金子やすゆき議員に対する議員辞職を求める決議提案理由(大嶋薫)

平成26年第3回札幌市議会定例会
開催年月日 平成26年9月22日(月)

大嶋薫議員:
 きょう、あすの2日間、国連本部で開催される先住民族世界会議に、アイヌ民族2名が初めて政府代表団の一員として出席するとの報道がありました。アイヌ民族を代表する発言が、アイヌ民族の権利回復の歩みを進める大きな力となることを願い、金子やすゆき議員に対する議員辞職を求める決議案の提出会派であります公明党、日本共産党、市民ネットワーク北海道、改革及び民主党・市民連合所属議員全員並びにみんなの党・木村議員を代表して、以下、提案理由を述べてまいります。
 まず、アイヌ民族が先住民族であることについて、私たちの歴史的な立ち位置を確認したいと思います。
 明治時代の1899年に制定された旧土人保護法がアイヌ民族を旧土人と定め、土地の没収、日本語教育の義務化、漁業、狩猟の禁止など、保護とは名ばかりでの同化政策のもと、土地や仕事を初め、独自の文化や言葉を奪い、差別を助長し、固定化する役割を果たしてきたことは、皆さんご承知のとおりです。不幸なことに、政治の怠慢から、新憲法の時代になっても旧土人保護法は廃止されることなく生き残りました。
 1970年代からのアイヌ民族による権利回復運動の広がりを背景に、1984年、当時の北海道ウタリ協会総会においてアイヌ新法制定に向けた基本案が了承され、1988年7月には、北海道議会において新法制定を求める意見書が全会一致で採択されます。そして、約10年の議論を経て、ようやく、1997年、旧土人保護法を廃止してアイヌ文化振興法が制定されますが、民族や先住性についての記述がなかったため、多くの批判にさらされました。
 さらに10年、国会や有識者会議、国連での議論が積み重ねられて、2007年に先住民族の権利に関する国連宣言に我が国も署名して採択され、2008年には衆参両院においてアイヌ民族を先住民族とすることを求める決議が全会一致で採択されます。決議には、「法的には等しく国民でありながらも差別され、貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、私たちは厳粛に受け止めなければならない。」と記され、先住民族としての権利回復のみならず、アイヌ民族との共生社会を目指す新たな歩みが始まりました。
 このような歴史を踏まえれば、「アイヌ民族なんてもういないんですよね」との発言や、「国会決議が何の議論もなく通ってしまった」「旧土人保護法がアイヌの生活を向上させる役割を続けてきた」との主張の誤りは明らかです。金子議員の民族問題に関する理解は、極めてお粗末と言わなければなりません。
 中国のチベット族やウイグル族問題を例に出して、民族には紛争という言葉がつきものですとしていますが、民族問題のあらわれ方は、歴史的背景や地理的、社会的な条件によって全く異なることが常識です。国民国家への移行の過程における同化政策や権利回復が問題とされている先住民族問題と、国家の統合や分離をめぐって衝突している民族問題を同列に扱う議論は、論理的に成り立たないと知るべきです。また、同じ日本人として平和に暮らしているのにという言いわけは、民族問題や差別問題に無理解か、意図的に目を背けようとする人が使用する常套句であることを指摘しておきます。
 さらに、アイヌ民族にかかわるさまざまな施策や事業を利権、特権と決めつけていることは、余りにも短絡的です。戦後も旧土人保護法が半世紀にわたって生き続け、就職や進学などで差別され、北海道が実施した生活実態調査においても平均的な道民との経済格差は解消されていません。憲法に基づき、格差是正のために積極的な措置を講ずることは、民主主義国家として当然であり、私たちの責務でもあります。
 制度や事業の運用面で不備や不正と思われる点があれば、それを正していくことは当然のことと言えますが、利権、特権と断ずる根拠は何も示されていません。ましてや、「私も選挙に落ちたら〇〇〇になろうかな」との書き込みは、差別意識がそのままあらわされているものです。差別の再生産をやめようと言いながら、アイヌ民族に対する憎悪や差別を扇動しているのは金子議員自身であります。
 以上、金子議員がアイヌ民族なんてもういないとするさまざまな説明に対して、その誤りを指摘してまいりました。滅び行く民族とされる苦難の歴史を強いてきたのは、ほかでもない私たちが住む日本という国家です。そして、アイヌ民族であることを隠して生きなければならない社会が今も存在します。
 国連人種差別撤廃委員会は、8月末、日本の人権状況の悪化に強い懸念を示し、日本政府に対して、国連人種差別撤廃条約に依拠して民族差別禁止のための包括的な立法措置をとることを強く求めています。また、国連人権委員会からは、アイヌ文化振興法を見直し、アイヌ民族の政策立案や土地などに関する権利を保障すべきとの勧告が出されている国際社会の現実に、私たちは誠実に向き合う必要があります。
 もとより、議会及び議員は、言論の自由のもと、さまざまな課題について議論、発言することにより、市民の負託に応えることが期待されています。しかし、何を言っても自由であり、許されるということではありません。誤りを認めずに、自分に都合のいい断片的事実や根拠のない言説をつなぎ合わせて自説に固執する態度をとり続けることは決して許されないとの姿勢を札幌市議会の決意として示すべきと考えます。
 最後に、アイヌ民族の権利回復と民族の誇りが尊重される共生社会の実現に向けてさらに歩みを重ねることを誓い、同僚議員の皆さんの賛同を心からお願いして、提案説明を終わります。ご清聴、ありがとうございました。(拍手)

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