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「不健全図書」の名称変更に関するパブコメの、個人的メモ

先日、不健全図書の名称変更に関するパブコメが募集されていました。
パブコメの経験は殆ど無いため、考えを整理するためにnoteで纏めることにしました。私の考えが絶対的に正しいとは思っていないので「こういう考え方の人もいるんだな」程度に受け止めて頂けますと幸いです。
※2024/4/12 賛同する理由を追記 + 第三者に読まれることを意識した文体ではなかったので全体的に修正
※2024/4/13 優良図書類に関するご指摘を受けたので該当箇所を修正

陳情の趣旨まとめ

趣旨は上記サイト内に詳しく記載されていますが要約すると、

不健全図書指定により必要以上に弊害が出ている
 ・書店での取り扱いが激減する
 ・大手通販サイトで取り扱われなくなる
 ・よって、出版社や著者が少なくない経済的損失を被る
 ・不健全図書指定された作品と著者が社会的スティグマを負う
 ・表現活動の萎縮

陳情に踏み切った理由について
 ・上記弊害を少しでも軽減したい
 ・過去の東京都議会文教委員会にて名称変更の陳情が否決されたことがあるが、名称変更の取り組み自体は全体的に賛同を得ていた
 ・保護者団体からも、制度の維持を前提に名称変更そのものには理解を示されている

今回の陳情に賛同するのか

結論から申し上げると、私は今回の陳情の趣旨に賛同です。なのでパブコメには、賛同する理由を盛り込もうと思っています。
正直、不健全図書指定制度は時代に取り残されすっかり形骸化しており、存続させる意義もあまり感じられません。その割に与える影響力が大きすぎるので、制度自体無くなればいいのにとすら思っています。ただ60年続く制度をいきなり廃止することはほぼ不可能なので、少しでも事態が好転することを願い、陳情には賛同するつもりです。

今回の陳情に最も期待しているのが、不健全図書指定された作品と著者が負う社会的スティグマの軽減です。名称変更に賛同するということは現在の名称に不満を抱いていることと同義なので、「不健全図書」という名称の何が問題なのか、自分なりに考えを纏めてみようと思います。

①条例上の「不健全」と、一般人が抱く「不健全」のイメージにズレがある

特にエビデンスがあるわけではないのですが、殆どの日本人は不健全図書制度についてあまり詳しくない印象を持っています。東京都青少年健全育成条例や審議会の議事録を1度も読んだことが無い人が思い浮かべる「不健全」と、実際に条例上で定義されている「不健全」にはそこそこのズレがあるのではないでしょうか。
「不健全」という言葉は曖昧な割に馴染み深いので、「不健全図書」に詳しくない一般人でも何となく概要を理解した気になれてしまいます。「不健全図書」という単語を聞いて、定義をわざわざ調べようとする人はあまりいないのではないでしょう(多分)。何となく「子供が見るにはまだ早い本」ぐらいのイメージを持つ人が多そうですが、「不健全図書」の定義や指定の趣旨が広く周知されていない現状はあまり好ましくありません。
不健全図書を「ちょっとえっちな本」ぐらいに捉えている方もいらっしゃるかもしれませんが、公権力から「青少年の健全な育成に悪影響を与えうる」と言われているわけですから、実際はほぼ社会の敵扱いです。

②「不健全」という文字列が必要以上に悪印象を与えている

特定の商業施設において、不健全図書指定を受けたことがある作家はサイン会が開けなくなるといった話を聞いたことがあります。これは明らかに「不健全図書」という名称に端を発した、過剰な自主規制です。
条例の定義や運用が変わらない限りこういった過剰な自主規制派解消されないのかもしれませんが、よりニュートラルな名称になれば解消に向けて一歩前進となるかもしれません。

③そもそも「不健全」である根拠が無い

そもそもの話、「不健全図書」は東京都が勝手に「青少年にとっては不健全かもね」と言っているだけです。事務局の担当者や審議会の審議委員による主観(お気持ち)でそういうレッテルが貼られているだけであり、具体的にその判断を裏付ける検証が行われているわけでもなければ、不健全図書指定が実際にどれだけ都内の青少年の健全育成に寄与したかが調査されたことすらありません。
「青少年の健全育成を阻害する恐れがあるもの」とお茶を濁しているものを、「不健全図書」と断言するの如何なものでしょうか。「不健全かもしれないから区分陳列対象ということで、要区分陳列図書と呼称する」と言う風に、ニュートラルな名称の方がよりフェアだと思います。

条例改正案の整理

内容を簡単に纏めると下記通り。
 ①東京都青少年健全育成条例内の「不健全な」の文言を削る
 ②同条例内の「不健全指定」を「図書類の指定」に改める
 ③理由:条例の趣旨に沿って、条例中の「不健全」の文言を適切に改めたい

次に、上記①②による条文改正が実際に行われた後の条文について見て行きます。

①「不健全な」の文言の削除

実際に「不健全な」が削られる個所は下記の通り

<改正前(現行)>
・第三章 不健全な図書類等の販売等の規制(第七条―第十八条の二)
・第三章 不健全な図書類等の販売等の規制
・(不健全な図書類等の指定)
  ↓↓↓
<改正後>
・第三章 図書類等の販売等の規制(第七条―第十八条の二)
・第三章 図書類等の販売等の規制
・(図書類等の指定)

