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文学フリマ東京38【旅行】

5月19日

 

 朝は6時に目覚ましをかけていた。普段昼頃起きている自分にとっては恐ろしい程の早起き。絶対に低血糖で具合悪くなるだろうなと前日から不安だったしもう既に前日から不安と緊張と不慣れな早寝で寝ている間目が回っていた。
 5時前に一度猫に起こされた。私の頬にお尻の穴をくっつけてきていた。
 お尻をくっつけるのは猫なりの愛情表現だと聞くが、早朝にやることではないだろう寝ている飼い主相手に愛情表現するな。
 私明日の夜はいないからね、と昨晩猫に何度も言い聞かせたけれどまじで話聞いていなかったし、早朝に起こしてくるし、本当分からずや過ぎる。元旦那も話通じないし日本語通じないしで意思の疎通が図れず苦労したが、猫もたいがいヤバい。

 ゼリー飲料を飲んで、身支度を始める。
 着替え、メイク、ヘアセット。それが終わると化粧道具やアイロン等をリュックに詰める。もうキャリーは開かないと決めていたので必要なものは全部リュック。昨晩から充電しておいていたカメラとかバッテリーとかイヤホンもリュック。ネイルは会場に着いてからやろうと思ってそれもリュックに詰めた。
 母がアパートの下まで迎えに来てくれたので、それで名古屋駅まで送ってもらった。

 新幹線の隣りの席は同年代くらいのお姉さんだった。私が座ると気付くとすぐに荷物を引いてくれて、会釈をお互いしながら私が奥の席に座った。着席してからしばらくガサゴソしてしまうタイプなのでご迷惑かけてないかと思いふと横を見ると、もうイヤホンをして船をこぎ始めていた。めちゃくちゃ助かる。
 珍しく、行きの新幹線で一切酔わなかった。
 普段は酔い止めをどんどん追加して胃薬も吐き気止めも何でも飲んで自律神経を整える系のBGMを聴いていてもなおなのだけれど、今回は追加で酔い止めを飲むこともミンティアを食べることもなく、音楽も筋肉少女帯を聴きながらぼんやりとしていられた。
 隣りの席のお姉さんに安心したのかもしれない。
 むしろ普段は緊張で酔っていたのかもしれない。
 穏やかな気持ちで品川までの90分間を過ごしていた。

浜松町から

 品川から浜松町へと出て、浜松町からモノレールに乗る際、ホームで海猫沢めろんを見かけた。うわ、と思った。実際当日になったらどれが誰だか分からないだろうななんて思っていたものだけれど、一目で分かった。ヒュッてなった。ホームでデパスを複数錠流し込んでちょっとクラッとしながら次の電車に乗った。
 11時には着きます!と設営のお手伝いを頼んでいたフォロワーさんにお伝えしてあったのに一本逃してしまったため、11時の次の便で到着します!と連絡をし直した。
 流通センターで降りて重い荷物を持ったまま階段をくだり、ちょっとした眩暈を抱えながらポスター前へ行くとフォロワーさんと合流ができた。年末に一度お会いしていたからいつもよりは久しぶりじゃなかった。
 同人始めたての頃はうろ覚えだったけれど今やパッとお顔が分かるようになった、そう思うと結構長いですね……。

