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【3/19】東京【3/20】


グリーン車

 東京へ行く時、グリーン車を使うようになった。
 パニック以前の問題で、乗り物に弱い。
 子どもの頃はかなり強い方で飛行機も船も山道も平気だったのだけれど、年々ダメになっていった。痩せているからでは、と言われる。それもあると思う。あと、視覚的な問題が多い。流れるスピードの速さに脳が追い付かない。
 それでいて具合が悪くなったらどうしようのプレッシャーがあるものだから長時間の移動は苦手で、東京駅まで乗りたくないという理由で大体品川で降りる。
 グリーン車を使い始めたのは昨年末からなのだけれど、快適かと言うとそうでもなくて、フットレストがある分足を伸ばし辛かったり、体を包み込むような背もたれは肩が凝る。あとふかふかの枕部分は振動が強めに伝わってくるので頭を預けたくない。あと乗務員室があるため乗務員さん達の往来が激しく落ち着かない。
 それでもグリーン車に乗るのは変なのに絡まれないという安心感と、多少の広さ、車内の匂いが強くない、というわずかな理由しかない。

 センパアpro、正露丸、ストッパ、太田胃散、キャベジン、トラベルミン、五苓散、仁丹、イブAを前もって薬局で買った。
 処方されている薬も一通り鞄に詰め込んで出た。
 前日早めに寝てしまったから新幹線の中ではうとうとできなくて、その分過緊張で具合が悪くて、薬をどんどんと追加していた。
 名古屋から品川までは1時間半ほどで着く。
 そこから浜松町まで行って、モノレールで天王洲アイルまで出た。

ゴッホアライブ

 ゴッホアライブを名古屋の時に見逃していた。
 当時付き合っていた彼氏とは金山待ち合わせが多く、いつも向こうが遅刻してくるので高い屋内から金山駅を見下ろしていたのだけれど、ゴッホアライブの大きな広告が見えていて、アレ行きたいなといつも思っていた。
 彼氏も恐らくそういったものが好きな人のはずだったのだけれど、開催期間私がずっとそれを気にしていることには気づいてくれず、いつも計画を練ってきてデートコースを全部決めてくれている彼に対して「私はこれに行きたい」と言い出すことができず、言ってもいいのだろうけれど言ったら今後デートコースを一緒に練る義務と権利が与えられてしまうと思った。
 こう言っている時点で交際にまったく乗り気じゃなかったのだろうと自分でも思う。
 結局、別れた時にはゴッホアライブは名古屋から撤退してしまっていた。

 東京に行くことになり、ついでに何か寄れるところあるかなと催し物を探していたら、丁度ゴッホアライブが東京に来ていると知り、同行してくれる方をSNSで探したらフォロワーさんが声をかけてくれた。
 天王洲アイルで落ち合って寺田倉庫へと向かった。
 恐らく友人の車では何度か通った地区だと思う。品川駅まで送ってもらった時とかあの周辺で遊ぶ時に迎えに来てもらったりだとかした気がする。休日の一日前だからか元から落ち着いた街なのか知らないけれど、高層ビルの多い静かな都会だった。
 

 入口が2階で、大きなフロントではなく外付けの階段を上った。
 上に上がるとまず星月夜の大きなパネルがあって、長めに作られたレーンを通ってチケットを見せると中へ通してもらえる。
 中に入ってすぐにエレベーターを待って、デパートのエレベーターよりも遥かに広いやつに10人ずつくらいに分けられて詰められて上階へ移動する。
 エレベーターを待っている間のあの緊張、子どもの頃のアトラクションとか遠足とか色んな時に経験した気がする。エレベーターが来ると目の前のロープが外されて前に進ませてもらえるあの感じ。
 上に着くと下へ行く人たちがまた何人かまとめて待っていた。
 
 最初はパネルでゴッホについての説明があって、どういった時期にどういったものを書いたか彼のアップダウンとその際の絵の特徴が記されていた。
 あまり美術館の説明を読まないのだけれど、分かり易かったし面白かったしでざっと目を通した。
 別にゴッホの絵が来ている訳ではないのでそこまでじっくりと見る展示があるわけではなく、暗幕のカーテンを潜って売りである映像コーナーへと移動すると、丁度上映が終わったところだった。
 一からまた観始める。
 鏡とスクリーンがあっちこっちにあって、同じ映像を流しているスクリーンもあれば複数枚に分けて大きな映像を流しているところもあるし、床にも映像が映るし。何処を観ようと思いながら、混み合ってないところに時々移動しながら映像を観ていく。
 場内には椅子があって、明らかに退屈した子どもたちがそこに座ってぼんやりとしていた。

 こういう映像が動いているのがすごく綺麗で、一見の価値があると思った。田園風景や夜景がアップにされて絵のタッチが細やかに見える。そしてその絵が少しずつ動いたり大きくなったり次の絵へと変わっていく時の演出などもあって、音まで付けられていた。世界観だなあと思っていたら、終わり掛けのゴッホの自画像が出てきた。
 お、と思ってカメラを向けたらまた違う自画像に切り替わった。
 耳を切り落とした時の自画像に変わったと思ったらまた次の絵へと変わった。
 終盤、怒涛の自画像ラッシュであった。アップになって複数の画面にゴッホの自画像が映し出されるあの時間、ちょっと謎だった。なんでこれでGOサイン出たんだ。
 