東京都青少年の健全な育成に関する条例から適宜抜粋

どうやら「不健全な」という文言は、「図書類等」という文言とセットで用いられているようです。試しに条文を「図書類等」で検索してみると、「不健全な図書類等」「優良図書類等」「指定図書類等」のように記載されている個所が殆どでした。
要は条文内では「〇〇+図書類等」といった形で、図書類の対象をある程度限定することが多いようです。これを踏まえた上で個人的な懸念を挙げるとすれば、

  • 不健全な図書類等の販売等の規制」と表記すると、図書類全般への規制と捉えられる危険性がある

  • 「〇〇図書類等」形式で表記される個所が多いので、「不健全な」を削るだけだと他の箇所と比べて書き方のバランスが悪くなる

前者については、既に現行の条例内で「(図書類等の販売等及び興行の自主規制)」という文言があるので、杞憂と言って差し支えないでしょう。

後者については「優良図書類等」と対象を狭めた書き方をしている一方で、対となる不健全図書類を「図書類等」とだけ表記して済ませるのにはやや違和感を覚えます。例えるなら、「たけのこの里 / きのこの山」ではなく、「たけのこの里 / チョコレートスナック菓子」という並記の仕方は変、という意です。
なので、「不健全な図書類等」については、「不健全な」の文言を削除して済ませるのではなく、「不健全な」の代替名称で置き換えるのがベターなのではと感じました。

②「不健全指定」⇒「図書類の指定」の表記変更

表記変更箇所は下記の通り

<改正前(現行)>
・~(以下この条において「不健全指定」という。)~
・~翌日までの間に、不健全指定を六回受けたもの又は~
・~同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、~
  ↓↓↓
<改正後>
・~(以下この条において「図書類の指定」という。)~
・~翌日までの間に、図書類の指定を六回受けたもの又は~
・~同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に図書類の指定を受けた場合は、~

東京都青少年の健全な育成に関する条例から適宜抜粋

ここでいう「不健全指定」とは、直前に条例内で「第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定」であると定義されているので、「図書類の指定」と文言を置き換えてもそこまで不自然ではないように感じます。

↓↓(2024/4/13 加筆修正)↓↓

ただ前項①で指摘した通り、「図書類の指定」という文言に置き換えるだけでは元の「不健全指定」のニュアンスが完全に失われてしまうので、そこはやや気がかりではあります。
一応「優良図書類の指定」という制度もあるので、そちらと混同されるリスクは減らしておくに越したことは無いのかなと(まあ優良図書類が推奨された例は寡聞にして存じ上げないのですが)。

第705回東京都青少年健全育成審議会議事録

上記の「優良図書類の指定」部分についてご指摘を受け改めて条文と議事録を確認したところ、優良図書類は「指定」ではなく「推奨」という形を取っていました。
直前に条例内で定義にも触れられてますし、指定される図書類は厳密には不健全図書類だけなので、「図書類の指定」と表現し直しても問題なさそうです。

③提案理由「条例の趣旨に照らして、条例中にある「不健全」の文言を適切に改める必要がある。」について

特に反対する要素も無いのですが、素人ながらに揚げ足取りをしてみます。

「条例の趣旨に照らして」だと、玉虫色の回答を得意とする事務局側は「不健全という呼称も条例の趣旨に沿っているので、条例改正の必要性は感じい」と返してくるかもしれません。
※提案理由にケチがつくことがあるのか、陳情の採択について事務局側が反対意見を述べる機会があるのかよく分からずに書いています。

「不健全」の文言を適切に改めるという提案理由に沿うのであれば、やはり個人的には、「不健全な」という文言を条文から削除するだけでは不十分ではと感じなくもないです。
今の陳情の改正案でも殆ど問題ないと思いますが、「元・不健全図書類」であることが分かる何かしらの代替名称を置き換える方針の方がしっくりきますね。

おまけ:「不健全図書類」の代替名称について

ここまで「不健全図書類」を何かしらの代替名称で置換するべきと主張してきましたが、今回の陳情内で具体的な代案を出すことには反対である旨も申し添えるつもりです。
代替名称に具体的に言及すると、陳情の趣旨が「不健全図書を〇〇図書という文言に置き換えよう!」に変わってしまい、置換先の名称が不適切と判断されれば陳情そのものに反対されてしまうからです。要は、ツッコミを受ける余地は最小限にしておきたいという意図です。
「現行の名称に反対するのであれば、代替案を提示すべき」とお考えになる方も多いと思いますが、今回陳情を行う方々は制度の改善を訴える権利を持ってはいても、代替名称を考える立場には無いと私は思っています。

雑感みたいなまとめというかメモ

賛同の理由部分はまだまだブラッシュアップできそうですが(自分の「不健全」という用語に振り回されている気がする)、これをベースにパブコメを考えてみます。
私のような賛同派が送るよりも、反対派や杞憂派の方々が意見を送った方がよりブラッシュアップされる気もするので、様々な意見が集まるといいなと思います。陳情通るといいですね。

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