 設営を頼んだ、というのも今回の文フリは半ブースになってしまったため、いつものようにすべての作品を机にぶわーっと並べることができない。ひな壇を設営してそこに並べていかねばなのだけれど、私はIQレベルの問題で立体工作がまったくできない。山折り谷折りで躓くレベルの人間だ。よく折り本作れたな。アレもハサミ使いこなせてなくてガタガタだったけれど……。
 それで、そのひな壇の作り方分からないから……とお願いした次第で。
 会場着いたらネイルしたいなと思っていたのでまず爪の汚れ取らなきゃと思ってお手洗いに行って手を洗って、あと開会前にフォロワーさんの新作買っておこ~と思ってフォロワーさんのお席に立ち寄ってご挨拶して新刊を購入してから席へ戻り、ネイルチップをひたすら両面テープで爪に張り付けていく作業に入ったのだけれど、鬼の不器用はそんなことすらできない。
 フォロワーさんがサクサクと組み立てを済ませてくださっている正面であたふたと付け爪に苦戦していた。
 そもそも人に設営を頼んでおいて目の前でネイル始めるのがゆとり過ぎるなという自覚はありつつも計画的にアレコレすることができずになんかもう。あとお手洗い行ってきますねと言った後に勝手に買い物に回っていたのも後々考えると普通にゆとり過ぎる。


爪爪爪

文フリ

 当日は指差し注文をお願いし、自身はヘッドホンで耳を塞いでおくことにした。同人誌即売会でなくてもフリマなどでもそうなのだけれど、「見て見てアレ」と目の前で指をさす客って少なくない。
 うちの親もそうで、「うわ、高っ」とか「なんだあれ」とか出店の人に聞こえるような声量でわざわざ言わんでいいことを言うタイプの人間だ。私はそういう人間が大嫌いで、小学生の頃から聞こえよがしの悪口とかに散々傷付いてきた人間なものだから、何度出店してもやっぱりそういうのには耐えられない。
 気ごころ知れた方がブースに来てくれた時はヘッドホンを外して話すのだけれど、そういう時も通りすがりの人たちが「うわ、やば」「メンヘラじゃん」とか言うのが聞こえてくるのが耐えられないものだから、できるだけ長話やめてほしいな、早く耳塞ぎたいんだけどな、と思ってしまう。

 最初に来てくださった方が、指差し注文の後に「頑張ってください」と言葉を添えてくださったのが物凄く嬉しかった。
 その後もちらほらとお立ち寄りくださった方々がメニュー表を読んで注文してくださる。聞こえないことや話さなくていいことはこんなにも気が楽なのかと思った。
 注文を受けてからヘッドホンを取ってやり取りをしていた。
 一度寄ってくださってすごく配慮してくださったお姉さんの名札をチラッと見たら、見覚えのある名前だった。多分、私何冊か本持ってるなと思った。今回は話さないというスタンスだし本持ってますと言われても困るかもしれないなと思って言わなかったのだけれど、言えばよかった。
 ひそかに憧れていた作家さんもいらしてくださった。いつも通販だとか代行で購入していたものだから、ご本人とお会いするのは初めてで、こんなにも綺麗な人だったのかと感動するとともに人工物な自信が恥ずかしくも思えた。

 3人ほど並んでいた時はどうしよう、後ろの方々が帰ってしまったら、とアワアワしたし、やっぱり長話をしている間にいなくなってしまって戻ってこないお客さんも数名いらっしゃったから、本当に長話毎回やめてほしいって毎回思っている、本当に……。頑張って書いたんだからひとりでも多くの人に買ってほしい。

 慰めや励ましの言葉を直接いただけたのも嬉しかった。ヘッドホン代をくださったフォロワーさんもありがとうございました本当、助かりました。急な出費で来月の支払いどうしようと怯えていたのは勿論、やっぱり本件でかなり傷付いていたので気持ちが救われました。

 年に2回の生存確認の場であるので、皆さんに生きててくれてよかったですだとか、直前ヒヤヒヤしましただとか、そういったお言葉をいただきながら途中で完売が2作あった。もっと多く刷らなくちゃと思う作品が3作。
 『ふわふわたっとんお迎えレポ』
 『霊感ではなくビョーキです』
 『ガールズエンド』
 新刊は多めに刷ってあったので持ち堪えたけれど、いつも通りの発注数だったら売り切れてしまったと思う。

