いたエッチなBLに疲れた人に向けたストーリー重視だけど重たすぎないピュアなBLです。
ストーリー重視だと内容やテーマが重めなものが多いんだけどこれはそんなに深刻過ぎず起承転結少女漫画のノリで読み切れるから燃費がいい。
後半のえっちなシーンもえろいと言うより可愛い。内容も絵柄も。ちょっとえっちなBLを読んでみたい中級手前の初心者にオススメかもしれない。そんなに直接的な描写がないのも良かったのかもしれない。いや冷静に読んだらえっちなシーンは普通にえっちだったわ。兜合わせなんてお前ら思春期の少年が見た白昼夢みたいなことを。
受けは周りと距離を置いているのが気になるけどそんな努力をしなくても演技だけで仕事を取れる攻めのことを少なからず気に食わないと思っていて、攻めはどんなにあしらってもちょっかいを出してくる受けを共演NGにしたいくらい鬱陶しく感じてた(恐らく仲良しのペア売りをされることで恋人に勘違いされたくなかった)、そんなちょっと険悪寄りのふたりがちょっとしたきっかけを重ねて惹かれあっていくという心の機微が内容と雰囲気の割にしっかりと演出できていて好感度:高。
自分のことを嫌いだという自覚があるからこそ素の自分を出せるということにいつもと違う攻めを見て自覚していくのすこすこのすここここここここ。
でも攻めの感情の振れ幅?変化の過程もかなり心の臓に刺さりまくった。
最初は受けを馴れ馴れしい嫌な奴だと思っていたのにゲイだとカミングアウトせざるを得なかった状況でさらっと受け流す姿に救われるというBL展開エモすぎ問題2023。
飄々としていて馴れ馴れしい姿はその反面他人との距離をよくわかっていて一定の間隔を開けているからだとばっちゃが教えてくれたんだ、これが真理の扉......。
とはいえ2人って作中を通してお互いのトラウマを抉りあってるんだよね。
受けに関しては先述したけど自分と攻めとの実力の差というか現実?
攻めが恋人に振られて役者を続ける理由を見失った時に受けははじめてはっきりと攻めへのネガティブな感情を覚えてる。自分の方が演技が好きで熱意もあるのになんでこんな恋人に認めて欲しかったから始めただけだという攻めに才能があるのか、と。
欲しいかどうかはそれを決める条件ではない、って某好きな歌の歌詞にもあるけどきっと受けはそんな惨めな想いを死ぬほど繰り返してきたはずで、そしてそれに気づくことすらない側の攻めというあまりにリアルな描写がキツかった。努力しているから手に入るとは限らないし、残念なことにある程度の努力で手に入れるような人間も一定数存在している。
君塚(当て馬・攻めの元カレ)がまだ攻めを好きだと知ってはじめて自分も好きだと自覚するのがまたいい、この手のストーリーって割とゲイだと知って意識しちゃってみたいなパワータイプの展開多いしそうだったらそこまでストーリーを評価できなかったかも。
そこで卑屈になって距離を置くのではなく自分の好きな舞台俳優の演技を見てもらって少しでも演技を好きになってもらおうってポジティブに行動できるところが受けのいいところでそんなところに攻めも惹かれていったのだろうと思うし。
