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メディアが立ち上がらないまま、半年でプロジェクトをつぶしてしまった編集者の反省

久しぶりに、自信を喪失してしまった。

クライアントには本当に申し訳ないんだけれど、企業のオウンドメディアの立ち上げをまかされて、キックオフから半年経っても、メディアを開設することすらできなかった。記事が読まれないとか、競合企業のメディアに負けてしまったとか、そういうことじゃなくて、自滅だ。

なぜ、こんなことになってしまったのだろう――。

僕という編集者の視点からして、そのプロジェクトのまずもっての特徴は、自分がまったくの門外漢といえるインダストリーの企業を支援する、ということだった。

これまで、例えば、「これからの新しい働き方」だとか、そういうテーマなら、海外で暮らしていたり、小さい会社の経営をしていたり・・・・・・ こんな自分にも少しはなにか、自分の言葉で人に伝えられることが少なからずあったと思う。

だけど、今回はそうではなかった。読者がなにを求めているのかも、そんな読者になにを伝えてあげればいいのかも、分からない。だから僕は、クライアントが持っている正解を引き出し、それをよりよく伝えることに徹しようと決めた。

このブログを書いている現時点でも、果たしてこの判断が正しかったのかは、よく分からない。つまり、そのインダストリーのことをまったく知らない編集者が、その仕事を引き受けるべきなのか、ということについて――。

だけれど、正しかったとは信じたい。なぜなら、「これからの新しい働き方」にしたって、別に僕がプロジェクトチームのメンバーでいちばん詳しいわけでもなんでもない。それでも、成り立っているメディアだってあるのだから。

ただ、当たり前だけれど、自分が門外漢であるということは、その分だけ、他の人の力を借りなければならない、ということだ。「他の人の力を借りる」と、口で言うのは簡単だけれど、適切な人に、時間や労力を割いてもらう必要がある。

そこには、「今度、新しく自社のメディアを始めることになったので、協力してください」だけでは通じない、経営者、マネジャー、現場のメンバー、それぞれの事情が働くわけで、社内政治に不慣れないち編集者にとっては、途端に難度が上がるのだ。

では、メディアを運営するうえでは、どんな「他の人の力」を借りる必要があるだろう。僕は、編集部には、少なくとも「3人の人物」が必要だと思っている。

一人は、プロデューサー。デジタルマーケティング戦略全体を理解し、その戦略の中でオウンドメディアをどう位置づけ、他の施策とどう統合させるかを設計し、さらにメディア運営の予算管理をする人だ。

もう一人は、ディレクター、いわゆる編集長。読者の持っている悩み、彼らに伝えるべきメッセージを理解している、あるいは、理解している人を巻き込むことができる、ということにおいて、プロデューサーからの信頼を得て、まかされている人だ。

そして最後が、クリエイター。編集長が承認した読者に伝えるべきメッセージをかたちにする、編集者やライター、フォトグラファーやデザイナーなど。

欲を言えば、制作したコンテンツを拡散するのに長けている、SNSや広告などの運用担当者や、記事へのアクセス数や流入キーワードなどを分析し、次回以降、あるいは既存のコンテンツのパフォーマンスを伸長させるアナリストがいると、なおよい。

中には、一人で、プロデューサーとディレクターを兼務したり、ディレクターとクリエイターを兼務したり、という人もいるので、一概に「3人」とは言えないけれど、これだけの役割を編集部というチームにそろえ、かつ、だれが、どの役割を担うのか、明確にする必要がある。

うまくいかないパターンは2つある、と思っている。

一つは、そもそも、そうした役割がチームにそろわないこと。デジタルマーケティング戦略が不在にも関わらず、オウンドメディアを始める。短期では業績に直接的な成果に結びつきにくい施策にも関わらず、予算に余裕がない。読者のことについて社内でもっとも詳しい人を巻き込めない。プロのクリエイターに相応しい報酬を支払えない、など。

もう一つは、役割はそろっているが、それが一人に集中しすぎて、キャパオーバーがボトルネックになること。例えば、決裁権は社長が持っていて、読者についてもっとも詳しい(と少なくとも本人が思っている)のも社長、だけど、その社長は忙しくて、編集会議への参加すらままならない、だけど、メンバーには権限や予算が委譲されていない、のような。

「他の人の力を借りる」というのは、これだけの不足をなんとかする、ということだ。

デジタルマーケティング戦略が不在なら、考えなければならない。短期では直接的な成果に結びつかないことを正直に伝え、理解してもらわないといけない。読者について詳しい他部署の人に会議に出てもらわなければならない。クリエイティブの重要性を説得しなければならない。

あるいは、忙しい社長に、メディアの重要性を納得してもらい、毎回会議に出てもらわないといけない。それができないなら、「現場にまかせてください」と言わなければいけない。言っても聞かないなら、現場の人たちを、社長にまかせてもらえるだけのチームに育てないといけない。

それができないのなら、あるいは、それをやるだけの気概がないのなら、「御社のために、いまはオウンドメディアをやるべきではありません」と伝えなければならない。それはある意味、自分のプロジェクトマネジャーとしての限界を認めることでもある。

今回、プロジェクトのキックオフから半年経っても、メディアを開設することすらできなかった原因、僕の落ち度はここにある。

自分がどれだけ大変なことを成し遂げなければならなかったのか、分かっていなかった。分かっていたとしても、引き受けるだけの覚悟があったか――。いや、白状すると、その覚悟がなかったから、好転しない状況をただただ静観していた時期もあったのだ。そんなことをしているうちに、プロジェクトは当然、打ち切りになってしまった。

こんなことがあって、僕は何人かの編集者仲間に愚痴を聞いてもらった。

「そういうことあるよ」「相性がよくなかったね」「大きい会社と仕事すると大変だね」「これ以上、傷口が広がらないうちに終わって、クライアントにとってもよかったんじゃない」「もっと自分が得意な仕事、やりなよ」・・・・・・救われたし、そのとおりだと思う。いまどき、自分が得意じゃないこと、わざわざやる必要なんてない。

だけど―― このまま、自分ができないことをそのままにしておきたくないのが、僕の性格なんだと思う。それに、この失敗を次に活かして次こそ貢献する、そのこと以外にクライアントにできる還元なんてない、とも思ってしまう。

このままだと、ただの自己満足で終わってしまう。そうはしたくない。

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