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【PIT】遂に覚醒したMitch Keller【🔰】

開幕から絶好調でリーグ最速20勝を挙げたものの、その後13試合で2勝11敗と序盤からジェットコースターの様なシーズンを送っている現在NLC2位のPittsburgh Pirates(PIT)。

そんな中で開幕から素晴らしい投球を続けているのが今季開幕投手を務めた27歳・Mitch Kellerです、直近の2勝も彼が先発して勝ち投手になっています。今回は彼について紹介したいと思います。


Kellerは2014年ドラフトで2巡目(全体64位)指名されると、18年開幕前には各媒体のプロスペクトランキングで20位以内に入るなどエース候補として期待された元トッププロスペクト。

19年にMLBデビューを果たすもMLBの舞台でなかなか結果を残せず。3年目の21年は23先発/100.2回をこなしたものの、防御率は6.17とお世辞にも良いとは言えない数字です。

しかし、21年シーズン終了後に転機がありました。元チームメイトの勧めでTread Athleticsという施設でトレーニングを積む事にしたのです。日本でもDriveline Baseballは有名ですよね、あの類の場所です。

そこで投球フォームを修正した事で、デビュー時から1.5mph(2.4キロ)以上低下していたフォーシームの平均球速を取り戻す事に成功しました。余談ですが練習メニューの中には“Kikuchi Drill”という菊池雄星の名が付いたものもあったそうです。

また21年オフにはスイーパーを、そして22年シーズン中にはシンカーをレパートリーに追加。このシンカー習得のアドバイスをしたのがClay Holmes(NYY)ですね、Tread Athleticsを紹介した“元同僚”でもあります。

球速アップ2種類の新変化球、そしてMLBで打者を抑える事で付いた自信を武器に、22年は31登板/159.0回を投げ防御率3.91を記録。4年目にして遂にローテーション定着を掴みました。


では、今季の登板は「昨季確立した投球スタイルをそのまま継続出来ているから」かというと違います。今季のKellerは昨季から更に進化を遂げているんですね。今回ピックアップしたいのは特に2点です。

まず1つはスイーパーが更に大きくなっている事。日本では大谷翔平の影響で急速に広まりましが、スイーパーは「あまり縦に落ちず横に大きく変化するスライダー」の事を指します。

statcastによるとKellerのスイーパーは昨季横方向に17.4inch(44.2cm)動いていましたが、今季は19.3mph(49.0cm)に増加。ホームベースが17inchですから、打者に当たりそうなところから外角へ逃げて行く様な動きですね。

また、“vs Avg”という項目もあります。これは「同じ球速・リリースポイントで投げられたスイーパーと比較した変化量」というもの。このvs Avgが昨季はMLB全体3位の+3.5だったのが、今季はMLB全体1位の+4.9を記録しています。

つまり、KellerはMLBで最も想像以上の変化をするスイーパーを投げる投手と言えるのではないでしょうか?その影響かHard Hit %が38.2→20.0と95mph(153キロ)以上の打球が昨季からほぼ半減しています。

そしてもう1つはジャイロ回転のカッターを投げ始めた事です。以前もカッターに分類されるボールは持っていましたが、もっと球速が遅くて変化量の多いスライダーに近いものでした。

横変化のスイーパーとツーシーム・縦変化のカーブとチェンジアップの中間になるボールであり、右打者に比べれば苦手だった左打者にも有効なこの球種をKellerはフォーシームに次ぐ割合で投げ込んでいます。

フォーシーム】25.9% / 95.5mph (153.7キロ)
【 カッター 】24.3% / 90.7mph (146.0キロ)
【 シンカー 】20.1% / 94.1mph (151.4キロ)
【  カーブ  】12.8% / 78.1mph (125.7キロ)
【 スイーパー 】12.7% / 83.1mph (133.7キロ)
チェンジアップ】4.2% / 91.0mph (146.5キロ)

【球種】投球割合/平均球速

19-21年は打者の左右に関わらずフォーシーム中心でしたが、現在は右打者ならシンカーとスイーパー左打者ならフォーシームとカッターを軸に6球種を投げ分ける投球スタイルになっています。


それでは続いて、今季ここまでの登板結果を見てみましょう。日付は全て現地時間となります。

03/30】4.2回┃自責点4┃
04/05】7.0回┃自責点1┃ HQS
04/11】6.0回┃自責点2┃  QS
04/16】6.0回┃自責点3┃  QS
04/21】6.0回┃自責点2┃  QS
04/27】6.0回┃自責点2┃  QS
05/03】5.0回┃自責点1┃
05/08】9.0回┃自責点0┃ 完封
05/14】7.0回┃自責点0┃ HQS

開幕戦こそ5.0回持たずの降板となりましたが、その後はバツグンの安定感を見せてここまで9試合で7度のQSを達成しています。5月3日は5失点したものの、2度のタイムリーエラーがあったため自責点は1でした。

しかし、その後の2登板は圧巻。5月8日は7連敗中だったチームを救う自身初の完封勝利を飾り、続く15日はチーム史上初となる「7.0回/13奪三振/0与四球/無失点」の快投を見せました。

開幕戦に4つ出して以降は(1試合で)与四球を2つ以上出していませんし、4月16日を最後に被HRを許していないので、TB戦の様に守備が乱れなければ大崩れする心配はないですね。

さて、それでは最後に(まだ9登板ではありますが)彼が残している成績でリーグトップクラスのものを紹介しておきましょう。

勝 利】 5 (リーグ4位)
投球回】56.2 (リーグ3位)
奪三振】69 (リーグ3位)

防御率】2.38 (リーグ6位)
【  FIP  】2.63 (リーグ4位)
xERA】3.21 (リーグ5位)

rWAR】+1.6 (リーグ8位)
fWAR】+1.7 (リーグ3位)

※WARは投手のみ

防御率とFIPに比べればxERAが若干高いですが、これはBarrel%が高いからですね。特にカーブとチェンジアップの数字が悪いので、(この2球種を多く投げる)左打者には今後も要注意でしょう。

とはいえ、3点台前半なら優秀そのものですから多少数字を落としても閉幕までローテを守れれば、Cy Young Awardでポイントを得る事くらいは出来るかなと。 ※PITでは15年のGerrit Cole(40ポイント)とMark Melancon(5ポイント)以来

GMのBen Cheringtonは昨年のKe'Bryan Hayes・今年のBryan Reynoldsに続いて更なるエクステンションに意欲を見せており、その候補にKellerが含まれていると明言しています。

1ヶ月半良かっただけの投手なんて腐るほどいますからまだまだどうなるか分かりませんが…ここに至るまで一つ一つ課題を克服してきたKellerであれば大丈夫だと信じています。

HayesとReynoldsに次ぐ三本目の“再建の柱”に、そしてCole以来の“エース”としてチームになって貰いましょう。


【参考文献】


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