ゲイだって知ってるはずなのにでも俺は恋愛対象外なんだろ〜ってズケズケと触ってくる受けに翻弄される攻めかと思いきやいやそんなことは無いとキスをする攻めの大胆さにスーパー攻めみを感じました。
でもそんな攻めも受けから告白されたシーンで「少しくらい考えてくれてもいいだろ」と言われたの結構トラウマえぐられてる気がするんだよね。自分自身が君塚に付き合ってれば好きになるかもしれないじゃん、と押して付き合った結果振られてるという経緯があるから。無意識に断れない流れを作ってる受けもなかなかいい。
とはいえ君塚の思いを知って自覚した恋心に自分を君塚と間違える攻めは攻撃力高くないか?と思ったのに全然堪えてる様子なくて大草原不可避。もしかして2人ともメンタルオリハルコンか何かでしょうか?
好きな人に認めてもらいたいから始めた俳優業を受けとの日々を通して楽しかった、続けたいと思えるようになる過程でトラウマを乗り越えて受けに惹かれるからこそ読者も置いてけぼりならないでふたりの恋を応援できたような気がする。
とはいえですが君塚くん君はダメだ。いやダメではないけど。いわゆる二人の関係をかき乱す当て馬ポジションなんだけど作品によってガチで安心出来るいい人とそうじゃない人がいる。君塚はそうじゃない人。
悪い人では決してないけど自覚なく自分本位で他人を傷つけてくるタイプ。自覚ないのが1番タチ悪いじゃん。
覚悟もなく攻めと付き合って、結局「俺の方から無理やり付き合ってもらってたんだ」なんて言わせる時点で「俺も攻めのことが好きだったし今でも好きなんだ」なんて思う資格ないでしょ。これで取り返そうとかじゃなくてうじうじ被害者面するんじゃないよ全く。当たり強くて草。
挙句の果てには君塚には他に好きな人がいて上手くいっているなんてありもしない噂に乗っかって振る上にそれが攻めを傷つけず自分が悪者になる別れ方だと思ってるのが凄い。
こんな断られ方って攻めが「やっぱり俺が無理を言って君塚を縛り付けてたんだ」って自分を責めるか傷つく振り方だと思うんだけど。そうじゃなくてちゃんと素直に本当の理由を伝えればいいのに。結局攻めに嫌われたくない呆れられたくないから保身に走っただけ。
可愛い弟みたいだと思ってたのに自分よりも才能がある攻めを受け入れられなくて妬んで、更にはそれで降ったのではなくそんなふうに思う自分が嫌いになりそうだったから振った??挙句それで攻めと受けがラブラブしてるのを意味深に見つめてみたりそんな告白を受けにして困らせてみたりうじうじうじうじうじうじなんなんだ!!!
それは愛じゃないよ。自分を肯定してくれる格下の人間を可愛がってやる、という行為に陶酔して愛だと勘違いしてるだけだよ。胸糞〜、しかも悪意ないから怖いよね。なにが切り替えなくちゃだとか被害者面すんな!!
これでも仁とのスピンオフありそうだな〜。
上手い言い回しが出てこないけど1冊に上手く起承転結がまとまってて感情の機微や変化もちゃんと捉えられてBLとしてというよりストーリーを楽しめる作品だったと思います!
あと水族館デートのシーンめちゃくちゃリアルなデート描写で恋人いない陰キャオタク腐女子は泣いてしまったのであった。

