【PIT】OSCAR MARIN投手コーチの挑戦
我らがPittsburgh Pirates(PIT)はここまでシーズンの1/3以上を終了し、32勝27敗で地区首位に付けています。開幕からの勢いは失われたものの、多くのMLBファンの予想を裏切る健闘ぶりと言えるでしょう。
Andrew McCutchenやCarlos Santanaらが若い選手達のメンターとなり良いチームケミストリーが生まれている事ももちろん大きいですが、見逃せないのが「投手陣の奮闘」です。
今季開幕時点でのペイロ-ルを見ると、$1.0M以上の契約をしている投手は昨オフに獲得したRich HillとVince Velasquez・Jarlin Garciaを含む下記6人のみ。残りはまだ調停権を得ていない若手やジャーニーマンです。
このサラリー投手上位6人を足しても$20M程度で、これはRobbie Ray(SEA)やKevin Gausman(TOR)・Joe Musgrove(SD)といったスターター1人と変わらない金額ですよ。
※ここから紹介する成績は現地6月4日のSTL戦終了後のものです、投稿日から始まったOAK戦は含まれていませんのでご注意下さい。
それにも関わらず、ここまでのチームの投手成績を見るとfWAR +6.1はMLB全体で10位・rWAR +6.6は6位。どちらでもPITより高いチームはATL,HOU,MINの3チームしかありません。
昨季はfWAR +9.5が23位・rWAR +3.7が29位とMLB最低クラスだった投手陣が、なぜ大きな補強もせず劇的に改善されたのか。今回はそのキーマンについて書いていこうと思います。
PITは2019年のオフ、球団社長・GM・監督を一新して新たなスタートを切りましたが、前体制は明らかに投手育成に問題を抱えていました。PITでは頭打ちだったGerrit ColeやTyler Glasnowが、移籍して直ぐにその才能を開花させたのがその代表例でしょう。
そこで白羽の矢が立ったのが選手としてプロ経験はないものの、「選手とのコミュニケーション能力」と「データの分析・活用」に定評があった当時37歳のOscar Marinです。
元々は高校で投手コーチをしていたMarinですが、10年からTEX傘下マイナーで投手コーチを務めると、17年からはSEA傘下マイナーでピッチングコーディネーターに。そして19年はTEXに戻り初めてMLBでブルペンコーチを務めていました。
まずはこちらをご覧ください。
これが何の数字か皆さん分かるでしょうか?19年にMLBで最も割合が多かったものの、Marinが就任した20年に激減。それからは安定していたものの、今季はそこから更に割合が減ってMLBで最も少ない部類になっていますね。
これは「ファストボールの投球割合」です、この4年でファストボールの割合は17.4%も減っています。言い換えれば「変化球を積極的に投げさせる」のが彼の方針なのです。
この分かりやすい成功例がJose Quintanaでしょう。かつてはMLB指折りのワークホースとして知られるも、21年はLAA/SFで結果を残せずにシーズン途中からはブルペンに回されていました。
しかし、21年は58.6%・通算でも59.1%と多く投げ込んでいたがファストボールを49.5%まで減らすと、22年はTDLまでに20先発/103.0回を投げてERA 3.50/FIP 3.23と見事に復活。TDLでは同地区のSTLへトレードされました。
他チームより条件は安かったもののローテ確約して1yr/2.0Mで獲得したベテランが、今季開幕からローテを守っているJohan OviedoとプロスペクトのMalcom Nunezに化けた訳ですから目論見は大成功です。
さて、それでは「なぜ今季投手陣が劇的に改善されたのか」という本題に戻りましょう。ポイントは20-22年に横這いだったファストボールの割合が、今季は更に減っている事です。
昨季と今季で各球種の割合を比較すると、ほとんどの変化球は誤差の範囲で収まっているにも関わらず、1球種だけ明らかに割合がボールがあります。21.0%(18位)から30.1%(2位)になっているスライダーです。
statcastを見ると昨季のPITはZone%が39.7%(28位)とワーストクラスで、ストライクゾーンに投げられていませんでした。以前にもインタビューで「staying aggressive」と語っていたMarinがこれを放置する訳はありません。
この春に「最もストライクを取れるボールをゾーンに投げ込む」という方針を掲げてそれぞれの持ち球を精査したところ、多くの投手はそれがスライダーだったそうです。
今季ここまでPITで10.0回以上投げた投手は14人いますが、それぞれ最も投球割合の多い球種がこちら。
今回は便宜上“ファストボール”で纏めているので、フォーシームとツーシームを区別すればまた違った結果になるんでしょうが…14人中6人がスライダーを40%以上投げています。
特にVince VelasquezはMLBのスターターでスライダーの割合が最も多く、Roansy Contrerasが5位、Johan Oviedoが7位となっています。 ※スターターとして10.0回以上投げた投手が対象
各投手の投球スタイルを見直した結果、今季のZone%は42.3%(11位)で平均以上まで改善しました。有利なカウントで勝負出来ればバッテリーが主導権を握れますから、打者を抑える確率は当然上がりますよね。
また、興味深いのは今季開幕から2番手Cを務めているJason Delayは「昨季よりも打者がファストボールにうまく対応している」と発言しており、Marinはそれを今季から導入されたピッチクロックの影響だと考えている事です。
これまで打者は頻繁にバッターボックスを外し、ゆっくりと狙い球を絞れました。今季からはその時間が無くなったため、他チームではまだ比率の多いファストボールを待つ事が増えたのではないかという事ですね。
savantではカッターもファストボールに含める様ですが、今回はSports Info Solutionsに合わせてフォーシームとシンカーのみにしています。
こうして見ると、確かに昨季より今季の方がファストボールに対する成績は良いです…が、正直なところ思ったほど差はありませんでした。試しにカッターも含めた成績も出しましたが、そちらも上記とほぼ変わらない結果に。
「現場ではこの程度の差でも敏感に感じている」のか、それとも「単なる気のせい」なのかは分かりませんが、もしルール変更の影響で変化球の割合を増やした事が追い風になったのなら面白いですよね。
どちらにせよ他チームは間違いなく研究・対策してくるので、今の投球スタイルが通用するのもそう長くはないでしょう。Marinの次なる一手にも期待です。
【参考文献】
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