見出し画像

ウポポイの「私たちのしごと」展示の構成~“OK印の短刀”と「現代のしごと」~

2020年の民族共生象徴空間(ウポポイ)の開業以来、小野寺まさる(元北海道道議・チャンネル桜北海道キャスター)が、ウポポイを舞台にアイヌ民族否定をして久しい。

そのターゲットのひとつが、ウポポイ内にある国立アイヌ民族博物館の「私たちのしごと」展示である。

民族共生象徴空間(ウポポイ)の国立アイヌ民族博物館「現代のしごと」コーナー

この投稿では、このコーナーの基本展示における位置付けを確認することで、小野寺がどんな詐術をつかっているのか明らかにしたい。

6つに分かれる基本展示のテーマ

博物館の基本展示室は6つのテーマで分かれており、そのひとつが「私たちのしごと」である。天井から吊るされた円状のパネルにタイトルがある。

「園内マップ」


円状パネルのタイトル。黄色の線で囲ったところに「私たちのしごと」とある。

私たちのしごと

OK印の刻印された「さばさき」

基本展示室の展示番号にしたがって進むと、現代に近づく構成になっている。ネトウヨの大好きなネタであるOK印が刻印された「さばさき」は、「先祖のしごと」のショーケースの最後にある。

「先祖のしごと」のショーケース。OK印の「さばさき」は左端に展示されている。

小野寺がさんざん煽ってきたこの“OK印の短刀”ネタとは、この「さばさき」の刻印が現代のあるメーカーのものであり、こんなものがアイヌ文化として展示されているのはおかしい、ウポポイはアイヌ文化を捏造している、というものだ。

「漁場労働」の説明パネルと関連する物の展示。左がOK印が刻印された「さばさき」

先祖のしごと

まず「先祖のしごと」のパネルに書いてあることを確認しよう。

f.1 先祖のしごとのパネル

先祖のしごと 私たちアイヌは、古くから山猟や海漁、川漁、山菜とりなどを行い、その獲物や収穫物を上手に料理しました。畑で穀物や野菜をつくる地域も多くあったようです。カムイからの授かり物である毛皮やサケなどは自ら利用するだけでなく、周辺の民族との重要な交易品でした。使用する道具には、先祖伝来の知恵が見られます。

先祖のしごとのパネルの説明
漁業労働のパネル

またスケマキリ/エピㇼケㇷ゚/さばさきの説明パネルにはこうある。

漁場労働 場所請負制によって漁場で安価な労働力として、鰊漁や鮭漁、昆布漁などの仕事をさせられました。一方で、自分の網で漁を行うなど、「自分稼」も行われました。1869(明治2)年に場所請負制が廃止され、権利を得て漁を行う人もいましたが、和人の下で使われる状況も続きました。

漁業労働のパネルの説明

OK印の刻印された「さばさき」がどのような来歴なのか説明がないのでこれ以上わからないが*、アイヌが労働形態を変えながらも、古くから漁業に従事してきたことを示す展示意図がうかがえる。

仕事着

展示番号にしたがって進むと次の展示は仕事着である。狩猟、漁ろう、採集、農耕。こうみてゆくと、アイヌ民族が現代に至るまでどんなしごとをし、そのときどんな服装で、どんな道具をつかってきたのかという視点で展示されていることがわかる

狩猟のときの服装
漁ろうのときの服装
採集、農耕のときの服装。手前は現代のしごとの展示

激動の時代のなかで/現代のしごと

「先祖のしごと」の後は、「激動の時代のなかで」そして「現代のしごと」だ。これらコーナーでは、幾人かのアイヌに焦点を当てて紹介している。

f2. 激動の時代のなかで f3. 現代のしごと

「激動の時代」で紹介されるのは、測量技師、漁師、農家、林業従事者。小野寺が「さばさき」と同じくネタにするマサカリは、農業に従事していた方がつかっていた道具である。そして、「現代のしごと」コーナーにつづいてゆき、家具製作、サラリーマン、(コーヒー豆の)フェアトレード、アイヌ料理人(ここで料理人のフライパンが出てくる)、俳優が紹介される。一連の流れをみてゆくと、何一つおかしくない。「私たちのしごと」コーナーは、アイヌ民族のしてきたしごとと、その道具など関連する物をずっと展示しているのだ。先ほど出てきたスケマキリは料理に使用する刀子を意味するそうだから*、料理道具という点でもつながってくる。

小野寺の詐術

しかし小野寺のロジックでは、伝統的だとされるアイヌ文化だけが“本物”であり、現代のアイヌ文化は“偽物”なのだ。そして何が“本物”なのか決めるのは、小野寺を含めた“日本人”であり、アイヌではない。これはアイヌが先住民族として持っている権利、すなわち文化的発展を自由に追求する自己決定権、そして自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利に反している*。

小野寺はさらに、展示の流れ(これは自然に見てゆけばわかるようになっていると思う)を無視し、展示物の説明パネルを写さず、モノだけ切り取って、デタラメな説明を付け加える。

この詐術にかかると、OK印も現代のしごとコーナーの展示物も、すべて偽物にみえてきてしまう。

ここまで長々と、展示の流れを見てきたのは、この小野寺の詐術を解いて、本来の展示の意図を考えることができるようにだ。

先日、小野寺がガイドをしたウポポイツアー*では、参加者が「これがあのOK印ですか〜」と言うと、どっとその場が沸いた。チャンネル桜などで小野寺がやる定番ネタなので、小野寺が解説する前に、参加者たちはすでにこのネタを知っているのだ。

小野寺のネタは一つ一つ取るに足らないもののように思える。しかし小野寺のツアー参加者は「わかりやすい」と感動すらしていた。ネトウヨの腐った頭にはちょうど良いらしい。しかし、取るに足らないもののように思えるからといって、放置するべきではない。全部のネタを通して小野寺がしたいのはアイヌの民族性・先住民族性の否定なのだから。


*博物館は説明を付け加えるべきでは?、ほかの博物館の展覧会では、作成年がわからないにしてもその民具の歴史背景やあるいは子孫の聞き取りによって、展示品の意味がわかりやすくしているものもあった

*先住民族の権利に関する国際連合宣言(2007)

第3条【自己決定権】先住民族は、自己決定の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的および文化的発展を自由に追求する、

第11条【文化的伝統と慣習の権利】

1. 先住民族は、自らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利を有する。これには、考古学的および歴史的な遺跡、加工品、意匠、儀式、技術、視覚芸術および舞台芸術、そして文学のような過去、現在および未来にわたる自らの文化的表現を維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれる。

2. (略)

*『アイヌ文化史辞典』(2022)

*2022年7月23日「小野寺まさると行くウポポイ&勉強会」主催:チャンネル桜北海道

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?