②ある問題を起こしエリート校から転校してきたα×何故かαに当たりが強い生徒会長

・あらすじ
ある問題を起こしてαのエリート校から転校してきた攻。クラスメートたちが色めき立つ中ひとりだけ攻めに対して敵意丸出しな人間がいた。理由も分からず嫌われる攻めは最初こそ受けに対して嫌な奴としか感じていなかったのだが……。

・感想
これは人生のフルコース入り確定の良作です。あらすじにもある通りオメガバースの世界線。よくあるオメガバースの説明はないものの最近読んだ中では一番ベーシックなオメガバース作品だと思う。まあある程度説明しなくてもおおよその設定が読者に理解されるくらいオメガバースが浸透したということでしょう。
受けはいわゆるα至上主義の家庭に生まれたΩで、想像にかたくないと思うがネグレクトや精神的暴力など虐待を受けて育っている。比べて弟はαだった為余計に疎まれ家族3人が仲良く食事を囲む中何も与えられないようなわかりやすい機能不全家族。
そんな愛を知らない「持っていない」受けに対して攻めはαのエリート校から転校してきたという生粋の「持っている」α。
受けは「Ωは卑しくて役たたずの出来損ない」だと自分を卑下して、というよりそれが当然だと思って生きているからαである攻めに対して「偽善者」「αからみたら取るに足らない存在」と食ってかかるし気持ちが悪いと拒絶する。Ωは‪αに差別されているしαの攻めも例に漏れないと信じきっているのがすごい。
ここまで受けの視点で書いてるけどこれ作品としては概ね攻め視点なんだよな〜。それがまたいい。
受けと対比するように持っている者、という描写も多いけど前の学校で起こした問題だったり幸せばかりの無知な坊ちゃんって訳でもない。
いわゆる「持っている」からこそ本当の愛を知らなかった攻めと「持っていない」からこそ本当の愛を知らなかった受け、という構図がしっかりと描かれていると思う。
だからこそふたりは惹かれ合う運命だったんだろう。これは良作(繰り返し)。
すごいなと思ったのは受けの食事シーンです。最初攻めに作ってもらったカレーを作る時ちゃんとスプーンを持ってる攻めに対して受けは子どもみたいに握りしめるようにして持ってるんだよね。それが回を増して攻めのごはんを食べるうちにちゃんと持てるようになってる、受けはおそらく家庭でまともに食事を交わす経験をしなかったために基本的なスプーンや箸の使い方をしらなかったのでは?
愛を知らない受けが愛を知り変わっていく過程を食事シーンを通して描いてるのがすごい。
また攻めも最初はりんごを切ることすら覚束無い様子だったのに最終的には親の作ったごはんを食べた受けに「攻めのごはんと同じ味がする」と言われるまで成長してる。うさぎちゃんリンゴも作れるようになって逆に作れない受けを慰めるくらいだしね。
それが世間知らずで与えることしか知らないのに与えることで裏切られる不器用な攻めの成長を感じられてとてもお母さんは微笑ましく思いました。
そしてなんとこの作品続編の制作が決定しているそうで!!!!!なんてこと!!!発売次第即刻購入レビューしたいと思います。

③ミステリアス(?)な無愛想書店員店主×店主推しの素朴な下宿大学院生

・あらすじ
大学院生の小宮くんは下宿先の独身アラフォー店主の陽蔵さんに淡い恋心を抱いていた。そんなある日店番をしていると陽蔵さんのもとへ不思議なお客さんたちがやってきて……。「やってしもた」という陽蔵さんはなんと小さなこどもになってしまっていた。

・感想
これ敢えて受け攻め表記をしなかったけど多分リバだと思う。そうであって欲しい。
なんとなく察してくれたかもしれないけどエッチシーンはないのでエッチシーンを読みたい人はごめんなさい。キスと事後シーンはあります。
子ども化する訳ありアラフォー書店員なんて可愛いに決まってるけどかわいい。改めて可愛い。しかも無愛想、って書いてあるけどめちゃくちゃ鈍くてぼんやりしてるドジっ子?属性の方が強いのがいい。可愛い。朴念仁とはまた違う気がするんだよなぁ。無愛想じゃなくてにぶちんの方が近い。
というのも、っていうちゃんとした設定もあるしね。
おっきい陽蔵さんにてれてれしちゃう小宮くんも可愛いけど子どもになると過保護になる小宮くんも可愛い。陽蔵さんは現代日本を生きる人間の知識が乏しいから加えて子ども姿で無造作に歩かせる訳にはいかないよね。
シキさまと陽蔵さんの取り合いをしている小宮くんもさることながら「お前の抱き心地も中々……」ってシキ様に抱きしめられてる小宮くんを見てモヤモヤしちゃう陽蔵さんもたまらないポイント還元。
陽蔵さんの正体がわかって「(好きだから付き合って欲しいという気持ちには)応えられないかもしれない」という言葉が自分を拒絶する言葉じゃないと知り安心する一方で、「じゃあ自分が陽蔵さんのそばにいられるのはあとどのくらい?」って異種間ものだったら切り離せない大きな壁にぶつかる小宮くん。
なんて設定だけは割と重めだけど絵柄も相まってそこまでシリアスな空気はない。
どちらかと言えば蟲師とかみたいなまあなるようにしかならない、というスタンス?の陽蔵さんがいるからかもしれないけど。「あ、割とやばいかも〜」くらいのテンションで進んでいく。
うーん、自分のクソザコなめくじな語彙力だとうまく伝えられない、けど急転直下ジェットコースターみたいな情緒不安定なストーリーが苦手だったら逆におすすめです。起承転結しっかりしてるけどドキドキハラハラは省エネモード。
陽蔵さんが(そもそも全然違うわけだけど)アラフォーっていう落ち着いた年齢だったのが大きい気がする。落ち着いた大人の余裕的なね。
あと細かいんだけど陽蔵さんが小宮くんに御菓子を進められたシーンで「よばれてから行くわ」ってセリフをずっとよく分かってなかったんだけどあれ方言なんだね。「よばれる」で「食べる」みたいな意味らしい。