 奥に進むと、「この先ひまわり畑のコーナーになっております」と係員の人たちがアナウンスしていたものだから、コレのひまわり版を想定して進むと、全面鏡張りの小さめのブースに、造花のひまわりがびっしりと敷き詰められたフォトスポットが作られていた。
 別にゴッホのひまわりと色合いが似ている訳でもなければ雰囲気を寄せている訳でもない。全盛期AKBとかV系のMVで観るような花の詰め方で、鏡を使って奥行きまで出していて謎の迫力がある。
 マッチングアプリの一枚目になりそうな写真を撮っている男性もいた。
 そこを抜けると、お土産ブースになっていた。
 あれが最後だったことが面白過ぎた。
 ゴッホのひまわりですと言われなければ「え~すごーい」と写真をパシャパシャ撮ったかもしれないのだけれど、ゴッホアライブのラストにアレが来るの面白過ぎる。なんでこれでGOサインが出たんだ。
 余韻、世界観ぶち壊しの素敵企画だった。
 映画館は終わってから出口に向かうまでの間に大体鏡があるらしい。現実に戻るためのものだと聞いたことがあるのだけれど、まさにそれじゃないかと思った。

 驚異の回転率を発揮していたので1時間半くらい滞在を予定していたのが全然サクサクと終わってしまった。
 フォロワーさんと一緒に下北沢へと移動することにした。

下北沢

 天王洲アイルからモノレール浜松町へ出て、浜松町から渋谷へ、渋谷から下北沢へと乗り換える。
 どの電車も平日昼間だけれどそれなりに混んでいた。特に浜松町から渋谷の山手線がおしくらまんじゅう状態だった。渋谷から下北沢は一駅だけだったけれど、それもかなり混んでいた。
 
 下北沢へと降りるとぼっちざろっくの大きな広告が出ていた。
 そういえば昨年にぼざらの聖地巡礼、友達に付き合ってもらったな。
 前に来た時も驚いたけれど駅前がすっかり綺麗になってしまっていた。

 オシャレなカフェや古着屋さんがあっちこっちにあって、ついうっかりTシャツを買ってしまいそうなのであまり気に留めないように心がけたけれどグレムリンのぬいぐるみ何種類か置いてあったお店、アレ多分そう状態ならぬいぐるみ全種類買ったと思う。落ち着いている時期で助かった。
 一本入るだけで下北沢も静かな町で、まだライブまでだいぶ時間があるからシーシャ屋さんを探したら路地裏を抜けた先に小さな半地下のお店があった。そこでライブまで時間を潰すことにして、フォロワーさんにもお付き合いいただいた。
 


 シーシャは今年2回目だ。
 昨年、働いていなかった頃はすごい頻度で通うほどドはまりしていたのだけれど、アレはシーシャ友達が数名いたからであり、その全員ともう疎遠になっているため通わなくなった。コミュニケーションツールとして私はシーシャが好きだったんだなと思った。
 自分で買おうと思っていたのがとん挫したっていうのもあるし。
 
 普段ゴテゴテと注文してべた甘だけど後味香る!みたいなものを作ってもらうことが多いのだけれど、初めてのお店でカスタムはあまりしない。シンプルにミントアップルをいただいた。
 店員さんの飼っている子なのか、猫ちゃんがいた。足元を歩いて人の足にごっつんと頭突きをしたりしていて可愛かった。アパートに置いてきた猫のことを思うと胸がきゅっとなってしまったので、父親にちゃんと餌やりをしてほしいともう一度念を押す連絡を入れておいた。

ライブ

 19時半から開演なのを間違えて19時から始まると思っていたため18時45分にシーシャ屋を私だけ抜けてライブハウスへ向かった。大学時代何度も行ったことがある場所なのだけれどいつもと違う方向から向かったから分からなかった。あと、ファーストキッチンがウェンディーズになっていたのでそれもあって一瞬通り過ぎてしまった。
 

 19時ちょっと前に中へ入るとお客さんは10人もいなくって、19時にようやく10人となった。ここでおかしいなと気付いてもう一度チケットを確認し、開演時間を間違えたことに気が付いた。
 この箱は昔好きだったバンドがいつもここで演奏していたから通ったのだけれど、店員さんが怖いという理由で泣きながら帰ることがとても多かった。具合が悪くなったらと思うと後ろの方にいたかったのと、出入り口付近やお手洗い付近にいたかったのだけれど、もっと前に詰めて、という注意がどんどん強くなっていく感じが耐え難く、前に詰めればいいだけの話なのだけれど圧し潰される感じが身体的にもしんどかったのだ。それでいて店員さんの強い口調や舌打ちやため息に誇張抜きで何度も泣いていた。
 ここ数年、行きたいライブがあってもこの箱と決まると諦めていた。
 学生時代に通っていたバンドも下北沢でやるにしても他の箱に変わったし、やがて「座って観れるライブ」に移行していったから余計、この箱に私も寄り付かなくなった。

 でも、最後の方の活動休止前ライブとかツーデイズワンマンで圧し潰されかけていた記憶が色濃かったけれど、30分前に着いた箱は記憶よりもずっと広々と開放的で、全然息が吸えた。真ん中の方にテーブルが二つもあって、それに体を預けている女の子達もいた。
 前に詰めてとか言われる必要もないくらい、みんなが思い思いの場所をとって開演を待っていた。

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