 次回は夏に大阪なので今回ご縁があった方も、今回はご縁がなかった方も、そちらでお会いできたら幸いです。

 イベントが終わるとまたフォロワーさんに撤収を手伝っていただけたおかげでモノレールにスムーズに乗れた。
 浜松町のホテルにチェックインを済ませ荷物をある程度置いてからまた駅へと向かった。
 

歌舞伎町

 新宿へと向かった。
 浜松町から11駅。乗り換えはない。乗り換えないの助かるなあ。しかも浜松町からなら座れるし。
 
 学生時代東京で暮らしていたけれど、新宿は飲み会以外で立ち寄ったことがない。ダンジョンとお聞きするし。
 飲み会の店はゴールデン街か歌舞伎町の入り口のところにある中華料理店のどちらかだった。ちょっと早く着き過ぎた時に歌舞伎町回ろうよと先輩が言って男女複数人で立ち寄ったのだけれど、いたるところに警察がいたし、排水溝こじ開けてその中に同僚の頭を突っ込んでいるホストとかそういうの見かけて怖すぎて、あっこからトラウマで立ち寄っていなかった。
 ああでも数年前の文フリの時に春子さんとバリアン泊まったな。いやそのあとも何回か歌舞伎のバリアン泊ってる。そんで翌朝外に一歩出た瞬間に路上で寝てる人の頭蹴り上げちゃったのも心の傷になっていますね。

 人種が雑多であるということが近寄らない理由の一つであると同時に、私は自分より可愛い子や美人を見て惨めな気持ちになりたくない。帰りの電車の中でカウセ予約したりしたくない。
 容姿に囚われる年齢からはもう少しで離脱する。もう少し他のことで幸福度を測るステージが始まる訳なのだけれど、容姿以外のところも全部クソ雑魚なものだからどのみち勝てる気がしない。結局私が容姿を整えないのはいつでも逃げ道にできるからなのだと思う。容姿の醜さを負け続ける言い訳に使っていたい。

 そういう卑屈な人間なものだから、ホストかメンコンを利用したことがずっとなかった。
 自身だって秋葉のコンカフェや渋谷のガルバで勤務していた経験があるのだけれど、如何せんコミュ障なため仕事終わりに私だけホストにもメンコンにも誘われることなく直帰していた。
 
 そして名古屋に戻ってみると名古屋の錦や女子大エリアは男子大学生のバイト先であった。圧倒的に歳上好きな自分にとって大学生の男の子たちと飲むというのは苦行にもほどがある。あと、学生時代ろくに異性と関わってこなかったせいでそれも劣等感として植え付けられているし、そもそも自身がコミュ障であるということを再認識させられたくない。青春コンプをそんなところで突っつかれたくはない。
 メンコン興味ない?と名古屋に戻ってから友達に言われた際、「若い子が隣り座って一生TikTok見せてきてこれめちゃくちゃウケません?!?!とか言ってきたら嫌だな」と思った。そんなことないしお酒飲めなくてもおしゃべり苦手でも大丈夫だよ!と腕を引かれて行ってみたのだけれど、本当にビックリするほど学生さんの巣窟でもう既に居心地が悪く、しかも本当に若い子が隣りに座ってガソリンスタンド行って帰るまでの自分の行動を小刻みに解説してくれた。
 「ガソスタ行きたかったのに道間違えて赤信号引っかかったし右折だったし迷ってる間にトイレ行きたくなってきて、やっと着いたと思ったら前の車が時間かかってて先トイレ行ったら洗面台がセンサー式じゃなくて蛇口で、それでガソリン入れてもらったら何Lでいくらで、いや~焦ったわ~」
 みたいな話をされた。
 なんだこの時間と思った。
 私が好きに話してみろと言われたってこんな流ちょうに堂々と話せないものだからその点物凄くコミュ力が高いのだなとある程度尊敬と感服をしたし、顔格好良くて堂々としていたらこんなペラい話してても喜ばれるっていうんだからやはりガワは大事なのだなと痛感した。
 それが名古屋での思い出である。

メンコン

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