④センセイとならタイマン張りたいゆるふわ現役ヤンキー×生徒と喧嘩出来るわけないだろ元伝説のヤンキー教師

・あらすじ
校内トップに立つも番長職には興味のない喧嘩好きなのんびりヤンキーの攻めは現役の高校三年生。新任の古典教師がかつてこの高校に君臨していた伝説のトップだと知りタイマンを挑むが当然のごとく断られてしまう。あの手この手で戦いを挑む攻めにほとほと困りつつ母校の伝統のせいで喧嘩三昧な攻めを放っておけない受けだったがあることをきっかけにふたりの関係は意外な方向へシフトしていく。ゆるふわ×天然なのにどっちも最強なゆるかわハッピーBLらしい。

・感想
良い!!!!!ヤンキー物久々に読んだけどこれは良作!!!!!ヤンキー×元ヤンキー、ゆるふわ×天然、キャラが被りそうで被らない個性の強さも素晴らしい。
そんでそれ生徒×教師なんやね。まーた年下×年上です。好きだなぁ。これはダメな年上パターンじゃなくて年上がリードするタイプです。それでいて若くて勢いのあるメンタルつよつよな年下が大人ぶって離れようとする年上の手を離さないでいてくれるタイプです。なにそれありがとうございます。
あと当然のようにえっちは卒業までおあずけする倫理観あるタイプなのでえっちはエピローグの1話だけです。
攻めが純粋でピュアで真っ直ぐで病みすぎずポジティブ過ぎずちゃんとトライアンドエラーを知ってる陽の攻めだったがとっっっても可愛い!!
受けが絆されるのめちゃくちゃにわかる気がする。というか分からせられます。きゃー。
というかどちらかと言えば顔も性格も立場も攻めの方が受けであることの方が多そうだし言っちゃ悪いけど需要もありそうな気がしないでもないから作者の心意気を見た気がする......!!
ちなみに小生このカップリングどストライクです( ˇωˇ )
ゆるふわ攻めというかゆるふわワンコ攻めで攻めの表情がころころ変わるのが見ていて楽しくなってにこにこしちゃう。
全然興味なかったのに先生のヤンキー時代を見て目を輝かせちゃうシーンとか先生から一発受けて感動して笑い転げるシーンとか、はたまた振られて授業中気まずそうだったり落ち込んで友達の前で泣いてみたり、ヤンキーである以前に喜怒哀楽がはっきりしてて感情豊かで若さだけじゃない攻めにしかない魅力があった。後半で受けが「正直かわいいとは思ってきてる」って言うだけあって読者もついつい攻めの可愛さに魅了されてしまうはず。
というか彼は年上に好かれるタイプの人間だよ知ってる!!!
受けの話もしないといけないのですが受けの話をする前に一つ言い残したいことがございます。
三白眼黒髪は正義!!!!!世界の真理!!!!!至高!!!!!!まさに愉悦の極み!!!!!
いや、厳密に言うとこの作品の受けは三白眼ではないと思うんだけど、個人的にはここらへんももう性癖の三白眼が顔をのぞかせてるから。
受けはちゃんとした大人です。大人の男です。何度も言いますちゃんとした男の男です。
元伝説のヤンキーで天然という要素を備えつつ、ちゃんと倫理観と常識を持った光の大人です。

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