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2023/9/17 キミに贈る朗読会 短編集「フェアウェル・シーベッド」

キミに贈る朗読会 短編集「フェアウェル・シーベッド」を初日の1部を観覧しました。
脚本演出の淡乃晶さんはイルミラージュ・ソーダから存じており、その方の物語を朗読劇で浴びることができると知って観覧したのが主な理由です。

「フェアウェル・シーベッド」では3つの物語の短編集という形で進行しました。farewellの名にふさわしくどれも「別れ」を基幹に大人の百合が描かれておりました。
正直これの前日に「アリスとテレスのまぼろし工場」を観ていたり観覧の後に飲み会があったことなどで正確性が担保できない…が印象深かったことなどについては書き記しておきたい。
ネタバレ。


……初めから重すぎる。妹の沙月はどこかあっけからんとした言葉遣いで姉の彼女に接近する。沙月の言葉の明るさに含まれる不安定さで一気に世界観へ引き込まれました。彼女に含まれる狂気に目が離せなかったように思うし、それは中野さんの演技はもちろん、音の力もかなり大きかった。
終盤、姉の人間性に触れた途端、会場に凍るような音が響きました。心象が音になって現れていて自分の呼吸すらノイズで邪魔だったと覚えています。その溶け込むような一体感は音声作品を聴いている時にも近くて、しかしそれ以上に朗読というフォーマットだから成立する照明や演者の息遣いがあったから冷たさがより伝わってきました。
あと、これはもう俺の話だけど深月の人間性にどこか共感しているような自分がいて嫌だった。残りの2つのお話も人間として未熟な部分に触れられているが、そういう未熟な醜さにかかる部分が自分にのしかかってきていたのがどこか海底のようだったのかもしれません。


朗読劇って基本的に真っすぐお客さんへ向けてマイクが立っている印象だったのだけど、演者同士が目を合わさないように斜めになっていて、それに気づいたのはこのラスト・ダンス・グレイスの時でした。

↓こっちに客。

雑図すぎる

夜に猫は皆灰色になるということわざが印象的で「目が見えない状況では正しい判断が難しい」という言葉らしいのだけど、これを「恋は盲目」と掛けてユキノがついぞミレイの本当の色に気づくことができず進んでいた悲哀さは苦しかったです。
これは一緒に行ったオタクの発言ですが、繁華街で出会い恋に溺れていく空気感は朗読劇の会場だった渋谷ともマッチのある話でした土曜のにぎわっていた渋谷からフェアウェルへシフトしたのは、観客をただ向かい入れるわけでなく、すぐ隣にあるような感覚にされて微かに実在性が感じられた。怖かった。

ここに来てハッピーエンド。いや、美作は夫との別れを踏まえているので純粋な幸せとは言えないかもしれませんか。
流されるように進路、結婚まで進んだ彼女が今度は物語を動かす側の人物として描かれる。美作さんの無邪気さ、魔性さにはたぶん劇を通して一番惹かれてしまいました。
ここまで書いてみて、別れを経験した彼女らが出会い、手を取り合うという形でこの朗読会が締めくくられたのはかなり前向きな気持ちになれて良かったです。
台本を1ページまるまる抜かしてしまったというハプニングもありつつ、緊張感のある空間のまま最後まで駆け抜けてくださったのはプロの意地のようなものも感じられました。

総括。
なにより音が世界観へ踏み込んでくる感触が他の朗読劇と一線違う部分だったと思います。いや、普段からあまり朗読一本のイベントに足を運んだことがなく、触れるのは原作ありきや声優さんのラジオ番組に付属するタイプだったりするものが多いので言い切れはしないのですが。
しかし、真っ白な衣装をまとった声優さんと彼女らの声がキャラクターと混じり合って、キャラの姿や印象が造られていく過程はかなり独特な体験でした。今回の朗読形式だからこそ生まれた体験だったし、とても居心地が悪くて楽しいものでした。
1時間の観劇とは思えないほど神経をすり減らしてひどく疲れたので、その後の声優さんのアフタートークのおかげでゆっくり現実に戻れたのはありがたかったです。しかし、じゃんけん大会に参加する元気が残ってなかったのは少しだけ後悔していますが……。
後悔といえば、別日も観覧した人から聞くに回ごとにかなり印象が変わったらしく、複数の回があり演者も入れ替わるこういった朗読ものは複数観てこそだなというのは少し心残りかも。

感想としてはいったんこんな感じでしょうか。
ツイキャスで定点録画のアーカイブが購入が可能らしいです。
まったくネタバレを考慮せずに書き残してたのでいきなりの宣伝でスタンスがぶれぶれですが、しかしまあここまで読んでくれた稀有な人は覗いてみてもいいかもしれません。
文字で完璧に言い表すことができないような体験だったので、恋や百合や声優さんが好きな人には触れてみてほしいです。
以上。


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